表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/106

リュミレイユーズ

「ほれ、こうかの?」

「ミレイユ凄い!こんなにはやくできるようになるなんて、天才だよ!」

「そうじゃろうそうじゃろう」


目の前には微笑ましい光景が広がっている。その隙に俺は、再度情報収集を。


「イルくんは何歳なんだ?」

「7歳です」

「へぇ、お父さんがいい人なんだな、きっと。あんなに元気で」

「…実は、5年前に夫が行方不明になって…家にもう1人娘がいて、2人とも女手一つで育ててきました」

「ふむ…やっぱりあの怪しい集団が原因で?」

「わかりません…けど、10年前くらいから突然現れて、町から遠く離れた人も寄らないところで変なことをやってるとかなんとかで」


つまりインヴィクルは十年以上前から存在しているというわけだ。なるほど、大々的な悪の組織としてはかなり続いている。そしてクリュフから聞いた通り、周辺の住民には多大な影響がでているようだな。


「あの…貴方は」

「あ、自己紹介がまだだったか。俺はヴァーン。一応、冒険者やってて、あっちがパートナーのミレイユだ」

「やはり冒険者さんでしたか、私はイーです」

「イー、覚えた。まぁ成り立ての新人だがね。今日の宿もまだ見つかっていないくらいで」

「では古くて狭い家ですが、お礼も兼ねてでよろしければ私達の家に泊まりませんか」

「いいのか?そういうことなら遠慮なく泊まらせてもらうが」


巧妙な手口。相手が自分に恩を感じていたり借りがあったりすると、いざ困ったように見せかければこのようにして思うままに動いてくれる 。詐欺師の手口だろうか、これは。ということで今晩の宿は決まりだ。


「本当に狭い家ですが、あがってください。ただいまウル。この方たちは親切にしてくれた方々だから、失礼のないように」

「…?はじめまして、ウルです」


部屋の中にはお留守番をしていたのであろう、イルとは似ていてもどこか別の面影がある少女がいた。どうやらウルと言うようだ。年齢はイルと同じくらいか。

家は言うとおり、五人入ってやっとギリギリ寝れるほどの大きさだった。だがその大きさのおかげかイーの性格か、室内は綺麗にされていた。小さいわりには、三人にとっては過ごしやすかろう。俺も無駄にデカイ家よりも、こういう秘密基地のような家の方が落ち着くし、男心をくすぐられる。


「せっかく泊めてもらうんだから、ご飯を作る手伝いをするか、ミレイユ」

「うむ。イルに妾が作った美味しいご飯を食べさせるのじゃ」


と腕によりをかけること数時間。イルとウルのお腹の虫がとうとうなりやまなくなった頃にご飯はできた。ミレイユが関わったため少し和風な味付けだが、三人とって新鮮なものなのだろう。目を輝かせて見入っていた。そんな三人が当然なにもしなかったわけではなく、とても美味しそうなパンを焼いてくれていた。俺は最初驚いたのだが、出てきたのは餅のような食感のパンで、噛み応えがあってしっとり甘い。見た目以上に美味しいパンであった。これは和風なおかずに合うとばくばく食べてしまい、ミレイユに怒られたほどだった。


「あーおいしかった。ミレイユは良いお嫁さんになるね。かわいいし、優しいし、運動できるし、魔法も使えて料理もできる」

「まーたイルはそうやって、女の子をたぶらかすんだー」


おおう、出会ったころから思っていたものだが、こやつ、天然かどうかはわからんがものすごい女たらしだ。顔は幼いながらもイケメンで、金髪金色眼(きんぱつこんじきがん)の美少年。変なお姉さんに捕まってしまうような危うさがある。そんなビジュアルな上に、平気で口説き文句を言うのだ。もちろんフリースタイルフットボール(仮)でかなりのパフォーマンスができるくらいには筋肉質だ。ミレイユはそんなイルの美醜で惚れている(?)わけではなかろうが、しかしミレイユの名前には一応、ヴィーナスというものがある。ミレイユ・ランド・ヴィーナス。このヴィーナスがもしかしなくても美の女神のことだとすると、ミレイユは美しいものを好み、醜いものを嫌悪するという特性があるかもしれない。まぁ知的生命体で一般的に言えることではあるが、あまりに偏向的に過ぎるのなら直さなくてはならないだろう。要注意だ。


