デリワルド王
「よく来たな、冒険者ヴァーン。汝を歓迎しよう」
一国の主に星の主が頭を下げるというのもおかしな話だが、いい加減星の主というのも面倒になってきた。自慢話にもなりはしないものに価値はあるというのか。
とまぁいろいろと無駄なことを考えつつ王公貴族への謁見を済ませたあとは個室で話があると呼ばれていま。
「堅苦しいのはやめだ。マル、秘蔵庫から酒をもってこい」
「よろしいのですか?」
「良い良い。このめでたい日以外に開ける機会など来ようものか」
大国の王秘蔵の酒。しかもめでたい日でなきゃ開けないやつ。これは期待大だ。
マルスが大量に持ってきた酒をぐびぐびと飲む俺。ミレイユとキュリスは俺が保管していたジュースを飲んでいる。
「くぅっはぁ!流石に上手いな、この酒は。どうだヴァーン、儂秘蔵の酒の味は」
「果実発泡酒。のど越しが良いのにこの微炭酸がいい具合に喉を刺激してうまい。なるほど…これはかなりのものだ。失礼、少し手を加える」
こんなうまい酒はもっと化ける。単体でもうまいが、なにか足されると相乗効果を生むもんだ。ここで取り出すはカクテル作成キット。この酒は炭酸が少し入ってるのでシェイクはしないが、淡く澄んだ水色は絶対に映える。
「おお…おお!これは!!」
どうやら気に入ってもらえたようだ。元が淡く澄んだ水色でアルコールの度数が強いので寒色で合わせてベリー系の酒を入れ酸味を足してみた。名付けてノースブラント。見た目もよし、味もよしの一品だ。机に俺が気に入って買っておいたつまみをそえて、どうぞ。
「良きかな良きかな…ヴァーン、気に入った。名も覚えたぞ。して、良い頃合いだ。話を進めよう」
「ええ」
デリワルド王は老年のおじいさんだ。三人の子、王位継承権第一位の第一王子イェヘン。王位継承権第二位の第二位王子エルフェン。王位継承権第三位の第一王女ベラ。そして第一王女の娘、王位継承権第四位のアルフェン。デリワルド王に兄弟はおらず、妃も三年前に病気で亡くしているとのこと。そんなデリワルド王国も十数年前からインヴィクルに悩まされているそうで、妃の病死ももしかしたらインヴィクルが関係しているかもしれないと言っていた。その事実関係を調べつつ、インヴィクルの殲滅を図っているという。今回の話もそれに関係して、大きな拠点を一つ発見したため殲滅作戦をたてている。少数精鋭で一気に叩く。リュノンを警戒しての事だ。攻勢メンバーはマルスとその部下数名。実力の高い魔法師十数名だ。人質はできる限り解放するが、できなければ目をつむれと言っていた。まぁ合理的な判断ではある。そこに俺が加われば人質全員の解放も視野に入るとのことで、俺は了承した。これはギルドからの依頼ではないためクリュフと結んだ契約は適用されはしないが、壊滅させた跡と俺が参加した事実があれば申告して報酬が入る。さらに王直々に報酬も出るというから悪くない話だ。
そして作戦日を王城の客室で待つこと三日、それは起きた。ミレイユ、キュリスと作戦に使える物の創造をしていた真夜中に突然爆発音が響き渡ったのだ。あわただしくなる王城。煙が出ているのは…王の子供たちが暮らしている区画だ。
俺らも急いで向かう。もちろん、律儀に廊下を走ることはない。空に橋を作れば損壊もなく移動できる。
「マルス!どうした!?」
「ヴァーンさんですか!どうやら襲撃者のようです…イェヘン様、エルフェン様、ベラ様、そしてアルフェン様まで拐われてしまいました。…なんという失態でしょうか。そしてあれは」
爆発で半壊した壁とは反対側に、血で書かれた文字と壁に刺し留められているなにか。それをよく見れば…一本の指だった。鋭利な刃物で切られていて、まだ血がぽたぽたと垂れている。指の感じから成人女性…状況から察するに、第一王女ベラの指だろう。
「陛下!危険ですお止まり下さい!!王!!」
衛兵の叫び声が聞こえた。そして煙から姿を表したデリワルド王にマルスが驚き声をあげる。
「デリワルド陛下!?危険です!!どこで敵が狙っているかもわからないのです!」
「我の愛し子が拐われておるというに、誰が部屋で蹲っていられるか!!ここにはマルがいよう、ここ以外に安全な場所などないわ!」
なるほど、道理だ。マルスがいるところが一番安全だし、俺もミレイユも、ついでにキュリスもいる。この国でこの場所以上に安全なところはないだろう。
俺は壁に書かれた文字を読む。
「実験に必要なものを頂く、インヴィクル…か。作戦決行日は明後日だったよな、マルス」
「ええ。これは…これは…ああ、そうだな。かなり万全な装備を整えていかなきゃならない」
スッと、その威圧感だけでものが切れそうなほどにマルスの気は鋭かった。それは剣…いや、切るという概念を濃縮したかのような気迫で、普段の温厚なマルスからは想像できないほどの。
「とりあえずここは衛兵に任せる。俺は襲撃者を追う。ヴァーンにデリワルド王を任せていいか?」
「あ、ああ」
「よし、任せた」
口調も表情も、まるで別人がマルスの体を操っているように違うものだった。…そして。
「処供物流秘奥…刺身包丁。空断…点結保持」
マルスが手を開きなにかを掴む動作をすると、全長二メートルほどの刀とも言える刃の薄い剣が現れた。それを使って空間を切り裂き、マルスは中に入っていった。俺との戦いはかなり手を抜いていたのだとそれをみて分かった。
それからというもの、俺はデリワルド王の護衛をしながらマルスを待った。結局マルスが帰ってきたのは翌日。その手にはリュノン国の国旗が刻印された勲章が握られていた。
「リュノンがインヴィクルに乗っ取られてるかもしれない」
そう、不穏なことも。




