氷像
氷を泳いでいくキュリスの速さはまさに水を得た魚。わりとガチめに追いかけても追い付くことが出来なかった。ミレイユと並走しながら、キュリスの急変について考える。
「やっぱりあれってスープが原因か?」
「ふむ…妾が思うに、温かいということが問題だったと思うのじゃ。どうやら温かいものに触れると性格が急変するようじゃの」
なんだそれは。不便ってもんにもほどがあるぞ?世界には温かいものなんていくらでもある。まぁ旅についてくるかどうかなんて分からないか。アヴくんみたいに自治すべき場所があるのならそうしなければいけないだろうし。…そういえばアヴくんの時やミレイユの時みたいに、龍玉が漏らした魔力で発生した魔物と戦った覚えはないな、キュリスの時は。どっちかっていうと作りが悪魔的だったが、もしかすると魔物が集まっている場所をスキップしたか、はたまた今度の熱の暖系の龍玉でまとめてくるのか。少しだけ憂鬱になってくる。っとと、考え事をしていたら目的地に着いてしまった。
「うわぁ…こりゃ派手にやってるなぁ」
「一面氷付けじゃの」
ちなみに、氷の上を効率的に移動する方法も追いかけてる最中に考えていた。考えてみれば、立って歩く必要もないというのをキュリスから学んだためである。結果思い付いたことと言えば…
「最初から転んでれば転ぶこともなくね?」
「アホじゃな」
ということである。それはまさしくペンギンのように腹で滑る。攻撃時は回って下段攻め。ふざけているようで効率的ではある攻撃手段だ。そんなこんなでミレイユを乗せて滑り、内部へと潜入する。
「ふむ…どうやら何者も関係なく氷付けになっておるようじゃな」
ミレイユが魔法で氷の強度を何十倍にも上げる。そんなミレイユを乗せながら俺はどんどん下へと降りていく。
「しかし…おかしいのじゃ」
ん?とミレイユに聞き返す。俺は乗り物となっているが、ミレイユは移動を気にすることがないので周辺をよく観察できるのだ。
「敵の姿が見当たらんのじゃ。氷付けになっておるのは、全て人質のようじゃの」
なんて?と、よーく観察してみれば、構成員の証がない。氷付けになっていて見づらいというのもあるだろうが、明らかに全裸な氷像にさえないのだ。これはどういうことだろうか。その答えは、例のごとく最奥でわかった。最奥にはキュリスが背中を向けて立っていた…が、その先に見えるのは剣を構えた人影が。
「…しぶ、とい!」
「…やれやれ」
そして、信じがたいことに圧されているのはキュリス。つまりは…あいつは、ウシャンのように龍種を束縛できる可能性があると。
「ミレイユ!」
「うむ!」
ミレイユが対抵抗龍力相殺破を放つ。ものものしい名前だがやることは簡単、龍種の力を抑える力を抑えるというもの。…しかし。
「む?なぜじゃ、相殺されておらん」
「それはどういう?」
「そも相殺する必要もないと言った方がよいか?抵抗龍力がないのじゃ」
えっと…それはつまり?
「…あの人間、人間の力だけでキュリスに対抗しておる」
最高位龍種に?龍種とはその属性の頂点、最強の一角だ。その道のエキスパート…全ての上に立つ存在と言ってもいい。だからこそその道を壊すような存在を警戒していたのだが、もはや壊す必要もないと?…やばい!!キュリスが操られたら終わりだ!!
「こん…の!」
「ヴぁーん?」
「新手ですか!―くっ!?」
全身全霊をもって相手へと躍りかかる。強化魔法を全開に、踏みしめる氷に爪を食い込ませ割る勢いで。踏みしめる大地を沈める勢いで。しかし全身全霊で振り抜いた尻尾の剣…星刻剣は、相手に軽々といなされてしまった。
「甘いですよ」
星すらも切り刻む剣、星刻剣ヴァーンは尻尾についている。いくら剣の切れ味が鋭くても、持ち手の尻尾はただの尻尾だ。だから尻尾を止められてしまえばただの重りと成り果てる。そして勢いよくしなる尻尾は…俺へと牙を剥く。
「くそっ!」
小太刀で星刻剣の腹を叩き起動を逸らす。…ぎりぎり鱗を持っていかれたが、薄皮一枚といったところだ。相手も俺も一度距離をとり、相手をよく観察する。
「三刀とは…しかし、尻尾の剣の切れ味は尋常じゃない。刃先が薄すぎてよく見えないほどですね…ふっ!」
ミレイユの魔法が相手に踊りかかる。文字通り踊るように。しかし、相手は向かう石柱をつかみ、後続の石柱へと当てて…打製石器のように、剣を作った。そしてその剣を指でなぞるだけで刃が出来ていく。ミレイユの石柱を、自分の剣にしたのだ。そして今度は氷の床にその剣を突き刺し、氷をくり貫こうとした。それを見過ごす俺ではない。一連のことから、また剣を作ろうとしていたことは分かっている!