「そうかのそうかの。イルはどんな女子が好みなのじゃ?」

「将来ケッコン?するなら、ミレイユみたいな女の子がいいなぁ」

「そうじゃろうそうじゃろう」

「あ!そうだミレイユ、ウルとお友だちにならない?」

「ふむ、いいじゃろうウル。そこまで言うのなら、妾が友達になってあげるのじゃ」


微笑ましい光景が広がっている。ふとイーの方へと視線を向けると、丁度彼女もこちらへと視線を向けてきた。そしてお互いに微笑み交わす。ずいぶんとまぁ、子供らしいなと。

そんなこんなで就寝時間。ミレイユはイルと手を繋ぎながら向かい合って寝ている。子供だからこそ異性への遠慮がないのだろう。大人では恋仲同士でしかできないことだ。




翌朝。昨晩作りおきしておいたものを食べ、今後どうするかを考える。イルとウルの存在がミレイユの中で大きなものとなっているのならば捨て置けないが、イル個人だけを見てもらっても仕方ない。人間全体をよく知ってもらい、その上で人間が悪いだけのものではないのだと理解してもらわないといけないのだ。特にミレイユは人間から受ける影響が大きいと考えられる。なんせミレイユは地龍。体のあちこちに穴を開けられたり、爆発させられたり、汚されたり。アヴくんは空間という目には見えないものだからこそ人間にはなにもできないものであるが、ミレイユには見えるだけじゃなく、実体がある。ここも注意すべき点であろう。故に、ミレイユには人間に絶望しても余りある希望をもってほしいと思って人間の世界を見せているのだ。そんな人間の世界がイル個人だけに限定されてしまうのはいただけない。イルとウルという人間は善良なものだが、それだとイルとウルを失った途端に絶望してしまうだろう。依存はよくない。そしてそんなことは地母神。ミレイユに分からないはずもなく。


「それではイル、ウル。お別れじゃ」

「もう行っちゃうの?」

「せっかくお友だちになれたのに…」

「うむ。あまり長居もできんのじゃ。妾たちは冒険者じゃからの」


三人で手を取り合い、真っ正面で話し合うイルとミレイユ。イルとウルの瞳は潤んでいて、本当に別れが惜しいのだということが容易にわかる顔をしている。と、ここでイルとウルが家に入り、しばらくしたあとまたミレイユの前へと戻ってきた。その手になにかを持っているが…これは。


「ミレイユ、これ」

「ウルからもこれ、お友だちのしるしに…」


イルが差し出したのはただの石ころ。と、一見すれば馬鹿にしているのかと思うかもしれない。だがよく見てみれば、それはよく使いこまれた石ころだった。かどがすり減り、ところどころが欠けている。おそらくイルが(未だ正式名称が分からない)フリースタイルフットボールで使ってきたものなのだろう。なによりの宝ものをミレイユに渡したのだ。

そしてウルの方は一枚の純白の花の絵のしおり。これもよく使いこまれていて、思い入れがあるのだと思う。


「これ、僕が毎日フッボールの練習をするときに使ってるボール」

「これはウルが考えた幸運の花なの。ずっと使ってたものだけど、ミレイユの旅の幸運とウルたちの再会できる日が訪れますように、って」

「…ふむ。イルのボールはありがたく貰うのじゃ。して、ウル」

「…やっぱり、ウルが使ってたのじゃ嫌?」


ウルの表情が陰る。そんな様子にミレイユは慌てた様子で言う。


「そういう訳じゃないのじゃ。とても嬉しいのじゃ。この花はウルの想像した幸運の花なのじゃろう?」

「うん」

「それが嬉しくない訳がないのじゃ。ありがたく貰うのじゃ。して、ウル。この絵の花が、本当にあるとしたら、ウルはどう思う?」

「嬉しい、かな?」


…?ミレイユはなにをしようとしているんだ?周囲の魔力がまるで歓喜を隠せなくて踊り狂っているように動いているが。


「そうか、嬉しいか。それならばウル。イルも、少し目をつむっとくのじゃ」

「?」

「…?」


どういう意味かまったく分からないという様子でウルとイルは目をつむる。そうすると、ミレイユが踊る魔力を制御し始めた。それはまるで、思い思いに踊る人たちに、リズムを与えたように。そしてその魔力は次第に一つの種になり、芽吹き、そして花咲いた。その花はそう、絵に書いてあった幸運の花と同じものだった。


