アイエベ
「アルフェン様!」
マルスがアイエベに駆け寄り、肩を揺すった。しばらく茫然と叫んでいただけだったアイエベはマルスの呼び掛けに意識が呼び覚まされたのか、焦点を合わし始めた。そして完全にマルスの顔に焦点が結ぶと、いままでの叫びの色が変わった。
「マルス…マルス!わた、わたれは…私は!!心の中に叔父様方とお母様が!私は、私がどうにか!」
「…いいんです。1つの体に何人居てもいいんです。あなたはアルフェン様で、イェヘン様もエルフェン様もベラ様もそこにいるんです」
「うう…うああ――」
マルスの胸の中でアルフェンが泣く。マルスはしばらくの間、アルフェンを胸の中に抱いていた。
「妾にはどうすることもできないのじゃ」
アルフェンが泣き疲れもう一度眠った後、話はアイエベをどうするかというものになった。主人格はどうやらアルフェンのようだが、魂は完全に混ざりあっている様子。おそらく体がアルフェンのものなため、適正のある魂のほうが優先されているのだろう。
ミレイユは地龍。物質系のスペシャリストだ。生物の体を完全再現することなど雑作もない。だが非物質系、魂や精神のことに関しては俺らと同じだ。いや、むしろ物質に縛られているからこそ俺らよりも疎いかもしれない。
「同じ境遇の者同士、イルのようにアヴくんのとこに預けてもらうか?」
「いえ、それには及びません。アルフェン様…いまはアイエベ様、でしたか。アイエベ様はこちらでお預かりします」
マルスの気配が戻った。社交的な人格と、好戦的な人格とで別れているのだろう。まぁジークのほうはマルスのような演技ができるようだが。
「一応、インヴィクルの実験の被害者になった者を預けているところがあるんだが、いいのか?」
「ええ。王位継承者がいなくなる、というのもありますが、アルフェン様やイェヘン様、エルフェン様ベラ様も、弱い方々ではありません。そして僕が絶対、狂わせません」
その瞳は絶対の自信に満ちていた。俺はその瞳を信じて、アイエベを任せることにした。
「そうか。それでマルスはこのあとどうするんだ?俺らはこのままインヴィクルを追うけど」
「国を留守にするわけにもいきませんし、アイエベ様を置いていくわけにもいきません。戦後処理もありますし、僕はデリワルド国に戻りますよ」
「そうか…ま、そうだよな。マルスがいれば心強いんだが、仕方ない。マルスにはこれを渡しておくよ」
と、俺が渡したのは通信機。魔力を通して通信するためアルヴテリアのどこにいても通信ができる。マルスは初めてみるそれを珍しげに受け取った。
「これは?」
「通信機だ。アルヴテリアのどこででも俺と連絡を取れる。何かあったら呼んでくれ。すぐに向かう。俺からもなにか状況に困ったら遠慮なく連絡させてもらうけど」
「…?まぁ、分かりました。ありがたく頂戴します。いろいろとありがとうございました」
「世話になったのはこっちなんだけどね」
そう捨て台詞を残して俺は歩きだした。それについてきたのは…なぜかキュリスだけ。あれ?ミレイユ?と後ろを振り替えると、ミレイユがなにか魔法を使っていた。しばらくすると、アイエベの服がミレイユによって創造された。
「そうだよ!ミレイユが作ればよかったんじゃん!」
どこまでも締まらない。それが俺クオリティだと、本気で思ったりした。
「それで次はどうするのじゃ?」
ミレイユが聞き出す。いまいるのはキュリスが生まれた祭壇だ。
俺はしばらく悩んだあと、結論を口にした。
「キュリスと回路を連結してもダメだったことから、いまの俺はまだ実力不足なようだ。核にある龍玉の回収を優先しようかと思う」
「ふむ、それが一番じゃろうな。重要なのはキュリスか」
「ん?」
「そうだな」
地核。つまりマグマの中を進むことになる。溶岩はミレイユが避けてくれるとしても、キュリスは熱に弱い。いや、弱いというか暖かくなるとハイテンションになるというか。どっちにしろキュリスの冷却する力で熱はどうにかするが、周りをマグマでかためられた状態じゃどんなことが起こるかわかったものではないし、地中全部を冷やすわけにもいかない。そんなことをしたら星の生命活動を止める、つまり星を殺してしまうことになる。
まぁ、どっちにしろ行かなければならない。今回はずっとアイスを与えるということでどうにかなると祈るしかない、か。まぁ信仰の対象の神は俺自身なんだけど?つまり自分を信じろってこった。
「さて、とりあえず行くことは決まったわけだが、どこから地核へと行くかだな」
「地核って?」
キュリスが聞いてくる。初期知識に地核のことはなかったのかと疑問に思ったが、特に省く説明ではない。俺はキュリスに簡単に説明する。
「星の心臓みたいなとこだ。星のど真ん中だな」
「ふーん?それってアドがいるとこ?」
アド?どういうことだろう。
と疑問に思った俺に援護射撃するように、ミレイユがキュリスに聞いた。
「アドとは誰のことじゃ?」
「アドはアドだよ?生まれた時からね~、一緒なの!」
「ふむ…そのアドに会ってみたいのじゃ。案内してはもらえんかの?」
「いいよ!こっち!」
生まれた時から一緒?もしかすると、おなじ最高位龍種か、龍玉が生んだ魔物かなにかか?
と俺とミレイユはキュリスに案内される。つれてかれたのはキュリスが生まれた祭壇の裏。そしてキュリスは祭壇を裏側から押して動かした。
「ここから行くんだよ」
祭壇の下には通路のような穴があり、それは冷水で満たされていた。キュリスは龍形態になりその穴に飛び込んでいく。俺は体を小さくして装備を異空間に収納、尻尾をヒレ代わりにキュリスのように泳ぐ。ミレイユも最初の頃に見た亀のような形態の、今度は海亀寄りの姿でついてきた。
しばらく下へ下へ進んでいくと、冷水がだんだん温かくなっていった。これはまずい、水の中じゃアイスも食べさせられないと焦っていると、それは杞憂だとでも言うようにキュリスは平気だった。
水が沸騰しそうな熱さになってようやく水面が見えてきた。下を向いた水面とはまぁ珍しいものだが、このアルヴテリアでは珍しくはないのだろう。俺らは下へ向く水面を飛び出し、開けた場所へと降り立った。そこでキュリスが首を傾げた。
「あれー?いつもはここ通ったら会えるんだけどな?」
目の前に広がるのは吹き荒れる炎の迷宮。どこかキュリスのときと似たような雰囲気をもつダンジョンのようなものだった。