「やらせるかよ!」
「まぁそうですよね」
氷を滑り、斜め下からの切り上げ。これは避けられてしまうが、本命は飛び上がった所を小太刀で一刀すること!―しかし、続く一刀は空を切った。
「なん!?」
「分かりやすすぎるんですよ。尻尾の切れ味と増強した身体能力だけで戦っていますよね?読みやすすぎて、これが御前試合だと勘違いさえしてしまいます」
相手は一刀目の、俺の尻尾の剣の先に立っていた。そして振り抜かれる一閃、その剣筋、速度は俺の目でさえ辛うじて捉えられるかというもの。それは俺の尻尾を斬ろうとして…瞬時に尻尾の強度を最大まで上げ、防いだ。
「これは驚きました。まさか僕の剣を弾くとは…」
「ふん!」
そのまま尻尾を振り抜き相手を飛ばす。その勢いは弾丸よりも速かったはずだが…相手は壁にクレームを作りながらも軽々と着地していた。ミレイユは魔法を武器にされたことから、もう追撃をしておらず、俺への強化へと手を回している。完全に俺任せという状況だ。…魔法とは法者が魔法を解除した瞬間にその効力を失う。よって、ミレイユの魔法で作ったはずの武器はミレイユが魔法を解除した時点で消えるはずなのだが、一向にその気配がない。
「さて、これで2本目です」
「っ!!やらせるか!!」
できたクレームのヒビから手頃な素材を掴み抜く。そしてそれは、相手が撫でれば剣となるだろう…一刀だけでも手に負えないのに、二刀にしてしまえば完全に詰みだ。ならば!
俺は少し深めに足に力を入れ…滑る。その拍子に手に持つ小太刀は相手へと吹き飛び…捕まれた。
「バカな!?」
「いい線はいってましたよ、これはお返ししますね。剣が短いので今の僕ではまだ使いきれません」
と、二刀目を作られるのを阻止できずに投げた小太刀を投げて寄越される。それはまるで手裏剣のように俺を刻もうとするが、軌道上に異次元ボックスを展開、小太刀をやり過ごしたところで瞬時に立ち上がり相手を見据えようとし前を見れば…目前に、相手の姿と迫る剣身があった。反射的に後ろへと跳ぶ…が、気づけば相手は後ろへと回って、俺を剣で迎えようとする寸前だった。
「これが読み合いですよ…っ!?」
ぎりぎりで身長を低くすることに成功し、頭上にヒュンっと空間を切る音を聞き脂汗をかきながらも身を捻って相手を尻尾で横凪ぎに斬ろうとする。が、やはりというべきかかわされてしまった。
「…どういうことですか…初めの姿は幻影?いや、それはない…サイズがあってない装備が証拠です。いいですね、おもしろくなってきました」
緊迫する空気。少しの変化で決着するだろうという刹那、ミレイユの声が響き渡った。
「待つのじゃ!ヴァーン、戦闘体制を解くのじゃ」
「…了解」
ミレイユが言うのならば間違いはないのだろう。なにか策があるのか、撤退の準備ができたかだ。しかし俺の予想を裏切り、ミレイユは言葉を続ける。
「お主、そこな剣士。1つ問うてよいかの?」
「ええ、結構ですよ。なんでしょう?」
「あそこの人のような像は、誰のものじゃ?」
…ん?よく見れば端の方に、氷付けになった人影が見える。おそらくというか十中八九キュリスがやったことだろうが…はて。
「あれはインヴィクルリーダー格、ビョンルというやつです」
?どういうことだろうか。
「ふむ、そやつは主の仲間か?」
「まさか、僕はそいつを捕らえに…ああ、なるほどそういうことですか」
ああ、俺も理解した。つまり、つまりは俺らは…
「お互いにインヴィクルを壊滅させるもの同士、敵だと勘違いして仲間討ちをするとこだったということですか」
「とんだ茶番だな」
「ええ、流石に3対1では分が悪くって、つい戦闘に集中してしまいました」
さて、こんなややこしい事態を起こした張本人には…お仕置きをしなければいけないな!