「目をあけてもよいぞ、二人とも」

「ん…わぁ!」

「ミレイユ、凄いよ!」


驚きと喜びを隠せないウルの顔。そしてミレイユへと称賛の眼差しを向けるイル。得意げになっているミレイユ。だがまだまだ終わりではない、と言ったミレイユは。


「覚えておれ。この広いアルヴテリアには、こんな奇跡のような魔法もあるのじゃよ」


ミレイユの手に乗っていた花はだんだんと萎れて枯れていった。その光景に悲しむイルとウルだが、ミレイユが言う花は咲くだけではない、という言葉に息をのむ。そしてミレイユの言うとおりに花は種を三つ残していった。さらにその種は先ほどと同じように芽吹き、花咲く。


「すごい!すごいよ!こんなのみたことない!」

「驚くのはまだ早いのじゃ」


パキ、パキと音がなる。それはやはり幸運の花からなっていた。見た目にそれほど違いはない。が、秘める魔力の量が桁違いになっていた。これだけでもかなりの権限があるだろう。だがさらに、変わっていなかった見た目も変化してきた。一つはだんだんと鋭く、一つは花を中心に半透明ななにかに覆われ、一つは横に線が伸びていった。一言で言えば、一つはかんざしに、一つはブローチに、一つは櫛になったのだった。


「この櫛を、ウルに。このブローチをイルに贈るのじゃ」

「いいの?ありがとうミレイユ!」

「宝ものにするよ!」

「うむ。いつか、会える日がくるといいのじゃ」


そういって、ミレイユは俺のもとへときた。察する俺は、イーに一つ会釈をして歩き出す。隣を歩くミレイユは手に持つイルからもらった石を圧縮して輝く宝石にし、手に持つかんざしへ(こしら)えて髪へと飾った。



「俺の知識にはあの幸運の花なんてものはないぞ」

「それはそうじゃの。なにせ、いまさっき創造したのじゃから。幸運の花、純白のイウルラ・リュミレイユーズ。良い名じゃ」




****************

名前『イウルラ・リュミレイユーズ』

位『最高位』

種族『創造物』

権限『幸運の花』

特殊権限『友好の証』『原点』

『リュミレイユーズ』

地龍の名前を持つその花は、地龍が祝福する場所に咲くという。気候地形地質等は一切関係なく、そこらに生い茂る雑草の中でもある民家の畑でも圧巻の花畑の中でもただ無造作に、だが己を誇示せんと気高く凛と咲き誇る。開花の条件は一切不明で、短い時は十秒、長いときは一年中咲き誇る。だがそのどれもが徒花となっており、実を残すことはない。ただ、アルヴテリア上で唯一実を残す個体がいるとされており、その種は億万長者でも手が出せないような値段になるとされる。色は青、紺、赤、紅、朱、橙、黄、紫、緑と多彩で、一説によると全ての色を持つとされている。だが種を残すとされるオリジンは純白、あるいは漆黒のどちらかと噂されている。そんな噂によれば、オリジンのリュミレイユーズを体内に取り入れると不老不死や超常的な身体能力、あらゆる知識を手に入れられるとされる。色つきのリュミレイユーズ自体からは万能薬となるエキスが取れる。花言葉は青系、赤系、黄系、緑系と大まかな色で分けられ、それぞれいくつか違う意味がある。主に青系を『ウ・リュミレイユーズ』、赤系を『イ・リュミレイユーズ』、黄系を『ル・リュミレイユーズ』、緑系を『ラ・リュミレイユーズ』とされている。植物から生まれた精霊のなかで、リュミレイユーズから生まれたものは位が高いものになるとされており、特に赤、青、黄、緑の原色のものは危険度9、あるいはそれ以上の力を持つとされている。しかし純白および漆黒のリュミレイユーズの精霊は未だ目撃されていない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