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ウシャン

今回も胸糞展開です。


前話のあらすじ

地下の実験施設で行われていたのは、十歳ほどの子供を二人鎖に繋ぎ、それぞれの肉親二人を人質にとって誰を殺すかを選ばせるというものだった。一人につき二人ずつ選ばねばならず、先に選ぶ権利は毒が入った杯を先に飲み干した方が有するという極悪極まりないものだった。しかし実験は一度も成功しておらず、その失敗の副産物として危険度四ほどの魔獣が多数生まれているようだった。その実験を主導しているのは仮面を着けた男で、その戦闘力は危険度四ほどの魔獣を片手間に処理するほどに高い。

二日かけて調査した結果、この施設内には仮面の男以上の戦闘力をもつ者はいないようだった。ただし、いままで産み出されてきた実験体の魔獣が数十体隔離されていて、襲撃した際にはこれらが敵に回るとみていいだろう。仮面の男はリーダー格だと言うことが判明しており、内部構成員は百五十名程度。構成員の戦闘力は大したことはないが、仮面の男と実験体の魔獣には要注意だ。

ということをクリュフに報告したところ、魔獣はもともと幼い子供だったということは伏せ、めぼしい冒険者パーティーからいくつかを選抜して外部に漏れないよう話をつけ、一気に目標を叩くと言われた。準備期間は二週間。二週間後に大規模な攻勢に出るという。


「それまで妾達も準備せねばならぬな」

「まずは分体の強化か。ミレイユは同時に何体操れそうだ?」

「百体以上は余裕じゃな。それ以上になると周囲の魔力を吸ってこちらの陣営に支障を来しかねないのじゃ」

「ふむ…俺はどうしてもキツそうだ。やはり精神系の権限が足りない」


精神系の権限をもつ龍玉を回収できればいいのだが、さすがにこの二週間では無理だろう。火力を増したいのならば運動系の龍玉を回収しなければならないが、おそらく運動系の龍玉はアルヴテリアを縦横無尽に飛び回っているやつだ。回収するのは至難だと思う。今持っているのは空間系の権限と、物質系の権限。それと自前の万能魔法。これでできることといえば、異次元ボックスと自身の身体性能を強化することくらい、か。異次元ボックスには開発した爆弾をこれでもかと詰め込むとしよう。




そうしてとうとう二週間の時が過ぎた。一戦交える前にイーの所によったのだが、どうやら留守のようだった。戦闘の前のざわつきなのかは分からないが、荒れる心をなだめ、俺らは集合場所へと向かう。


「お前がヴァーンか。今回の作戦で司令塔をする、アルマルだ。そしてこいつらが俺のパーティーメンバーだ」

「よろしく頼む、アルマル。こっちは俺のパーティーメンバーのミレイユ。今回の作戦では特攻をする」


作戦メンバーと軽く挨拶を済ませ、いよいよ攻勢に出るかと移動している最中、ミレイユがあるものを見つけた。それは、櫛の破片。


「それはまさか」

「…そうじゃの。これは妾が作ったものじゃ。イウルラ・リュミレイユーズと込めた魔力を抜かれた、その残骸じゃの」


まさか、イー達がここに?なんの目的で?なぜ?もしかしたらイー一家はベテランの冒険者か俺らに匹敵するほどにものすごく高位な存在で、強大な力を持って――!!


「……最悪なのは、もう実験体にされていることじゃな」

「―ミレイユ」

「良いのじゃ。妾とは種族も位も遠くかけ離れた存在。情を持つことがそもそもの間違いだったのじゃ」


クソ!…いや、まだだ。施設内にはまだ他にも子供達がいた。真っ先にイー一家で実験をする必要なんて――


「おとん。命の価値は等しいのじゃ。しかし、関係の価値はそれぞれ違うのじゃ。だからこそ、我ら龍種は平等でなければならん。命という(ことわり)を外れた妾達は、平等でなければならんのじゃ…」


…そうか。俺は元人間で、ミレイユは根っからの龍だ。人間とは根本的に違うもので、そしてミレイユ自身もそう思っている。だから、人間とふれあうことで得てきた"人間らしさ"に戸惑っているのか。こう理を説くことによって、理由をつけているのだ。ここは俺がもっと、ミレイユを導いてやらなければならない。


「…大丈夫だミレイユ。俺らは龍種である前に、知的生命体だ。なにかあれば、泣いてもいいんだ」

「――……」


そうこうしているうちに結界の前へと来た。今回は奇襲を万全にするため、この警報装置の役割を担う結界を解除するということになっている。そしてそれ専門のベテランが作戦メンバーにいるのだ。


