魔王
ふと、戦闘が止む。マルスが手を止めたからだ。
「お前は何者だ?」
先ほどの問いを、今度は本気で投げ掛ける。それに男は、今度は答えた。
「俺はディオス・ワイズ・フェルオス。魔王って名乗った方が通じるか?」
「魔王!?Sランク冒険者の魔王か!?」
Sランク冒険者が、なぜインヴィクルなんかに加担して…と、その時別の者の気配が増えた。マルスが瞬時に敵と判断し、首を飛ばす。しかし別の者はそれを気にしないという様子で避けもせずに悠々と歩いてきた。ふとした瞬間には頭が戻っていたため、先ほどの五人の執事達と同じ存在だと予想できる。
「魔王、迎えに来たぞ」
「フィフスか。邪魔をするな」
「実験は成功で終わりだ。もうここに用はない。次の実験施設へと移るぞ」
「邪魔をするなと言っている」
「…ほう?」
「俺はお前らの傘下に入った覚えはない。利害が一致した結果、手を貸してやっているだけだ。弁えないというのなら立場を思い出させてやろうか?」
一触即発の雰囲気が漂う。しかしこの場に空気が読めないものが一名。
「あーいす!」
それはもう、やっぱりというか。唐突にキュリスが攻撃を仕掛けた。それを魔王は対魔障壁で防げないと見るや転移で回避、フィフスは避けきれずに攻撃を受けるが、ふとした瞬間に何事もなかったかのように氷の上に佇んでいる。その後もしばらく睨みあっていたが、どこからともなく聞こえたチッという舌打ちで緊張が緩んだ。
「興醒めだ。行くぞフィフス」
「場所は44実験施設だ。それではまた、勇者諸君」
「空絶・蓮華…ちっ、逃げられたか」
結局見ていることしかできなかった俺は、そういえばマルスが別人のようになっていることに気づいた。いままでもそういうことはあったが、ここまで気配が違うともはや別人だ。いままでは混ざっている感があったが、事情を聞いてみるか。
「ところでお前はどういう存在だ?」
「俺はジーク。ジーク・グローリアだ」
…?マルスとは別人だと言うことか?
「つまりお前はマルスの中の別人格という認識で合ってるか?」
「違いない。少し落ち着けばマルスの人格も出てくるだろ。その間にアルフェンサマの様子を見ておく」
「お、おう。ミレイユ」
「うむ」
ミレイユが先ほどとは逆に遠く離れたアルフェンを地中で移動させ目の前に出す。それをキュリスが解凍し、眠ったアルフェンが出てきた。とりあえず空間魔法から大きめのタオルを取り出し体にかけた。さすがに必要もない女性服を持っていたりはしていない。年齢の差か身長がセラスより差があるために、たとえセラスのために買った服を着せても入りきらない。そしてなによりセラスのために買った服は全てセラスに贈ってある。妥協してもらう形にはなるが、許して貰おう。
名前『アイエベ』
位『最高位』
種族『純血:アルヴヒューマ』
権限『混ざりもの』
特殊権限『命の一つで一つの命』『完全体』『憤怒』『絶望』『上に立つもの』『王女』『王子』
とりあえず他と同じような主要権限については割愛するとして、目だったものはこうだ。セラスと同じように毒物に対しての耐性は普通より高かったが、装備でドーピングしていたセラスと比べて全てのステータスが低いのは当然だろう。…だが、名前『アイエベ』のアにもう一度神龍の目を向けると…
名前『アルフェン』
位『中位』
種族『純血:アルヴヒューマ』
特殊権限『命の一つで一つの命』『成功体』『絶望』『上に立つもの』『王女』
アルフェンの詳細が出てくるのだ。そしてイに神龍の目を向けると
名前『イェヘン』
位『中位』
種族『純血:アルヴヒューマ』
特殊権限『命の一つで一つの命』『成功体』『絶望』『上に立つもの』『王子』
イェヘンの詳細が出てくる。…つまり、つまりは!!
「…気配がさっきまでの厄介な奴らと同じように混ざっている。…第1第2王子と第1王女とその娘のものがな」
「くそっ!!今回のインヴィクルの実験は人と人の融合ということか!!ふざけやがって!」
「…インヴィクルとやらは何を目的としているのじゃ…いや、邪神とやらの復活を目論んでいるというのは知っておるが、これのどこがそれに繋がるというのじゃ」
怒りがふつふつと湧いてくる。しかしそんな怒りも、んっという女性の声で一度止まった。どうやらアルフェン…改め、アイエベが目を覚ますようだった。
「……わたれは……なにを」
私と俺が混ざったような一人称を口に出した。完全に意識が覚醒していないようだった。…しかし、そう安心したのもつかの間。
「あ…いや……いやあああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
絶叫を上げて頭をかきむしった。…どれ程凄惨な出来事があったのか。それを考えるだけで破壊衝動を抑えられなくなっていく気がする。




