マルス
「さて、しっかりと説教したとこで」
「やっぱりヴぁーん悪者…」
「ミレイユ頼んだ」
「うむ」
俺の説教は一時間ほどに及んだ。軽率な行動は危ないということ。人質も凍らすのはよくないということ。。そっから人類の可能性にまで話が飛躍したのはやり過ぎかとは思ったが、見知らぬ剣士も俺の尻尾を見ながら待っていてくれた。あとはもうミレイユに丸投げだ。
「お前は誰なんだ?俺はヴァーン、一応冒険者だが」
「僕はマルス。マルス・ヘルドです。ヴァーン…聞いたことないですね。その戦闘力ならば耳に入ってこないはずはないのですが」
「ひよっこ冒険者でな、成り立てなんだ。しかし、家名か。貴族なのか?」
「まぁ一応は。戦績で頂いた領地ももたない名誉伯ですよ」
なるほど、俺でも歯が立たなかったあの戦闘力なら不思議はないな。して、マルス…どっかで聞いたことがあるような。マルス…マルス…うん?冒険者で、剣を使って、マルスということは…??
「ってことは…まさか、剣王マルス!?」
「そうです…遣える王を差し置いて王を名乗るのは良くないんですが、まぁ僕は名乗ってもいませんし認めてもないんですが…一応、そのマルスです…」
まさか、あの肖像画よりもかなり若いぞ!?面影はあるが、気づけるかと言われれば難しい。
「しかし、凄まじい身体能力でしたね。強化魔法があっても地力がもともと高くなければあれほどまではいけません。そしてその尻尾の剣の素晴らしさと言ったら!僕も振り回してみたいです」
興奮した様子で俺の尻尾を撫でるマルスは先ほどとはうってかわって見た目通りにの青年のようだ。しかしどういうことだろうか、クリュフからマルスがいるということは聞いていない。マルスがいればウルとイーも救えて…いや、この考えはだめだ。
「ここはノースブラントの東寄りのようじゃな」
「ええ、そうですよ。あなた方はどこから?」
「リュノンという国からだ」
「リュノンですか!なるほど、どうりで知らないわけです。リュノンとは冷戦状態でして、国交も閉ざされているのですよ」
なるほど、俺がSランクの冒険者になったとしても物理的な距離があるし、情報が入りにくかったのか。
「僕はデリワルド王国の戦略的部隊顧問もしているのである程度の情報通ではあるのですがそれでもヴァーンという名前は聞きませんね…あまり参考にはなりませんが一応、冒険者ランクを聞いても?」
これは見方によればリュノンと冷戦状態であるデリワルド王国のマルスがリュノンから来たという俺たちの情報を得ようとしているのだろう。だが俺達とリュノンは別にたいした関係ではない。ただクリュフが所属している冒険者ギルドがリュノンにあるというだけだ。よって、情報を明け渡すことになんら問題はないだろう。
「一応、最近Sランクをもらった」
「Sランクですか!?まぁあの身体能力とその尻尾の剣の切れ味からすれば不思議はない…というか、Sランク以外に考えられるものではないですよね。そこの2人の少女の魔法も素晴らしい具合でした。僕の剣にできるほどの岩と氷。不純物が一切ないのでしょう、かなりの腕です」
剣にできるかどうかが判断基準なのか…よくわからんな。それにしても、そうだ。たしか物理法則の魔法版、魔理法則とは反したことをマルスはやっていたが、あれはどうやっていたのだろうか。
「他人の魔法をどうやって自分のものにしているんだ?」
「ああ、それは簡単ですよ。魔法とは魔力を固めて現象を起こしているんです。法者が魔法を解除すれば現象を起こしている固まった魔力は消費されるか分散します。それを自分の魔力でコーティングしてしまえば魔力は分散しません」
なるほど、指でなぞる仕草は他人の魔法を自分の魔力でコーティングするものだったのか。ついでに形を整えてもいるのだろう。すこし俺もやってみたい気がしたのでミレイユにお願いしてみる。
「ミレイユ、すこし大きめの石柱を出してくれ」
「ほれ」
「ありがとう。えっと?自分の魔力でコーティング…薄い膜を張る感じでいいのか?」
「ええ、その認識で間違いないです」
三メートルほどの石柱に手をあて二メートルほどの大剣にするイメージをつくる。手を動かし少しずつ魔力でコーティングするが…膜の薄さがばらついて破けたりもとの石柱の魔力と同化してしまったり魔力の膜が分散してしまったり。俺でも難しい技術だった。
「まぁ万人に出来るようなら僕は剣製王とか意味不明な2つ名なんかつけられてないんですけどね?誰かが盗剣王とか言ってますが、そっちのほうが分かりやすいです」
「ふむ?面白いことをやっておるな」
とキュリスによーく言い聞かせたミレイユが話しに加わってくる。どうやらマルスの技術に興味を持ったみたいだ。
「ふむ…ふむ?なかなか難しいのじゃ…妾らでも難しい技術のようじゃな…キュリス、ちょっとやってみるのじゃ」
「…?こう?…あれ、あれれ?できないや」
魔法のプロフェッショナルである龍種であっても難しい技術か…少し前の俺なら出来たのかもしれないな。…いや、これは繊細な技術だ。俺の、いや俺ら龍種の力だと強すぎてできないのかもしれない。
「さて、あなた方はインヴィクルを倒しにここまで来たのですよね?」
「ああ。リュノンとはなんの関係もないしな。ただ知り合いがリュノンのギルドに勤めてるってだけだ」
「そうでしたか、それは好都合です。もしヴァーンさんがリュノンで立場ある方でしたらインヴィクル壊滅のため手を取り合うのに障害が多すぎる。デリワルド王もインヴィクルに苦悩してるようなので、こちらとしてもインヴィクル壊滅には積極的なのですよ。まぁ横っ面をリュノンに殴られないために大規模攻勢には出れないんですがね」
再三思うのだがこのマルスがいるデリワルド王国と冷戦ができるほどで、しかも警戒もされるほどのリュノンとはかなりの大国なのではなかろうか。
「俺らもインヴィクル壊滅には賛成だ。手を取り合うというのなら協力しよう」
「それはありがたい。ではまずは王に謁見しましょうか。僕の紹介なら問題ないはずです」
キュリスの氷はそのままに人質だけを解放してデリワルド王国へと入った。




