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荒牡蠣

お待たせしました

「おお、すげぇな嬢ちゃん!本当に初めてか?」

「下らん嘘はつかんのじゃ」

「なら天才だよ!嬢ちゃんが漁師を職にしたら、将来は安泰だぞ」


やはり船に戻った客の中でもミレイユが一番荒牡蠣を採取しているどころか、俺と ミレイユしか荒牡蠣を採取できなかったようだ。監督官の漁師はミレイユをべた褒めすると、次に俺の方に向かってくる。そして、やはり荒牡蠣を採取できていることに驚くが、傷ついた身を見て顔をしかめた。


「相当傷ついているが…これは、その尻尾の剣で無理やり引き剥がしたのか?だとしても到底無理な話なんだが…まぁ、結果はともかく方法はあと一歩だったな。全員が戻ってきたら種を明かそう。まぁ、嬢ちゃんの身内なら教える必要はないかも知れないな」


言い残して立ち去っていく漁師。

戻っている客は三分の一くらいということで、ある程度客が集まるまで待つことになった。その待ち時間、俺らは取った荒牡蠣を食べることにした。

この荒牡蠣漁体験では、採った荒牡蠣はその場で食べることができる。荒牡蠣の食べ方といえば、名前の通り牡蠣と一緒で生食やフライ、鍋など多岐に渡るが、今回はスタンダードに七輪で焼くことにした。味つけは醤油…この世界ではシュユ、だったか。まぁ、ものは同じだから醤油でもいいだろう。

取り出した醤油をミレイユが物珍しそうな目で見ていることに気付きながらも荒牡蠣に醤油をかける。その熱で醤油の香ばしい匂いが立ち込めたところで、ミレイユが香りを楽しみながら聞いてきた。


「おとん、それはなんという液体なのじゃ?」

「これはシュユ。ソースの1つだ。香ばしい香りと、塩味が特徴だな。俺が産まれた世界じゃ醤油って名前なんだが」


俺が持っている醤油は濃味醤油だ。香りと塩気が強いのが特徴で、マイルドな薄味醤油よりも濃味醤油のほうが牡蠣の炭火焼きに合うと思った。

ミレイユは悩み顔でシュユ、醤油と繰り返し口ずさむと、ふむ、と一息頷いてから、納得したように言った。


「妾はシュユという名前よりも、醤油のほうがしっくりくるのじゃ。だから、妾も醤油と呼ぶのじゃ」


やはりミレイユも俺の影響を大きく受けているのか、容姿と同じく日本の文化のほうがしっくりくるのだろう。服も和服が好きなのか、シホンの町を歩いているとキョロキョロと視線が移って可愛かった。お金がなかったので笑顔にすることは叶わなかったが。しかし信短に貰った茶葉と和服はミレイユも気に入ったようで、ものすごく喜んでいた。その茶葉と和服も、アヴくんのおかげで強化された空間魔法に収納している。


「ふむ…すこし癖があるのじゃ」


牡蠣は子どもの舌にはあまり合わないのか、俺も子どもの頃は苦手だったと記憶している。まぁその癖のある味も醤油によってかなり軽減されてるが、生まれて間もないミレイユにはそれでも癖を強く感じるのだろう。だがこれを魔法で炙り、焦がし醤油にしてもっと香ばしくすれば…


「これは美味しいのじゃ。醤油の力は凄いの」


採った牡蠣を全部食べ終え甲板に戻ってみれば、大体の客が戻ってきていた。だがそろそろか、と波うつ海に視線を向けた先に、それが見えた。


「あれは…魔物か?」


おそらくサメ型であろうその魔物に襲われているのは、一人の男性客。かなりの距離があるので肉眼ではよく見えなかったが視力を強化してみれば、人間の男性客は片手にナイフを持って応戦する気だとわかった。サメ型の魔物は男性客の周りを回って、獲物を品定めしている。その魔物は一体ではなく、複数…五体いるようだった。

サメ型の魔物がハリボテで、地球のサメや一部の魚のように血によって興奮、狂暴化するような類いではないのなら心配する必要はないだろう。だが、もし俺の視点からは見えない口の中に鋭く獰猛なノコギリ状の歯がぎっしりと敷き詰まっていて、血の匂いで狂暴化し、さらに仲間を呼び寄せるのだとしたら。下手に攻撃するのは逆効果だ。


「ミレイユ」

「うむ、妾は見てるのじゃ」


俺は一息に海へ飛び込んだ。俺はこの通り転生して龍となり水中でも生きられるが、本質的には陸上生物だ。だからこそ先ほどは尻尾を尾びれ代わりにして泳ぎを楽しんでいたが、いまは状況が違う。可及的速やかに。俺は水を踏み、波を蹴る。高波を踏み潰し、海を(なら)し、走る。近づいて見ると、男性客はかなり手練れのだということがわかったが、やはりサメ型の魔物の対処法を誤っているところを察するに海で活躍しているわけではないのだろう。


