怒髪天衝
2話同時投稿です
「すまん、俺が伝えそびれたばかりに」
「いや、最初から知っていてそう攻撃していればあれほど大きな効果は得られなかったじゃろう。ある程度打ち合い慣れられたところの不意討ちだったのじゃ。むしろ絶好のタイミングだったと言えるじゃろう。キュリスもご苦労じゃ」
「うん!うまうまー」
「死亡確認は出来ていませんが、邪魔しないのなら深追いする時間がありません。行きますよ!」
「了解!」
ちなみに地下にそれらしき実験施設があるのは確認済みだ。そして、最上階に目的の人質の気配があるのも確認済みだ。よって、今度は馬鹿正直に階段からいくのではなくミレイユが作り出した空中階段で一気に最上階へ上がる。一応ミレイユの作る階段は壁と天井を作り出してもらう予定だ。奇襲を受けたら時間を無駄にしてしまう。
音をたてて組み立てられていく空中階段にマルスは感心したように声を漏らした。おそらく現代の常識では神のごとき業だと高名な魔法使いがいうべき事柄も、マルス自身が非常識で規格外だからこそミレイユのやることにおおーという感想しか出てこないのだ。
そうして作られた階段をかけ上がっていく。そしてついに、最上階の窓を突き破って内部へと侵入することに成功した。
「思ったより早かったな」
「お前が首謀者か!!」
そいつはとてつもない大きさの魔方陣の隣で、豪華な椅子に偉そうに脚と腕を組んで座っていた。魔方陣の上には王位継承権四位のアルフェンだけが鎖に全身繋がれ衣類纏わぬ状態で吊り下げられていた。アルフェンの年齢は二十四歳。妙齢の淑女には心苦しいだろうが、その体には数々の傷と何らかの魔方陣、つまり刻印が文字通り刻まれ、印されている。
一目見て、ああ、手遅れだと察した。それも俺たちが首都につく前にはもう終わっていたと思われる。
それを確認したマルスの中で、なにかがプツっと切れた。いや、なにかが消し飛んだと表現した方が適切か。そしてその効果は…絶大だった。
「ぶっ殺す」
いつになく激しい殺気と覇気。それはまさしく剣王と呼べるもので、その気力だけで皇帝宅は粉微塵に…切れた。その顔は言葉の強さとは裏腹に無表情…だが、その背には可視化された気が修羅のような存在を形どっていて、全身をその気が覆っている。
「ミレイユ!」
「了解じゃ!キュリス、あの女子の保護を頼むのじゃ!」
「あいす!」
俺はミレイユにアルフェンの保護を頼む。その意図をしっかり掴んだミレイユはキュリスに指示を出し、氷でアルフェンを凍結する。それはキュリスなりに考えた結界だろうか、アルフェンを包む氷から十センチメートルほど離れて分厚く氷の膜が覆い、その間は無数の氷の管が下りてアルフェンの位置を固定している。よく考えられているだろうそれをミレイユはさらに自分の魔法で補強した。
それを見ていた偉そうに座っている男がほうと感嘆の声を漏らしたが、気にせずミレイユはその氷付けのアルフェンを大地へと埋め、離れた場所へと流した。
それは一瞬のこと。皇帝宅が崩れ去る前の事だ。
足場が崩れ俺らは地面に下り立とうとする。だが足場は隆起し、螺旋状に天へと伸びていった。無論それはミレイユが作り出した決戦の舞台だ。町への被害を考えてのものだろうが、ついでに地下にいる敵の残党の始末と敵の男への攻撃、そしてもしかしたらいたかもしれない他の人質の保護。人質の保護はやはりアルフェン以外には人質はいなかったため結局気にせず残党処理、男への攻撃へと手を回したが男は恐るべきことに豪華な椅子ごと宙へと浮いていたため効果はなかった。
舞台が整ったところでマルスが仕掛ける。
「空絶・蓮華」
一度に数千もの空絶が男へと放たれる。それを男は対物障壁で迎え打つ。バリバリバリと音を立てて障壁が次々と破れていくが、何十何百と張られた障壁でマルスの攻撃は届かない。しかしこれには男も驚いたのか、弾んだ声でマルスへと称賛の言葉を送った。
「ほう?俺の障壁を1枚だけでなく数百枚破るとは、お前何者だ?」
「処供物流・咲々花祈」
「――なに!?」
一瞬で宙に浮かぶ男へと間合いを詰めたマルスの流れるような、しかして神速の居合い連撃を受けて、今度こそ男の余裕が崩れた。マルスが繰り出す首を絶つ一閃を寸でのところで避け、空間の乱れも予兆もなしに転移した。これには俺も驚いた。
「処供物流秘奥、果物包丁、万能包丁」
男が座っていた椅子を一瞬で極薄切りにしたマルスはそこに男がいないことに気づいて、男が出現した場所におそらく果物包丁だと思われる他の武器と比べて小さい刀を投げつける。しかしそれを男は俺と同じように空間魔法を使い、包丁を異次元へと飛ばした。
「…お前ただ者じゃないな?」
「お前は剣王マルスと見たが、どうだ?」
フッと二人の姿が消える。男も余裕が無くなったのだろう、獰猛な笑みを浮かべてマルスと打ち合っていた。
「処供物流、裂暇、咲々花祈、苦死、囲蝶、爛」
処供物流剣術は決まった型を次々に繋げていくという流派だ。もともと神へと捧げる生け贄を苦しませずに捧げる目的、または家畜を苦しませずに解体するという目的で発祥し、剣術へと発展した経緯を持つ。そのためアルヴテリアの中でもかなり『殺す』という概念に特化している剣術なのだ。それを男は魔法で迎え打つ。
「乱気流、紅蓮業火、対物障壁、転移、華凰」
「処供物流、魔無板」
男の魔法を展開した気で打ち消すマルス。そんな攻防を俺は見ていることしかできない。それにもどかしさを覚えた。ミレイユもキュリスも手を出す気は無いようだった。




