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ムスペルヘイム

迷宮の中は炎で荒れに荒れていた。星の生命活動で不規則に変わる道。ミレイユが地核直通の道を開けようとしても、マグマが動いて道を歪ませてすぐに潰してしまう。ズルはできないってことだった。

そして厄介なのは、キュリスのときには戦わなかった魔物達だ。炎の鳥やマグマの巨人など、倒しても倒しても復活する敵が、倒しても倒してもキリがないように湧いてくる。嫌な予感というのはなぜこうも当たるのか。

まぁ先ほど気づいたことだが、キュリスを解放するとき、どうやら俺とミレイユはその魔物地帯をスキップしていたようなのだ。あのモーセの十戒のような海割れがなければ俺とミレイユは海中をキュリスが眠る祭壇があったあの洞窟を探しながら泳いでいかないといかず、さらにはあのデカイウツボのような魔物とその仲間達ともやりあっていないといけなかったという。


「この!しつこい!!」


ミレイユの時よりも階が多い気がする。まぁ当然か。アルヴテリアの厚さ的に、地表のミレイユと地核のこの龍玉じゃ、階が違うのは当たり前だ。しかも魔物も粘着質ときた。時間が経てば経つほど龍玉回収が面倒になるという予想は合っていたようだが、しかしそれはこの場に漏れてる魔力の量が多いということであり、それを利用、吸収してしまえば俺もだいぶ力を取り戻せるわけで。


「ほーらひれ伏せぃ!!」


ゴゴゴと音をたてて崩れるマグマの巨人。どうやらこの魔物たちはミレイユの時のように知性があるわけではなく、ただただ本能で襲ってきている様子。だから俺も遠慮なく戦えるというものだ。しかし順調に進んでいたのは最初だけ。


「な、ずるいぞ!」


敵が炎そのままというのはずるい。切っても切れず、重力で圧をかけてもまるで影響していない。炎が下に行くほどの圧をかければ今度は上の階の炎が襲いかかってくる。良くできた迷宮だと思う。まぁキュリスのときの氷の迷宮のように俺が全く前に進めないというわけでもないので進めはするから比較的良心的ではあるか。

と、俺は氷で肥大化させた尻尾をブンブンとふる。イメージは巨大なうちわだ。不定形のものには不定形のもので攻撃だ。

しかしここでだいぶ予想外なものが俺らの前に立ちはだかった。


「お、おい!あれ、龍だろ!?」


名前『ムスペルヘイム』

位『高位』

種族『純血:アルヴドラグアルマ』

権限『熱魔法10』

上位権限『火の化身』『炎魔法5』

特殊権限『上に立つもの』『炎龍の眷属』『公龍』


なんっでこんっなもんっがいんのかなぁ!?てかムスペルヘイムってあれだろ!?リディル王が持ってた武器のやつ!ぜんっぜん低位龍じゃねぇじゃん!!ばりっばりの高位だよ!!


「我らが主のため…参る!」


しかもごりっごりの武人系!!主君のためにはどんな高位な存在でも躊躇わないやつ!!いっちばん面倒なやつ!!


「キュリス、牽制たのむ!」

「あいす!」


この数日でキュリスと戦いの特訓をして、指示をすれば望むことをやってくれるとこまでになった。さすがにまだミレイユのように名前を呼ぶだけか、何も言わなくても状況を察して援護してくれるというとこまではいってないが、さすがにそこまでは望んでいない。ミレイユが上手すぎるだけで、キュリスくらいが限界なのだ。

そんなキュリスはムスペルヘイムに向けて氷を飛ばす。しかし地熱が氷に熱を与えて威力がだいぶ下げられてしまった。まぁそれゆえの牽制なのだが。


「おいコラ!こちとら最高位龍種様方だぞコラ!!ちったぁ遠慮して道をお譲りしろやコラ!!武人ならツラ地に付けて端に寄れってもんだろうがゴラぁぁぁぁ!!!」


飛びかかる。氷で分厚くコーティングした剣は裸の星刻剣より格段に切れ味が下がることだろうが、威力は上がってるはずだ。そしてこの攻撃には威力を上げるだけでなく、多次元存在に効果があることも利点になる。ミレイユお墨付きを貰った、俺の多次元存在の対抗手段である。まぁもっとはやく編み出してれば良かったと思うが。

しかし剣はムスペルヘイムの体を透過した。ムスペルヘイムの体が陽炎のように実体を無くしたのだ。さすがに一筋縄じゃいかないってことか!!


