ロウティ
前話のあとがきに記載した通り、今回は胸糞展開です。これからは胸糞展開がある場合、次話の前書きにマイルドにしたあらすじを記載しますので、苦手な方は飛ばしても大丈夫です。
階をまたぐと、今度はなにやら実験施設のようなところにでた。作りはかなり強固で、ひょっとしたらドラクレートのブレスでも壊せないかもしれないような。いまの俺が危なかったような一撃でも壊せないようだとしたら、ここでは相当な力をもつものを実験対象にしている可能性がある。少し張り込んでみるか。
待つこと三日。構成員が十歳ほどの小さい子どもを二人を実験場に連れて、それぞれ別々の鎖へと繋いだ。当然、子どもは泣きわめいている。だが、一瞬で泣き止む事象が起きた。
「ママ!お姉ちゃん!!」
「お母さん!!アンナ!!」
仮面を着けたある男が二人の親と、異性の兄弟姉妹を連れて来たのだ。…子どもほどの大きさがあるノコギリを持って。これだけで嫌な予感がするが、さらに男は近くにいた片方の子どもの親である女性を軽く傷つけ、言う。
「選べ。この場にいる人間の中で、誰を殺す?それぞれ2人ずつ選べ。先に選べる権利は、いまから飲ます毒を先に飲み干した方に与える。溢すんじゃぁないぞ?」
鎖で繋がれた子どものそれぞれが二人選ぶのだとしたら、合計四人は死なないといけなくなる。つまりは、片方の家族が全滅し、片方の家族が一人欠けるということだ。その決定権を、毒杯を先に飲み干した方に与えるという。先に選ぶ方は自分の肉親を選ぶことはしないだろう。したとしても、毒杯を飲み死に体の自分だ。そして自分を選んだとしても、あと一人。同じ毒杯を飲んだ相手を選んで被害を最小限にしようにも、後から選ぶほうは残った自分の肉親か相手の肉親から二人選ばなくてはならない。自分の肉親から一人、相手の肉親から一人選ぶか、自分の肉親を両方とも選ぶか、相手の肉親を両方選ぶか。どちらにしろ、クソ以上の実験だ。何が邪神の復活だ!!
「クソ!!」
「待つのじゃおとん。まだ偵察は終わっとらんのじゃ」
「そんなことは!!」
「落ち着くのじゃ。冷静になれとは言わん。ただ冷酷になるのじゃ。妾達が行ったとて、この実験で誰も犠牲にならずに済むとは思えん。ここからじゃ間に合わんし、施設の崩壊でさらに犠牲者が増えるのじゃ。そして不用意に飛び込めば、妾達も操られる可能性があるのじゃ。だからこそ数多くの冒険者とやらが返り討ちにあっておるのじゃろう?そのなかに妾達が混ざってしまえば、一国どころの話では無くなるのじゃ。この拠点から残党を残してこれ以上被害を拡大させるより、確実な情報収集をして根絶やしにする方が良いとは思わんかの?」
「……」
「おとん…辛いようなら見なくてもいいのじゃ。妾はしかとこの目で見届けよう…せめてもの弔いに」
……クソ。ミレイユだけに見せる訳にもいかない。 情報収集をするため、根絶やしにするため小を捨てる、か。ああ、なんともまぁ…。
再度ディスプレイを見れば、鎖に繋がれた子ども達に毒杯を飲ませている最中だった。
「んぐっ!!ん―!?かはっ」
「ゴキュ―ゴキュ―ゴキュ―」
片方はむせたのか最後まで飲みきれずに吐き出してしまい、片方は最後まで飲みきっていた。仮面越しでも分かる下卑た笑いを浮かべる男は興奮した様子で宣言する。
「あーーはっはっは!!溢しちまったなぁ残念!さぁ先に選ぶ権利をノルマくん!!君にあげよう!!ノルマくんのお母さんを1番!妹ちゃんを2番!!ロウティくんのお母さんを3番!お姉ちゃんを4番として、さぁ誰を殺す!!?」
「っがぁ!!――」
「んんん????聞こえないなぁ」
「3番と4番!!」
「ロウティくんのお母さんとお姉ちゃんだね?まったく君は予想通りの答えをする!!」
「あ…ああああああああああああ!!!!!!」
「んんんん!!んんんんんん!!!」
「んんんんんん!!!!!!!」
