秀代
初めは動揺してしまったヴァーンだが、よく考えると信短が信をおいて使わすことのできる輩などそういない。だからあまり珍しいこともないと納得することにした。
「話は聞いています。あなたはこの世界の神かそれに準ずる者だと。」
「それを知った上でお願いしたいことがある。どうか、どうか…彼女を、彼女の家族を救ってくれないか。」
言われて俺は、改めて2人を詳しく見た。容姿はどちらも美しい。が、少女の心には大きな復讐心が隠されているように見える。それは復讐対象に対してであり、理不尽な世界に対してであり、はてには俺に対しても向けられているのだと察した。
「…で、対価は?」
ヴァーンはセラスからこの世界についての知識をもらった。何も無償で助けた訳でないのだ。まぁその対価が1食分のご飯でも、1日きりの宿でも、対価には違いない。
「…領地を」
「いらんな」
「なら、米10年分でどうでしょうか」
「よし俺はなにをすればいいんだ?」
ヴァーンはいわば、王だ。自分の星の一部を貴族に分け与えているにすぎず、所有権はヴァーンにある。故にその領地を与えると言われてもおかしな話だし力ずくで奪い返すことだってできる立場なのだが、人間の持つ知識、技術はその限りではなく、例え奪えたとしてもヴァーンはそれを活用できる自信がない。だからヴァーンが求める対価というのは知識、技術、そして美味しいものというのが多いのだった。ヴァーンにとっても米を10年分というのはとても嬉しく、対価としては十分すぎるから、下手なことでも叶えてやろうという気概だった。
「今回の目的が終わってからでいいので、まずは―」
秀代の願いを要約するには、彼女の出自を語らなければならない。
秀代は人間の子供として生まれることになるはずだった。だが実際は人間から産まれながらも、違う種族として生まれていたのだ。
異変に気づいたのは生後間もない頃だったという。
秀代が生まれた村を治めていた豪族が同じ年に産んだ、生後5ヶ月で早くも神童と呼ばれる男児がいると村では噂になっていたが、対し秀代は『気味が悪い子』等を初め、『魔女の子』とも呼ばれていた。
魔法があるアルヴテリアにおいて、魔法を使えるというのは悪いものではなく、むしろ良いものであるはずだった。しかし偶々、その土地に魔法が無い完全な物理法則だけに支配された世界からの転生者が居たことによって、その村周辺の地域では魔法は悪しきものだとされていたのが不幸だった。
『魔女の子』。ということは、母親は魔女。と外部からその噂を聞いたものは誤解した。
アルヴテリアでも魔法を使えるものというのは貴重で、大半の人間は魔法を使えない。故に、魔法を使える人間というだけでも価値が高く、『魔女』が誘拐されるのも無理はなかったのだった。
しかし根本的に違った。秀代の場合、秀代が魔法を使っていたのではない。見えるものからすれば見れるであろうもの。それを為していたのは、ヴァーンの元を離れ、アルヴテリアを覆う、魔力と呼ばれるものが、人間の強い感情と極少の確率で共鳴し、意識を持った存在―"精霊"、"妖精"と呼ばれる存在だった。
強い感情と共鳴し意識をもった存在の中でも良い感情と共鳴したのが"精霊"、悪い感情と共鳴したのが"妖精"と分けられている。
秀代は、"精霊"の王として生まれた存在だった。
秀代の望む望まないに関わらず、"精霊"が秀代のためを思って使う魔法。ある意味秀代が使っていると言えなくもないが、まだ幼く、前世の記憶も未だはっきりしていなかった秀代にとって、それは理不尽そのものだった。
善意によって、親しいものが怪我をする。善意によって、周囲から気味悪がられる。結果、村からのけ者にされ、孤独を積み重ねていった秀代は、前述した母親が誘拐されたことによってさらに孤独を積み重ねていくことになった。
しかしそれでも、アルヴテリアでは盗賊などは普通にいるために誘拐される、ということは特段珍しくもない。
しかしそんな常識は、当時の秀代には関係はなかった。まだ幼い妹達。父親は死んでいて、親戚にあてはない。秀代が育てることになったのは必然だろうか。
秀代は不本意なのは間違いないが、煩わしく思っていた"精霊"を従える力(当時はそんな力だとは知らなかったが)で妹達を育てられていたが、それが禍いだったのだろうか。『魔女の子』を勘違いしたのか、妹達さえも、遊びにいくといって遊びに出てったきり、帰ってこなかった。そのときに前世での記憶を鮮明に思い出したのだという。
以上の事から予想が出来るだろうが、秀代が要求したことは米10年分とは釣り合わない、たったの2つ。復讐対象の名前と、復讐対象がまだあるか、だ。
なるほど、救いだ。生きることに活きる。人生、モチベーションが大切だ。惰性で生きるなど、活きているとは言えない。
だから秀代は、復讐対象の居場所ではなく、名前を要求したのだろう。狩られた側から、刈る側へ。根絶やしにするという意味でも。




