エイス
毎度の2話同時です
「私、リヴィアのとこに行く!」
そう言って、リウスは出口へと歩いていく。
まったく、これがリウスかと、思い知った。これがリウスの行動力。でもなければ、真夜中に月明かりだけで俺らのとこにはこない、か。仕方がない。もともとリヴィアのところに行く予定ではあったのだ。そこにリウスが加わっても問題ないだろう…まったく、リウスを救うためにリヴィアのとこに行くはずだったのに、リウスを突っ走らせないためにリヴィアのとこに行くことになるとは…皮肉が過ぎる。まぁ今さら、少し力が強い子どもが2人から3人に増えたとして、あまり変わりはないだろうしな。ミレイユは子どもだけど子どもじゃないってことで、一緒におもりをしてもらおう。
「まてリウス!リヴィアのとこに行く方法は知ってるのか?」
「知らない!見つける!!」
リウスならまじで自分で見つけそうだ。しかしそれは、何十年も後になって、いまほどの怒りは止んでいるころだろう。せっかくだから俺も、リヴィアには友達を大切にしてほしい。そして友達と一緒にいられる喜びを知ってもらいたい。
「俺たちは知ってる。だからリウス、一緒に来るか?」
「一緒に行く」
まぁ星神話を知れば神獣へとすぐにたどり着くだろう。しかし、ピンポイントでインヴィクルがいる冥府がある冥界に繋がる鍵を手に入れられるとは思えない。さらに問題なのは、その鍵に合う門を見つけることだ。そう簡単にはリヴィアのところへいけないだろう。
まずは行動だ。と、俺は計り知れない価値がある石盤を回収して、リウスの妹を異空間へ入れ、人質を回収して施設を後にした。
「いたたたた…」
ヴァーン達が施設を後にしてしばらく。メガネをかけた青年が目を覚ました。
「ここは…どうやら戻ってきたようだね。まったく、酷いなぁカミサマは。こんないたいけな人類を雑に置いていって」
その人格が崩壊した気色は見えない。むしろ顔色は、いままでよりも良くなったと思えるほどだった。
「ヴォルス、ドゥッヒェン」
「「はっ!!」」
「悪いね、君たち。敵を前にして、呼ぶまで姿を隠せ、見つかるなって命令なんて出しちゃって。疲れただろう?」
ボイドという青年はヴァーンが施設に侵入した直後にヴォルスとドゥッヒェンに身を隠せと言った。最高戦力は隠しておくのが定石だ。かくし球とは、相手に致命的となりうる状況で切らねば、隠しておく意味がない。しかしこの二人を使う前に冥府へと連れていかれたボイドは、使わなくてよかったとさえ、いまは思っていた。なにせ…
「ゆっくりと休んでほしいけどその前に。フィフスに伝言をお願いしてもいいかな?」
「はっ、なんなりと」
「勇者が貴重な実験体を連れ出したことかな?勇者の即時抹殺命令かな?」
そう。貴重な伝令役でもある彼ら。彼らが死んでしまっていては、置き手紙で知らせなければならなかった。その内容は置き手紙ですませられるものではないから、助かったとも言える。その内容と言えば
「いまこの時を以て、僕。エイスはインヴィクルを脱退する、とね」
組織の脱退。これを置き手紙で済ませられると思えるほどボイドは楽観してもいなかったし、けじめもつけないといけないとは思っている。
ふっと、目の前の二人の姿が消える。ボイドは気にせず、佇んだまま。目を瞑っておどけたまま、二人のその行為を許容する。
ヴォルスとドゥッヒェンはそれぞれ、ボイドの口を抑えるため。心臓を抉るために、ボイドへと手を突きだしていた。しかしあと数メートルもないところで体の動きを止められている。
「まぁ、分かりきっていた行動なんだけどね。でも、君たち。よーく考えてほしかったかな。僕が脱退するっていう情報を持ち帰るか、組織の裏切りを許さないという規則に殉じて死ぬか。どっちが大切かなんて、一目瞭然だろうに」
「どこからそのような力が、か…ふ…」
「かはっ」
ヴォルスとドゥッヒェンは下から、まるで雑巾が絞られるようにねじれて息絶えた。血も臓物も、なにも飛び出ず。ただただ体だけがねじ切れていた。
はぁ、やれやれとボイドはため息をついて首を振る。しかしその行為を咎める声が背後からした。
「一大事に、何を呑気に」
「おお!探す手間が省けたよ、フィフス。彼ら、何を勘違いしてたんだろうね。邪神教の序列の意味をさ。ドゥッヒェンのサーティフィフスとヴォルスのサーティセブンスっていう中途半端な強さだったから仕方ないのかな?半端に便利な能力を持ってるから、自分が強いっていう勘違い。対し上司である僕は研究浸けの毎日。知らなかったのかな?それとも純粋に冗長したのかな?勘違い?ま、とにかく彼らは無駄死にしたわけだ。大人しくしてれば、すぐにこうしてフィフスが来たというのに。邪神教の序列は純粋に、強さのみで決めたものだって、知らなかったから。僕が研究ばっかで、その成果でエイスにまで上り詰めたって、勘違いしたから。瞳の奥にある僕への侮蔑も隠さずに」
「そう責めるな、エイス。こいつらのお陰でお前が本気かどうか見極められたんだ」
