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約束

「無理にとは言わねぇ。じっくり考えてくれ」


心臓に悪いおっちゃんはグラスに注がれた酒を呷った。

……正直、おっちゃんの誘いは嬉しい。もう少し前に言ってくれれば応じていたくらいだ。だが、いまの俺には世界中を回る理由がある。だから、この誘いには応じられない。


「悪い、おっちゃん。いまの俺には世界中を旅する理由がある。だから俺はこいつと一緒に、世界中を回るんだ」

「そうか…お前にはもう、目的があるようだな。ならこの話は無しだ。そうだよな、お前はこの大陸に収まりきるような器じゃねぇか。このくそでけぇ世界を見てこい。んでその話をいつかまた会うときに話してくれれば、それでいい」

「あぁ、必ず、また会う」


人の姿ではなく竜人の姿でいるいまのヴァーン。だが普通に、涙は出た。この情深き竜人に、心の底から感動していた。その様子をミレイユが見ているということも分かってはいても、泣かずにはいられなかった。


「…すまん、ミレイユ。恥ずかしい所を見せた」

「妾は構わないのじゃ。泣きたくなれば泣けばいい。それだけなのじゃ」


改めてヴァーンは、流石は地龍だと思った。地龍。母なる大地の化身とも言えるミレイユは、地母龍と言ってもいい。まさしく、大地のような包容力だ。


「んで、お前さん、そこの人種の子供と旅に出んだろ?パーティー申請はしてあんのか?」


パーティー申請?


「知らねぇって面してんな。なら俺が教えてやる。パーティー申請っていうもんは、瞬間的な同行者ではなく、短期的、もしくは長期的に同行者と共に行動するときに利用する。冒険者組合は世界中の国々にコネを持っている分、冒険者組合が身元を保証する冒険者ってのはある程度の信用がありパーティーで入国する時はパーティー単位で入国審査が通るが、パーティーではないただの同行者なら個人で入国審査が必要だ。主な利点はんなもんだが、他にも利点はある。それは実感してみるといいぜ」

「ありがとう、おっちゃん。それじゃ俺らはここらで退散させてもらう。記念に、好きなボトルを一瓶、選んでくれ」


心臓に悪いおっちゃんはヴァーンのその餞別に特に迷う気配もなく


「んじゃ、マスター!この店で一番うめぇ酒を一瓶まるまるくれ!」


と言ったのだった。




冒険者組合でミレイユとパーティーを組んだ後、払い忘れていた入国金を払い港へと出た。

ミレイユとパーティーを組む際に、すでに顔を見知った受付嬢が「事案ですか」と聞いてきたのには焦った。入国金を払う際も門番に「どこから誘拐してきた」と言われた時には、外から見たらそうとしか見えないのかと疑ったくらいだ。

ともあれ、ヴァーンは港についた。

強い磯の香りと勢いのある風。威勢のいい喧騒。そこら中に魚が並び、その魚の目も早く食卓に並びたいと活き活きしている。

漁をする漁師も快活とし、流石は竜人の国。水掻きがある竜人が多く見える。

そんな港で漁を体験できるという話を聞いたヴァーンとミレイユは今、船の上だった。ついでにいえば、海の上でもあった。


「そういえばミレイユ。ミレイユは地龍だろ?海とか水とか大丈夫なのか?」


心配で聞いたヴァーン。だがそのヴァーンの質問に対し、少し不満そうにミレイユは言った。


「大地と海の関係は深いのじゃ。大地が海を支え、海が陸を支える。陸が湖や川を支え、湖や川が陸に生活する生き物を支える。再度言うが、大地と海は密接な関係があるのじゃ。故に妾は、海が苦手ということもないし泳げないということもないのじゃ」


思い返してみればミレイユの龍形態はリクガメとウミガメをかけて2で割ったような姿をしていた。それを踏まえれば、自分の形態を自由に変えられるヴァーンのようにミレイユも自分の姿を陸寄りか海寄りかを変えられることもできるのだろう。

と、ここで体験のサポーターを務める漁師が号令をかけた。


「ここら辺で今回の目的、荒牡蠣(あらがき)を探す!素潜りの経験が無いやつは申告しろよ。まずは各自荒牡蠣を探し、自分の力で採ってみろ。採った荒牡蠣はそこの網に入れろ。一時間後にまた船に集合し、俺ら漁師の採り方を学んで帰ってもらう。船の目印は海上に浮かぶ繋がれた複数のボールだ。ボールの色によって船までの距離が違うからそこに書いてあるボールの色が表す距離を覚えていってから海に入れよ!それじゃ、初め!!」


最初に採り方を教えないのは恐らく苦労を知り、後に教えてもらう本当の採り方を体に良く覚えさせるためだろう。人間は苦労したことをよく覚えるものだからだ。

ヴァーンとミレイユは網を持って海に飛び込む。

海の中は澄んだ水色をしていて、ヴァーンの鱗が光を反射していなければ海中に溶けて見えなくなるほどだった。

ミレイユは水着を着ていた人間の姿から案の定、ウミガメの姿になった…と思いきや、人間の姿のままで泳いでいる。

見た目六歳やそこら辺の幼女を浮き輪なしで沈めているともなれば虐待していると勘違いできるほどなのだが、ミレイユの泳ぎは美しかった。対しヴァーンの体をくねらせ尻尾の剣をヒレがわりにした泳ぎは見る人が見れば綺麗なのだろうが、ミレイユと比べるとそれは雑なものだった。

だが泳いでいることには変わりはない。すぐに海底に付き、船に乗っている間に説明された荒牡蠣の様子に似た貝を見つける。

それに近づいたミレイユはいとも簡単に採集した。

その様子を見たヴァーンはミレイユに続き荒牡蠣を引き剥がしにかかるが、引き剥がせない。

どういうことだ。ミレイユはあんなに簡単に引き剥がしているのに、引き剥がせない。硬いというか、なんというか。例えれば俺は今大地を引っこ抜こうとしているようで、大地に立っている以上無理な話だと言えるくらいには引き剥がせない。

とヴァーンが1つの荒牡蠣に悪戦苦闘している間にもミレイユはひょいひょいと乱獲しはじめる。焦ったヴァーンはついに、その尻尾を使い始めた。

荒牡蠣が引っ付いている岩と荒牡蠣の殻の間に剣を挿し込みテコの原理で引き剥がしにかかるが、大地に深く挿した棒で大地を割るというような、そんな不可能にも近い感じがして無理だった。

最終的に尻尾の剣の切れ味を利用して荒牡蠣の殻と引っ付く岩を切り離しにかかる始末で、いざ切り離した荒牡蠣は身が傷つき、見るも無惨なものだった。

荒牡蠣の殻はウニのように刺々しいもので、しかしそのトゲはウニのように細いものではなく海がたてる高波のようなものだった。これでは安易につかみかかることもできない。

どのようにして採っているのだろうか。その謎は、船に戻ったときに明かされる。

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