夜王
しかし、リウスの意識が戻ったからには再び冥府に行く必要はない。龍玉回収のため、インヴィクルを潰していくというのを続けていくか…
「この、起きて!!」
と、リウスの身柄も含めこれからどうするかを考えていると、目の前にいたはずのリウスの声が後ろから聞こえてきた。それに加え、タシタシという音も聞こえてくる。振り返ると、リウスが転がっているメガネの顔を踏んでいた。
「り、リウス!?なにして、いけませんリウス!」
「この人にもっかいあそこに連れてってもらうの!それで、リヴィアを怒る!」
リウスは一方的に別れを告げたリヴィアに文句を言いたいようだった。しかしメガネはおそらく、もう目を覚ますことはないだろう。宇宙の真理とやらがどれほどのものかはわからないが、選ばれた人間でもないかぎりは、それを一度に頭に突っ込まれては脳に相当な負荷がかかるはず。運がよくて、人格の崩壊くらいだ。
しかたない…と、俺はリウスが入っていた機械の操作方法を見当する。これが科学的なものならば、現代の知識が。魔法的なものならば、龍としての知識が役にたつはずだ。その両方ならば、その両方を持っている俺にもわかるはずだろう。
俺は操作盤のようなものを一瞥し、俺はなるほど、と頷いた。
「さっぱりわからん」
そりゃそうだ。操作盤らしきものは、ただの石盤で。沢山のコードが集中しているだけで、スイッチやらなにやらはない平たいものだった。しかし、隣で立っていたミレイユがふむ、と一息つく。
「これは珍しいものじゃな」
「珍しいもの?」
「うむ。このアルヴテリアでも、この鉱物はそう存在しないのじゃ。その生成が特殊での。普通は妾の拳程度の大きさのがウェイズ…じゃったか?1億ウェイズするはずじゃ」
幼女の拳大で100億円!?地球の貴金属の比じゃないぞ!?
「その性質も特殊での。生成が特殊ゆえ、その生成になぞらえた性質なのじゃ。その性質とは、物質と魔素の融合。そんな鉱物がこれほどの大きさとは…インヴィクル、舐めてかかると厄介じゃ、おとん」
これを見て、ミレイユが初めてインヴィクルを警戒し始めた。拳大で、100億円。では目前にある鉱物の価値は計り知れないだろう…なにせ、その大きさは、畳一枚分ほどもあり、厚さは20センチメートルほど。おそらく、これ一枚で国が揺らぐ。その価値を知っている大国であればあるほど。そして、世界対戦が勃発しそうな勢いだろうな。
「これは起動装置とみていいじゃろう。して、起動するだけでこの機械は正常に動作するはずじゃ」
「え、ミレイユそんなこともわかるの?」
「考えてみるのじゃ、おとん。科学とは、言い換えれば物理現象じゃ」
「なるほどな…なるほど?」
よくわからんが、ミレイユにはわかるようだった。そして俺たちはなんとかリウスをなだめ、リウスに装置に入ってもらう。
「準備はいいか?」
「いいよ、はやくリヴィアを連れてこないと」
ん?と俺はリウスを二度見した。いま、リウスはなんて?リヴィアを連れてくると言ったか?
「ま、まってミレイユ起動しな――」
「む?もう起動したのじゃが」
「えぇっ!?」
確かに、リヴィアは心優しい少女なのかもしれない。しかし危険なことには変わりがないのだ。そんなリヴィアを連れてきて大丈夫なのか、安心はできない。
しかし、俺の心配は杞憂に終わった。それは…
「なんで!?リヴィアのところにいけない!」
そう、冥府へと行けなかったのだ。
「機械は正常に作動しておる。リウスの意識は妹と同化したはずじゃ。しかし、行き先の冥府に拒否されておるようじゃ」
「なるほど…リヴィアが、リウスがもう戻ってこないようにって閉じ籠ったのか」
「なに…それ…なにそれなにそれなにそれ!!」
リウスが叫んで地団駄を踏む。よほど悔しいというか、怒っているのか、リウスの体からは相当濃い魔力が漏れ…え?
