決別。セラス
戦いが始まろうとしたとき、急にヴァーンとの距離が伸びた。初めは竜人の王、ヘイルヴァウパーがなにかをしたのかと思い警戒するが、それもすぐに無力な私たちには意味がないと思い返しやめた。たびたび上がる赤い火花の方向へ向くと、2本の赤い線になった。なにかの権限だろうか。どちらの権限だろうか。不安になるが、私ではどうしようもならないから祈るしかない。
戦いは苛烈なものだと思う。遠目にみても頻繁に飛び散る火、踊る剣閃。それが気づけば視界いっぱいに動き回っている。戦いとは程遠い生活をしてきた私たちでは目で追えないくらいの速さで剣が交わっているようだ。すでに空飛ぶ大陸が上空を覆っていて、見えるのは2つの線だけ。ふと、その線が止まったと思うと、さらに増えて4本になった。その4本の火で明るくなったために向かい側に瑠璃色の鱗が光るのがわかる。これでヘイルヴァウパー側が4本の炎の剣を使っているということが確定した。これまでで押していたのは4本の炎の剣の方…ヘイルヴァウパーの方だった。私は不安な気持ちを抑え再度ヴァーンの無事を龍神へと祈る。いなくてもいい。ただ、ヴァーンにさえ…
「っ!?」
突然、上空を太陽がもう1つ出来たかのような極光が襲う。私は反射的に目を瞑る。目の眩みが戻り再び開けたときには極光は消えていたが、輝く瑠璃色も消えていた。
「ヴァーン…?」
最悪の結末を想像し、私は絶望した。国のことや私の命がどうなるかをではなく、ただヴァーンが死んでしまったかもしれないということに。
どれくらい呆然としていただろうか。気づいたら空間が縮んでいた。上空の大陸はもうない。そこに立つのは竜人の王、ヘイルヴァウパーのみ。ヘイルヴァウパーはゆらゆらとこちらに歩いてくる。それを私は霞んだ視界で捉えるが、もはや抵抗する気力さえなく、ただただ、その時がくるのを待つだけだった。ヘイルヴァウパーが右手を上げる。死の宣告だろうか。他の生け贄たちも息を飲むのが分かった。そしてヘイルヴァウパーはその口を開け、宣言する。
「刃を捨てろ。」
少しの間、何を言われたのかがわからなかった。そして、理解したときには、助かったのか、と思った。私がではなく、ヴァーンが。まだ1週間も経っていないが、これほどまでにヴァーンを思う気持ちがあるとは。
「し、しかし…」
「無礼者!!我らが神のご意向だぞ!!最高の存在として丁重に扱い、速やかに祖国へとお送りするのだ!!」
「は、はっ!!」
ガタガタと音をたてて処刑人が刃を投げ捨てるのが分かった。他の生け贄たちもその音で完全に安心したのか、泣いて神に感謝するもの、抱き合うもの。反応は様々だった。しかし、私はまだ安心していない。
「り、リディル王よ!ヴァーンは…瑠璃色の竜人は!!?」
「貴殿が、貴殿がそうか…」
ヘイルヴァウパーが片膝をついて私に頭を下げる。私はそのようなことをされる覚えがないので戸惑うばかりだが、質問の答えを急かすようにして問う。
「ヴァーンは何処に!?私の命がどうなってもいい…だからヴァーンは!巻き込まれたヴァーンだけは!!
私はヘイルヴァウパーの顔を見るが、そこには戸惑いの色。それをみて私は理解した。
あぁ、そうか。そうなのか。
「我は転移させられ、龍神様…瑠璃色の竜人の居場所は知らぬこと、許していただきたい。」
「そう…わかったわ。」
ヘイルヴァウパーに殺されたわけではないのは顔を見れば分かった。ヴァーンは…消えたのだ。挨拶もせず、別れもせず。この世界…いや、この宇宙のどこかに。けど、夢じゃない。それだけは分かる。それだけで十分。そして私は決意する。私の国を、世界一の国にしようと。ヴァーンの耳にも届くように。私の国…ファランを。
靡く風が心地いい。ヴァーンと感じたあの風を思い出す。
ここは竜者の中。リディル王国の最高級竜車だ。周囲は護衛が守っていて、パカパカと馬の蹄の音がする。しかし、この護衛も無意味になってしまうのだろう。道中、たったの1度も魔物と遭遇することが無かったのだから。
ファランへと戻る道のりの終わりはすぐ。もうファラン国内には入っていて、王都へは10分もしないうちにつくだろうとのこと。
今では私ももう立派な龍教の信者で、今度リディル王と顔を合わせ会談するつもりだ。リディル王もいままでの信仰派を改正する方針で、新しい龍教派閥、龍神を信仰するという新体制を作ろうとしている。私はその開祖の1人となっている。
「ただいま。」
リディル王国の紋章があり伝令も飛ばしてあるため検問もなくスムーズに王都へ入ることができた。城から見慣れた街並み。人々の顔はまだ暗く、財政もまだ安定していないのだろう。
その後城の中に入ると、父と母、兄と姉、弟と妹、そして城内にいるメイド全員が出迎えてくれた。父と母はお互いに泣きながらよく帰ってきた…よく帰ってきたと互いの肩を寄せあい、兄は手で顔を覆って涙を隠しているのだろう。姉と弟と妹は私に抱きついてきた。
私はその光景をみて、あぁ、やっぱりなとと思った。メイドが10人いない。そこまで回すお金がないだろう。そして執事長がいないことから政治状況も進行形で芳しくないと分かった。
「ただいま、お父様、お母様、お兄様にお姉様。フェリルとフェルンもただいま。」
ここから、ファランの栄光の1歩は始まる。私が、始める。
あつい出迎えを終え決意を胸に、私は部屋にもどった。綺麗に掃除された部屋。死にに行った人の部屋を綺麗にしてくれていたのかと思うと、感慨深い…が、そこに1つ異物が。それは、机の上にあった。
見覚えのあるもの。それは、いつかヴァーンに買ってもらい、リディル王国に取り上げられたアクセサリーだった。
「ふふ。ヴァーンらしい。」
いつか必ず、ヴァーンの耳に入るように。そう、誓うのであった。