「解除しました」


よし、あとは認識阻害も解除するだけだ。あると分かれば解除できるそうだ。三、二、一で解除される認識阻害…だが。


「クソ!!どうして作戦内容がばれてやがんだ!!」


眼前に広がるのは、いまかいまかと待機していた数十もの魔獣達。このことから分かるのは、この作戦メンバーにスパイか間抜けがいるか、相手が一枚上手だったか、だ。魔獣達はそれぞれの力を解放し、俺らへと突っ込んでくる。しかし、やはりクリュフが選ぶベテランパーティー。頭では混乱しながらも、体は即座に反応して応戦体勢を整え、敵を迎え討つ。


「この様子だとここは大丈夫だろう。俺ら特攻隊は内部へと潜入するぞ!」

「任せた!」


アルマルの号令で俺らは内部へと潜入する。全二十パーティーのうち、俺らを含め三パーティーが特攻隊だ。俺らは内部で暴れ、敵の注意を引き寄せる役割で、他の二パーティーは敵を魔法で無力化し、人質を保護する役目がある。


「ミレイユ!」

「うむ」


俺の異次元ボックスにいれていたミレイユの分体を解放して、一気に攻め落とす。問題は入り口の、インヴィクルの紋章を体に刻んでいないものが通ると閉じる扉だが、所詮扉。地龍であるミレイユにかかっては自動ドア未満の役割しか持たない。


「それじゃ俺たちは下に向かっていく。分体を10ずつ預けるからなにかあれば遠慮なく使ってくれ!」

「了解した!任せたぞ」


二階、三階と構成員を潰していき、人質の保護がスムーズにいくようにする…というのは建前で、俺らはイー一家を探していた。だが、どうにも見つからない。はやる心を押さえつつ、俺らはどんどん下へと下っていった。そしてとうとう、実験場へと。ここまでくると、もしかしたらイー一家は捕らえられていなかったのかと言う希望的観測が過るが、しかしそれは最悪の形で覆される。ドアをぶち破った瞬間目に移ったのは、イーにノコギリが振るわれる所だった。


「イー!!」

「――んん…」

「ひは!!いいね面白い展開になってきた!!びっくりして外してしまったじゃぁないか!!」


振るわれたノコギリは首元から大きく逸れ、イーの頬をえぐった。その拍子に噛ませられていた布が切れるが、仮面の男は意にも介さない様子で、こちらを向く。


「これはこれは…お客様方、かなりの力をお持ちですねぇ?これは危ない。本来ならば完全体を制御するためのものだけれど、この実験を邪魔されても困りますからねぇ。あなた方に使ってしまいましょう」

「完全体?―なに!?」

「あ、ありえんのじゃ!」


意味も分からず、急に脱力し、俺とミレイユは地に伏せてしまった。どういう原理かは分からないが、龍種である俺とミレイユに害を成せるような存在に、一発目で当たってしまうとは!!


「あなた方には見ていて貰いましょう。さて、ライア君。もう一度宣言してください。あなたは、誰を!選ぶのか!!」

「3番と4番!!」

「お母さん!ウル!!ミレイユ助けてよ!あの魔法で、この男を倒してよおおお!!」

「へぇ、あの小さな女の子はミレイユって言うのだねぇ?魔法も使えるのかぁ要注意だなぁ?それはさておき、イー。さっきははずしちゃったけど、今回は外さないからね?」


クソ!!どうしても力が入らない!!何が原因なんだこれは!!


「あぁ…バイバイ、イー。君もこの実験の犠牲者の1人となるんだ――!?」


仮面の男が再びイーへとノコギリを振るおうとした瞬間、ミレイユの髪についていたかんざしが男がつけている仮面を襲った。その拍子にまたもやノコギリは逸れ、しかも今度は仮面の男の素顔が(あらわ)になったのだ。そしてその顔をみて、イーの顔が驚愕の色に染まる。


「やっぱり貴方、ウシャンだったのね!!」

「ウシャンって、お父さんの名前…なんで!?お父さんは5年前に行方不明になったって!!」

「……貴様、なんてことをして…どうしてくれるんだ?ミレイユとか言ったな。後でじっくりといたぶってやる。まずはこのうるさい女だ」

「お母さん!!」

「最後にお前を殺す相手を知れて良かったな、イー」


止められ…なかった……。イーから溢れる鮮血を目にしても、この体はピクリとも動きはしない…


「次はお前だ、ウル。せめて苦しまないように殺してやる」

「んんん!!!」

「ウル!!やめろ!やめてください!!僕に何かあるって言うんだったら何でもするから!!だから!!」

「その何でもがこれなんだよ、イル。恨むならイーとウルを選んだライアを恨むんだ」

「あああああああああ!!!!!ウルぅぅぅぅぅぅぅ!!!」


ウルにもノコギリが振るわれ、鮮血が止めどなく流れる。その勢いはイーのと合わさり、そしてとうとう、俺らの目前にまで迫るほどにまで来ていた。そして、ミレイユの顔を沈めた。その瞬間、ミレイユの気配が一瞬にして膨張する。目は完全に怒り狂い、瞳孔が縮小していた。


「さぁイル。次はお前の番だ。お前は誰を選ぶ?」

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