「な、今度はなんだよ、クソ!!」


叫ぶ男性客を放って、俺は水上走行から水中泳行へと切り替え、男性客へ徐々に近づくサメ型魔物に一気に近づく。そして胴体を掴み、体の上下を入れ換えた。入れ換えられたサメはスッと魂が抜けるように昏睡状態になる。動いているとただ狂暴なだけの存在はおとなしくなると案外可愛い奴だというのは多くのものに適用されるか。


「助けに来てくれたのか…感謝する。危うく死ぬところだった」

「構わんさ。他の客は大方戻ってきている。俺たちも戻ろう」


男性客の泳ぎを見るに、泳ぎの訓練は積んでいるが実践はしたことないというような感じだった。例えれば水槽で泳ぎの技術を積んではいるが、海で泳ぐのは初めてといったところ。

俺は波に苦労している男性客に手を差し出した。


「これまたありがたいことだが…いいのかい?手を見るところ、水竜族じゃないだろう、あんた」

「水には慣れてるつもりなんだ。気にせんで背中に掴まってくれ」


男性客はまだ少し遠慮がちに肩を掴むが、俺の泳ぎに少しスピードが出てくると振り落とされまいと力が増してきた。そのままの勢いで停止する船へ向かい、乗り込む。周囲を見れば休憩する客の姿ばかり。やはりこの男性客の危機に気づいたのは俺とミレイユだけのようだった。


「もう一度礼を言わせてもらう。ありがとう、あんたのおかげで助かった。名前を聞いてもいいか?俺はクリュフと言う」

「ヴァーンだ。それにしても、なぜあんなに船から離れていたんだ?」

「潜水の仕方が分からなくてとりあえず浮いていたら波に押されて、気づいたらあんなとこに。戻ろうとしてみれば、あの魔物ときたもんで。正直、テンパって助けにきてくれたあんた…ヴァーンにも攻撃しようとしていた」


男性客改め、クリュフは40代くらいの男性だった。彫りは深く、西洋系の顔、体付きをしている。このアルヴテリアで人種(じんしゅ)がどのように分布していてどんな特徴があるのかは知らないが、クリュフの髭が濃いところを見るとたぶん、北の方の人間なのだろう。

俺は軽くクリュフと話をしていると、ミレイユが俺の尻尾をつかんでぶんぶんと振り回してきた。ミレイユなりの構って攻撃なのだろうが…流石龍種、やることがえげつない。いまミレイユが振り回しているのは俺の尻尾。つまりは、星も切るほどの実績をもつ刃物ということだ。命名するなら星刻剣ヴァーンだな。


「わかった、わかったからミレイユ、危ない、ごめんて」

「許すのじゃ。して、こやつがおとんが助けた人種の人間かの?」

「そうだ。クリュフ、この子はミレイユ。俺のパートナーしている」


俺がクリュフにミレイユを紹介すると、ミレイユは礼儀正しくお辞儀をして自己紹介をした。


「ミレイユじゃ。紹介にあった通りに、ヴァーンのパートナーをしておるのじゃ。こう見えても、戦闘能力は高い方なのじゃ」


ミレイユは見せびらかすように宙に土で作った緻密な意匠を施された陶器を作り、そこに魔法で作った真水を入れた。魔法を使えるとアピールしたのだろう。クリュフもミレイユの魔法技術に驚いているようだった。

実際、この世界では一般的に、同時にニつの属性は使えないとされている。火属性と火属性は出来ても、火属性と氷属性はできないという。その点、水を作るというのは氷属性で氷を作りながらその矢先に火属性で暖め水にしているというのが『水の生成方法』だ。

一般人でも氷を作ってからという一段階を踏んでから水を作るということはできるが、それでも一度氷が見えるはずなのだ。故に、どうしても氷を作成して水にするため、水を生成しているとは言えない。この場合、氷属性→火属性といった形で、同時にニつの属性を使っているとは言えないのだ。

水を生成するというのは同時にニつの属性以上を使う。だから水を作ることは極一部の天才にしかできないものという認識なのだ。そして今回ミレイユがやってみせたのは、土属性の魔法を使い、陶器をつくって見せた。その意匠から繊細な魔法技術があるというのは一見してわかるものだが、同時に三属性の魔法を使ったという事実にクリュフは気づけていない。それは、水を生成したことの驚きに隠されたのと、あまりにも人知を逸する事態に脳が追い付いていないためだった。

最近、転生龍を読み返してみて思ったのですよ。いくら自分が小説の説明文が長すぎるのは嫌いだからといって、逆に少なすぎても稚拙だな、と。これからはもう少し転生龍の方、あとリカ学の方も多くします。

それと、同時に発覚したことがありまして。読者の皆様には多大なるご迷惑をおかけしました。第26話と第27話の間に『2日目の冒険者区域で3』が脱稿していることに気づきました。申し訳ございませんが、もう一度執筆致しますのでもう長らくお待ちいただければと思います。再度言いますが、申し訳ございません。


自分でも、あれ、少し話が続かないなと思ったので、読者の皆様は読んでいてさらに意味が分からなかったと思います…展開の大筋は覚えているので、大きく外れることはありません。


追記:思ったよりも早く『2日目の冒険者区域で3』が執筆できたので、同時に更新致します

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