転生者が生む格差
流石に戦力過剰だったか、ものの数週間でノースブラント北方拠点は全滅。流石の俺も最高位龍種3体はやりすぎだと思っている。まぁ俺も分類的には最高位龍種なのだが、魔王にもマルスにも戦力的には劣っているから除外ということで。
俺らがいま居るのはノースブラント南方。広大なノースブラントは縦にも横にも広い。
「目的地が見えてきたな」
「あの村じゃな」
途中捕まえた魔馬に牽引させた馬車に乗っている俺たちは、インヴィクルに襲われたという村へと向かっていた。
当然、追い返されるだろう。もしかしたら暴力を振るわれるかもしれない。しかし、北方で暴れた俺たちの噂はここにも広がっているはずだ。かなり、大暴れしたのだから。
遠目から見ても荒れている塀を通り抜けようとする。しかしその前に、一矢弓矢が飛んで来た。俺はそれを掴み取り、飛んで来た方向を見る。その先には一人の男が居た。
「また来たのか!!そう何度も奪われてたまるかよ!!」
その大声でぞろぞろと村人だと思われる人物らが武器をもって出てくる。殺意は、十分。武器も持ってる。なら危ないのは…村人達だ。
俺は急いでキュリスに静止の声をかけた。子供は自分に向けられる感情に敏感だ。それが殺意ともなれば。しかも強大な力を持っているともなれば、身を守ろうとするだろう。その点、アドはまだ鈍感なようだが。
「待ってくれ!俺はヴァーン、勇者ヴァーンだ!この村の村長に会いに来た!」
「勇者ヴァーン?勇者ヴァーンだって?必要なときに来なかった奴が今さら何の用だ!!」
……その、通りだ。俺はこの村がインヴィクルの襲撃にあっている時に、北方の最後のインヴィクルの拠点を潰していた。それはその時に絶対に必要だったかと聞かれれば、そうではなかったと答えられる。しかしそれでも、近くにあって、相応のリスクと脅威があれば、誰だって目前の問題に取りかかるだろう。…神は万能ではないのだ。
「帰れ!自分の村のことは自分でやる!」
想像できたことだ。そしてこれまでに何度かあったことでもある。しかし今回は特に拒絶の反応が大きい。
俺はとりあえず、一旦退くことにした。血が頭に昇っている状態だと話し合いさえ出来ないだろう。ここは一度離れて、俺らは少し離れた場所で拠点を作ることにした。
拠点を作ってから一週間した夜。そろそろ潮時かと、そう思っていた夜。コンコンと、ドアをノックする音が鳴った。
気配は子供。それも一人だ。あらかじめ気配を感じ取っていたが、どうやら村の方から隠れて来たようだ。
俺はその子供を、迎え入れることにした。ドアを開けるとそこに立っていたのは、ボロボロで薄汚れた、8歳くらいの女児だった。
「あ、あの…勇者さん、って、聞いたんですが…」
「うん、そう。勇者ヴァーンだ。入って。疲れただろう、休みながら話すといい」
そう優しく諭すように語りかけ、椅子へと誘導する。その椅子はもちろん、キュリスやアド、ミレイユに合わせて作られたものだから、女児にも丁度いいものだった。
ミレイユにさっとホットミルクを渡された女児はそれを飲んでやっと俺のことが求めていた人物だと、そしてここに来るまで見張りの大人たちに見つからないか、隠れた魔物に襲われないか、という不安と緊張から抜けたのか、ぼろぼろと涙を流して語った。
「…お父さんとお母さんと妹が、連れ去られたんです。うちのお父さんは村一番の猟師で 、村の大人の心の拠り所だと、みんな言ってました。お母さんも料理上手で、村の子どもたちにお菓子を作って配ってたんです。妹とは産まれた頃から一緒で、一緒にいないときはありませんでした。…全員、連れ去られて…ほかにも私の友達とか、そのお母さんとか、お父さんとかを連れ去って…それでみんな、気が立ってるんです」
…アルヴテリアではよくある話だと、そう思う。しかしそれは、知性ある生き物、人類として、あってはならない話だ。
こういうことは行き先のほとんどの村で起きている。もはや慣れてしまったと言ってもいいかもしれない。だから対処法は分かっている。だから大丈夫だと、俺は無責任にもそう言ったことがあった。
……結果が同じでも、過程が同じだとは限らないのに。
ここは現実で、パターンがあってもそのパターン通りにことは進まない。事情が似ていても、それは似ているだけであって同じではない。
大勢を救うとよく勘違いしがちだ。俺にとっては救う大勢であっても、彼彼女らにとっては救ってくれる俺ただ一人なのだから。一人一人があって、大勢でひとくくりに出来るものではないと、そう…その命でもって、俺に教えてくれた奴がいた。
「なるほど、それでか。詳しい話を聞かせてもらえないか」
「はい」
「襲撃は何日前…あー、インヴィクルがきてから、何回朝がきた?」
この世界に日が一回落ちれば一日、という概念はあるにはある。しかし都市とは言えないこんな村では、そんな概念はまだなかった。
そこまで文化が進んでいるのは都市部。しかも、転生者がいる国の、という条件つき。このような辺境の小さな村では一日というか、この星の外に宇宙があるという概念すらないだろう。
それはいままで訪れた村でほどんど適用されたし、この女児が何日前という言葉に疑問を浮かべたことからよく分かる。この女児はなかなか表情豊かなようだ。
「1…2……7、9です」
「俺たちが来た2日前か…インヴィクルがどっちの方角へ行ったか、わかるかい?」
「…えっと……こっち、です」
指差すは南。まぁ当然か。北側の拠点は全てぶっ潰した。そして俺らは西から来た。選択肢は東か南の、どちらかしかない。
女児はホットミルクを飲んで落ち着いたのか、もう涙を見せていない。表情豊かでいて、そして追い返された俺たちを単身訪ねるほどに勇敢だ。そして魔物が出るかもしれない夜道を単身歩いてきたほどに、そして隠れてなければならない状況でインヴィクルの行方を見るほどこの少女は無茶だ。その勇敢さと無茶に俺らは助けられたわけだが。
と、そこでキュリスが女児に絡んでいく。夜は更けているが、睡眠の必要がない俺たちにとって、そして夜目が利く俺たち龍種にとって、夜とは静かで心休まる時間という認識でしかない。
「ねーねー、あなた、何て言うの?私はキュリウス!キュリスって呼ばれてるから、あなたもそう呼んでいいよ」
「…?」
「あなた、私が名乗ったのに自分の名前を教えないなんて、失礼よ?」
「…な?それって、なに?」
…やはり。アルヴテリア広し、数人数十人数百人の転生者だけじゃ、文明が急激に発展するのは大国だけ。辺境も辺境では、緩やかに成長しているのみ。それでは格差が広がるだけ。大国の独占的な世界が広がるだけだ。世界の発展、星の発展に転生者というのは必要なものだったろう。だがそれが必ずしも良いのかと言われれば、悪い面も、こうして出てくる。