ロウティと呼ばれる子どもが先に毒杯を飲み干した子ども、ノルマへと歪んだ顔で怨嗟の声を上げ、三番と四番と呼ばれた母親と姉が悲鳴をあげる。その悲鳴は、口を塞がれているために上手く出せていない。そしてついに、選ばれた二人にノコギリが振るわれた。激しい悲鳴と飛び散る血しぶき。そして声を上げることしかできないロウティ。嬉々として肉を断つ仮面の男。と、ここでロウティに異変が起きる。血管が激しく脈打ち、眼球も赤黒く変色したのだ。だがそんなことも構わず仮面の男は声をあげる。もはや勢いをなくした血の流れに足を沈めて。
「さぁ次は君の番だロウティ!ノルマを恨んじゃいけないよ?毒を先に飲めなかった君が悪いんだ!さぁ、君が選ぶのはどの二人かな?」
「ノルマと1番!!」
「……はぁ、君はなんとも、他の実験体と同じ答えを。つまらないなぁ」
「――……」
「んん……」
「……」
ロウティの家族を選んだ罪悪感からか、ロウティの反応に対してノルマの反応は静かなものだった。母親も子供が他人を選んだという事実に罪悪感を感じているのだろう、その選択を受け入れているようだった。そんな結末を一人見守ることになった妹は、涙を流すだけだった。そして、血みどろのノコギリをまずは母親に振るう仮面の男。だが先ほどの興奮した様子はなく、ただ言われたからやっているだけという感じだった。そしてその傷口も非道な殺人鬼というよりも、執行者といった方が良いような、苦しまないように配慮してあるものであった。ロウティの母と姉は苦しみが続くように荒い傷口だったが、この違いはなんだ?ここにこの実験の目的を知ることができるかもしれない。
「ノルマくんもやったし、一人残されて辛かろう?大丈夫だ妹ちゃん、寂しくないよ。いま一緒にいかせてあげるから」
「んんん!!」
やはり一息にノルマの妹にノコギリを振るった仮面の男。結局、残ったのは毒を飲んで異変が起きているロウティだけ。結局、ここまでなにを目的とした実験だったのかわからずじまいだ。
そう、自分の無力を嘆いていたところ、ディスプレイに映るロウティの姿に異変が起きた。
「拘束具を自分で外すくらいの力はあるか。だがまだ憎悪を制御できるほどの心が足りない。君もまた、他の実験体と同じだな」
「ウォゥーーーーー!!」
「今回は犬型か。まったく、遠吠えがうるさいだけなんだが」
膨張するロウティの体は次第に人の形を失っていき、最終的に醜い狼の魔獣になってしまった。その目は憎悪に染まり、赤黒い体毛からは紫電を迸らせている。
「もしかすると、これが実験の目的か?人造の魔物を作り、制御するという」
「おそらくじゃが、そうじゃの。幼子の体は無垢じゃ。何物をも受け入れてしまう。飲まされていた毒杯とやらは、濃縮した魔素なんじゃないのかの?」
「クソ、いつの世界いつの時代でも、犠牲になるのは立場も力も弱い子供だってことか!!」
「好き好んで身を滅ぼすような相手に関わりたくはないということじゃの。して、これで実験内容がわかった。あとは内部にどれ程の構成員がいて、仮面の男がどれ程の強さかを見極めなければならんのじゃ」
再びディスプレイに視線を移す。ロウティだったものは沸き上がる力を解放するように紫電を辺りに撒き散らせ、仮面の男の逃げ場を無くそうとしているようだった。その威力から見るに、魔獣となったロウティの危険度は四辺りだろう。Bランクほどのベテラン冒険者パーティーで倒せるくらいの戦闘力だ。だが、個人で倒すにはとてもではないが無理だ。しかしそんな魔獣を、仮面の男は。
「お座り」
片手間で終わらせたのだ。少なくとも、この仮面の男の戦闘力はリディル王に匹敵すると見て良いだろう。それを知れただけでも意味があった。
「ふむ…それでは内部にどれほどの敵がいるか、調べて回るのじゃ」
危険度別の戦闘力は本編にでたものを抜粋して活動報告の所に載せました。気になった方は読んでみてください。