「我が主は炎龍様のみ」

「俺は原初龍様だぞ!!この星で一番偉いんだぞ分かってんのかオラ!地龍様と氷龍様もいんだぞこんっの!やっろ!!」


こっちの攻撃は透過して相手の攻撃は実体がある。ミレイユとキュリスが防御してくれるため攻撃に専念できているが、相手の攻撃には遠慮というものがなかった。

てかこいつらなんで炎龍(流れから確実よりのたぶんそう)の龍玉を守ってるんだろうか?ミレイユとキュリスを見れば俺が龍玉を悪いようにはしないということが分かるだろうに。


「なんでお前ら邪魔してくんの!?」

「我が主は繊細ゆえ」


意味わっかんな!!

と、そんなときミレイユの硬化魔法がムスペルヘイムにかかった。硬化魔法は本来なら自分や自軍強化に使う魔法だ。相手に使うものではない。そんな魔法をミレイユがムスペルヘイムに使った意図を図りかねたが、ミレイユがやったことだ。間違いない!

俺はタイミングを逃さず斬りかかった。そして驚く。いままでなかった手応えが、初めてあったのだ。


「ぬん!」


と同時に相手の攻撃の激しさが増した。形容すれば、炎がやっと実体を持ったというように。

ムスペルヘイムは炎と同化して不規則に攻撃してくる。武人系にしては手口が汚いが、まぁ龍としての特性を利用した攻撃方法なため相手からすれば真っ当なもの。ミレイユが星の体内の流れを活発にしていなければ、ムスペルヘイムの攻撃はもっと苛烈だったか。しかしそんなムスペルヘイムも所詮龍は龍。公龍という、龍の中では生まれが早く上位クラスのものでも、俺は桁が違うのだ。


「ここ…まで、か…」

「へっへー素直になれば良かったものをぐへへ」


すっかり体が小さくなったムスペルヘイム。それはなぜか?俺が吸いとったからだ。いまの俺は常に魔力が足りない状態。そしてムスペルヘイムの魔力は龍玉の魔力に近い純粋なもの。つまり俺の力に近いということでもある。だからこうして接触することで少しずつムスペルヘイムの体から魔力を掠め盗っていたのだ。まぁ実体がなければできない芸当だが。ムスペルヘイムが高位の、しかも発生時期が龍種でも早く、さらに生殖行為で産まれたわけではない自然発生の龍ってのが掠め盗れた理由だ。


「さてさてぐへへ、ちっちゃくなったお前さんをどういじめてやろうかぐへへ」

「くっ…殺せ!!」


はいくっころ頂きました!キュリスの氷よりも冷たい視線でミレイユに見られているが、気にしない気にしない。

俺はぬいぐるみのように小さくなったムスペルヘイムを抱き上げた。そのときにそれはもうじたばたと暴れたが、もう、もはや蜥蜴並みの抵抗力しかない。俺はそんなムスペルヘイムをキュリスに渡して胸に抱かせた。

ふむ、ふむふむふむ。ロシア系美幼女がふにふにのぬいぐるみを抱く…なかなか絵になるな。これはしばらくこのままでいてもらおう。


「あ、なんかいいこれ!」


さすがにキュリスに危害を加えるわけにはいかないと判断したのかおとなしくなったムスペルヘイム。ちっちゃくなったせいなのかもともとなのかはわからないが、人間の幼児くらいの体温で温かく、肌もムニムニしてて気持ちいい。そんなムスペルヘイムを気に入ったのか、キュリスはムスペルヘイムに頬擦りしていた。される側のムスペルヘイムは、もうどうにでもなれというような顔だった。

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