「み、ミレイユあれって」
「うむ。信短と同じ形質の魔力じゃ。しかも、人間には持ち得ないほどの量を垂れ流しておる。リウス自身の中には、さらに多くの魔力があると見ていいじゃろう」
試しに、俺はリウスの権限を覗いてみた。
名前『リウス』
位『最高位』
種族『純血:アルヴヒューマイクシス(???)』
権限『耐久力1』『耐性4』『筋力2』『魅了3』『再生8』『夜目9』『忍び足5』『熱魔法:暖4』『熱魔法:冷3』『運動力魔法3』『大地魔法2』『空間魔法2』『闇魔法7』『万能魔法4』『真祖』『威圧3』
上位権限『夜王』
特殊権限『夢の支配者』『贖罪の導き』『魔眼:夜』『未覚醒』『将来の約束』『上に立つもの』
権能『使徒』『主神の加護』
おいおいおいおい、これはやべえ。権限のほうは劣化リヴィアという感じだ。しかし、なんだ。上位権限の『夜王』ってのがやばい。その効果は、夜に限り自身の能力を向上させるというもの。幸い今が昼だから良いが、夜になったらリヴィア並みの能力を発揮するだろう。そして、信短も持っていた『真祖』の権限。これは種族の祖という意味で、その種族が持ちうる特性を全て持つことができるというものだ。そう、先天的後天的関係なく、である。
例えば、ヴァンパイアの真祖がいて、その子供が努力して吸血しなくても生きていられるようになったとしよう。そしたら真祖は子供のその特性を得て、真祖も吸血なしで生きていられるようになる。種族を繁栄させればさせるほど、その恩恵は大きくなる。しかも『真祖』の能力は、その全てがいいとこ取りなのがすさまじくずるい。銀に極端に弱いという特性は持たず、吸血すれば身体能力が大幅に上がるといういいとこだけを享受できるのだ。ずるすぎる。
そしてこの権限の凶悪なところは、対象の種族は関係なしに、対象を自身と同じ種類にできるというのだ。これもヴァンパイアで例えると、ヴァンパイアの真祖は人間でなくても、獣や木、土だって同じヴァンパイアにできる。まぁ抵抗、免疫されてしまえば防がれるが、それでも凶悪な権限であることに変わりはない。
さらに怖いのは、特殊権限だ。どれもが不穏な響きしか持っていないが、特にもしかしてってものが、『魔眼』の権限。これはやばい気がする。
『魔眼:夜』――認識するもの全てに効果『夜』を与える
はいきたこれ。だめでしょこれは。『夜王』のデメリットを消す権限与えちゃいかんでしょ。時間制限があるかわりに爆発的な効果を得る能力をパッシブにする能力はぶっこわれって言うんだよ。
権限の性質は大きく2つに分けられる。その権限があることで効果を"得る"権限と、その権限があることで効果を"与える"権限だ。
権限は行程が一つ増えるごとにその効果を大きく減らす。魔法が分かりやすいだろうか。例えば権限『運動力魔法3』を持っているとする。この権限を持つものは、『運動力魔法3』を使える能力を"得る"のだ。これで一行程。そして得た能力で、『運動力魔法3』相当の効果を現実に発揮…空気の運動力を操って風を作る。これで二行程。しかし与える権限は、"得る"という行程がない。つまり、無駄がないのだ。無駄がないため、純粋に強い。
"死"という状態変化を与える能力を持っているとする。これに抵抗できるのは、『不死』の権限か『復活』の権限かくらいかだろう。この二つのどちらかを持っているかでやっと、問答ができる程度。持っていなければ話にもならずに死ぬ。これだけで"与える"権限がどれほど強力かがわかるだろう。
スポンジで例えるか。スポンジを直接水に浸けて濡らすか、霧吹きに水を入れて吹き掛けて濡らすか。どちらが効率が良いかは一目瞭然だろう。
しかしその分、与えるにはそれなりの力が必要になる。それに加え、繋がりがないといけないのだ。俺のように一度触れないといけない以外にも、触れていないといけない、体内に自分の一部が入っていないといけない、自分を認識していないといけない、自分の声を聞いていないといけないなど色々ある。しかしリウスの持つ権限『魔眼』は非常にシンプルで、見る―認識するだけ。その効果は、居るだけの次くらいに簡単だと思う。そんな簡単に、『夜王』をパッシブ化できるとは凶悪すぎる。
最大のデメリットは、制御が難しいこと。自分の意思に反して、というか意思に限らずに権限を与えてしまうため、見るだけで『死』かなんかの状態を付与してしまう場合はまじで無差別にものを殺して回ってしまうだろう。権限を自分の意思でオンオフできるようになれば問題がなくなり強力な権限へとなるのだが、そんな芸当はかなりの訓練と修行、力を要する。それまでに無差別に権限の効果を与えてしまうため、無駄に力を使ってしまって衰弱して死んでしまうという事例もしばしばあることだろうな。
しかし先ほど踏まれていたメガネが大丈夫なところを見るに、その権限の本領はまだ発揮されていないようだ。おそらく『未覚醒』の権限のせい…おかげだと言える。『魔眼』の権限が夜という状態を与えるという、取り返しのつかないものではないというのも幸いか。
だが心なしか、茶色かったリウスの髪が黒くなっているような気がする。そして、茶色かった瞳も赤く、血のような色へと変わっていっているような気がする…。