「それもそうだね、フィフス。それで、フィフス。僕と君の仲だ。特例で、見逃してくれないかな?」
「それは無理だな、エイス」
一気に、空気が緊張する。
「前々から常々思っていたんだ。フィフス、君は頭が固すぎる」
「お前は逆に、ふやけているぞエイス」
衝突する力。フィフスはいままでに、数多くの研究の成果を身に修め、さまざまな能力を得てきた。加速、未来視、多次元存在、魂撃。大きなものといえばこれだ。
対しエイス、ボイドは自分の研究に付きっきり。邪神教に入ったときの序列こそボイドの方が高かったが、数多くの研究に関わりその成果を得てきたフィフスに後を越されているのだ。
拳を突きだすフィフス。ポケットに手を突っ込んだまま、その拳を空中で止めるボイド。
「腕を上げたね、フィフス」
「昔から!!その飄々とした態度が気に入らなかった!!そんなお前が軽々と俺を越えていくのが気に入らなかった!!」
前進するフィフス。後退するボイド。
「だが今回こそ、お前を越えたと証明してみせる。お前を殺して、俺の方が強いと証明してみせる!!」
「そうかい」
「っ!!」
攻撃の苛烈さが増す。多次元存在も駆使して、ボイドに攻撃する暇を与えない。しかしそれでも、ボイドのちゃらけた雰囲気は崩れない。
「そうだなぁ…僕は君が、わりと好きだったよ。自分とは真逆の考えを持つ人間なんて、興味深いにも程がある。でも、さすがに命を無駄にするのは許容できなかったかな。僕は研究には必要な犠牲があると考えている。けど同時に、必要じゃない犠牲はあるべきではないとも考えている。対し君は?不必要な殺戮を経て、無駄に命を散らして。知恵ある人類がその叡智を以てすることじゃない。しかもインヴィクルという組織全体が君の考えに染まってきているときた。さすがに、真反対の考えをもつ僕は邪魔だろう?どれほど僕の研究が君たちに貢献していても、異端分子である僕は、遅かれ早かれ排斥されていた。それが見えていたから、僕は自分から抜けることにしたのさ」
「その最後を俺が看取ることになるとはな!!」
フィフス渾身の一撃が、ボイドに放たれた。しかしボイドはやはりその攻撃を正面から受け、止めずに背後へと大きく宙返りをして悠々と着地する。
「研究漬けのお前が、なぜそのような力を持っている!?」
「理由は二つある。君、左腕を庇っているね?異次元の影を使ってなんとか誤魔化しているけど、僕相手に誤魔化しきれると思っていたのかな?肉体的に外傷はない。けど、どうやら左腕の魔力回路の大動脈がやられている。そうだろう?」
「ちっ、さすがに、何度も競ったエイスか。もう一つはなんだ?エイス」
「それは僕が、宇宙の真理を知ったからだよ」
「宇宙の真理?宇宙の真理と言ったか?ふふ…ふはは…ふっはっはっはっはっは!!これは滑稽だ!神の存在証明をするために無駄と切り捨ててきた宇宙の真理とやらを知って、頭が狂ったか!?」
「逆だよフィフス。正気を取り戻したんだ。思えば、そうだ。最初は、人類とは何で、何処から来たのか。何処へ行くのか。それを知りたかったんだと、思い出した」
「はっはっは、はーーー……大いに笑わせてもらったよ、エイス。もう、冗談はいい」
涙を浮かべて呼吸を整えるフィフス。その涙の意味は、果たして。
「冗談?冗談じゃないさ、フィフス。宇宙の真理を知った僕はもう、人類の誰よりも強いと自負できる」
「ほう?」
「なにせ、僕の力との相乗効果が凄まじくてね。望むだけで魔法が使えるようになったんだ。全ての魔法とは言えないけど、得意魔法だけはね」
暫しの静寂。しかしすぐに、フィフスから笑い声が漏れだしていた。
「もう、冗談はいいと言ったろうエイス!!」
瞬間、濃い魔力の奔流が溢れでた。それは確かな力を持って、拠点をひしゃげさせる。しかしエイスは飄々とした態度を崩さない。それにさらに怒りを覚えたフィフスは、全力を右の拳に込めた。
「さぁ、もう終わりにしよう。いままで、楽しかったよ、フィフス…いや、ジェイド」
「ああ、終わりだ。死ね、ボイド」
無数の影を使って、ボイドへと神速の剛撃を繰り出すフィフス。しかし、結果は…
「な…ぜ…」
「簡単さ。宇宙の真理を知った僕は、君の影も認識できた。認識できれば、僕には攻撃できる手段がある。君、最後まで僕の能力を勘違いしていただろう。君は色んな研究の成果をものにしたようだけど、結局は力任せ。ま、純粋にそれが強いんだろうけどね?でも、覚えておくといいよ。どれほど大きな力でも、宇宙そのものには勝てない。その宇宙で得た力である限り、その力も宇宙の一部なんだからね。それじゃ、後はよろしく頼むよ、フィフス。僕にはこれから、やりたいことができたんだ。宇宙の真理をそのまんま知ったところで理解できる人間がそう居るとは思えないからね。邪魔をしてくれるなよ?お兄ちゃん、怒るから」
そう言い残して、ボイドは満身創痍のフィフスを置いてその場を後にした。急所を外されたフィフスは悔しさからか、どうだろう。地面を濡らして、しばらくそのままでいた。
第44話にいれ忘れの話を入れました…大変申し訳ありません




