邪神教の創設のきっかけ
七曹巫。邪神教を創立するに当たって、邪神様の復活を目的とし、集まった同士。その一人、ボイドが抜けたと聞いて私はとても悲しくなった。
「ああ…。ついに道を違えてしまったか」
同じ目的のために集まり、違う信念によって違えてしまった道。始めは全員で目的を果たそうと、己が宿願を果たそうとしていたのに。
「まあ、仕方がなかろうか。あやつは外れてはいたが、狂ってはいなかった。今の邪神教を良しとはせんだろう」
少し、身動ぎする。私と同化ながら肥大化していっている宝玉は、不思議と、私を束縛しているのではなく、包み込んでくれているような気さえしてくる。その証拠に、私が抜け出そうと思えばすぐに抜け出せそうだ。私に抜け出す気がないのだが。
この宝玉のお陰で、私は無理に食事をする必要もなく、水分補給も必要としていない。生命を維持するのに、この宝玉だけで事足りるようになったのだ。
「体の調子はいかがですかな」
「ナタスか。お前にだけは言われたくはないな」
「ほっほっほ。お互い様というやつですな」
七曹巫、レイストのナタス。こいつは死を超越するために邪神の力を欲した。だから。
「ナタス。お前はボイドのように抜けないのか。既に不老不死を手にしたお前に、邪神教は必要あるまい」
「私ですか?まさか。私は貴女様の行く末を見届けさせていただきますよ。その怒りが人類に受け止めきれるか、楽しみでございます」
「そうか」
進化のための礎となれ。
魔力に潜む病原菌。私はその、唯一の生存者だった。人類がその病気を克服するまでは、その病原菌の原因は不明で、魔力なんてものも感知されておらず、その致死率は百パーセント。その性質から、魔力があるところにいればかかる可能性があるのに、かかれば死という病気に、人類の7/10が侵された。なにせ、この星に魔力がない場所などないのだから。
人類史上最悪の病。当時死紋病と名付けられ、その名を知らない人類はいなかったが、今の人類は漏れなくその存在を忘れている。それもそのはず、私が死紋病を克服し、人類史の礎となった後、この病原菌は淘汰されたのだから。
数万年前。唯一死紋病を克服した人物として神として崇められ、その免疫を全人類へと分配するために、私は全身の血を絞られ、肉を食まれ、毛をしゃぶられ、回復させられ、孕まされ、生まれた子供までもが同じ扱いを受けた。その末に私は、当時力を分け与えるという宝玉を心臓に埋め込まれ、数万年の間、魔力に分解され全人類に浸透した。
現代まで、その間。大小違いはあれど。多のために少を殺す。その人類に怒りを。故に。
少を殺し多を殺す。
これは復讐ですらない。そんな小さいものではない。あまねく現人類は私を礎に生き延びているのだ。だから私のせいで、滅ぼしてやろう。断罪だ。私は私の名の元に、人類を断罪してやるのだ。悪しき習性を持つ人類種を。この手で。
「これが人類史の祖とも言える彼女の、邪神教の創設の顛末です」
「全人類の滅亡…か」
宝玉の存在も気になるが、その少女のことも気になる。俺の記憶をたどっても、そんな歴史は一切ないのだ。
「ミレイユは知ってるか?死紋病のこと」
「知らんのじゃ。もしかしたら全てその女子の妄想の可能性もある」
「しかし、エイドが宝玉と同化した少女を見ている。起点はないが終点は実在しているはずなんだ。…いや、精神系の龍玉が見せた幻覚か?というか、そもそも俺の力が龍玉という形になって分裂したのもここ十数年。セラスに出会った日のことだぞ。数万年前に龍玉があるはずもないんだが」
「いや、おとん。龍玉のことに関しては、数万年前にあってもおかしくはないのじゃ。なにせ、妾はこのアルヴテリアが創造されたときからアルヴテリアの大地に生まれていたのじゃからの」
「え、でもそれじゃ時系列が」
「考えてもみるのじゃ。妾らは多次元時空同一存在。生まれる土壌があれば、生まれる要因よりも前からすでに生まれているのが妾たちなのじゃ」
「なるほどな。俺がいた。俺がアルヴテリアを作った。未来の俺がアルヴテリアで最高位龍種を生んだ。そうなれば、アルヴテリアが作られた瞬間にはもう最高位龍種も存在していたということか」
「そうなのじゃ。とりあえずいまは、それはそうという風に覚えておくだけに留めたほうがよさそうじゃな」
「そうだな。現状どうしても龍玉の力が足りず、星に干渉できる権限が足りない。どうにかしてもう1つ確保できれば過去の記録くらいは覗けると思うんだけど」
あっ、やべ。これエイドの前で言っちゃいけねぇやつだ。
と、エイドのほうを見てみると、どうかしたのかというような顔で見返してきた。
「宇宙の真理を頭に詰めてきたのはアナタじゃないですか、創造神サマ。もちろん、現状どういったことになっているのかも知っていマスよ創造神サマ」
「くっ…バカにしてやがる」
「そんなことないデスよ創造神サマ…って、いたいた。おーい」
森を出ると、エイドが遠くの人物に向かって大きく手を振った。それに気づいたのか、彼らは全速力でこちらに走り突っ込んでくる。
「先生!!先生っ!!」
「大丈夫だったんですか!?」
両方とも見知った顔だ。一方的にだが、エイドに隠れて健やかに育っているか覗かせてもらったことが何回かある。いまではかなりの実力を積んで兵士になったみたいだが、しかしそれでもまだ天井陣には程遠い。
「リューク、ヒカリ、大丈夫だったかい?」
「大丈夫って、先生が転移させてくれたお陰で大丈夫だったんですけど、それよりも先生は!?」
「ああ、いや。大丈夫ってのは、僕は転移する権限なんか持ってないからね。『変流』を応用して他人を勝手にどこかに飛ばしただけなんだ。とっさのことだったから、もしかしたら地中とか上空に飛ばされてたりしてないかってね」
「え…」
「もしかしたら先生のせいで死んだ可能性もあったと?」
「まあ、死なない確信はあったけども、もしかしたらね、もしかしたら」
「もう!先生ったら!!」
「はは、痛い痛い」
ヒカリがエイドを殴り付ける。しかし、エイドはその行為を心底喜んでいた。…こいつ、大丈夫か?
「それで、こちらの方は?」
「深い青――瑠璃色の鱗…剣の尻尾…幼女を連れてる…もしかして」
「ああ。こうして話すのは、ヒカリちゃんとは初めまして。リュークくんとは久しぶりかな。Sランク冒険者、勇者の称号をもらっているヴァーンだ。大きくなったね」
「長らくお礼を言えてなくてすみません!先生を助けてくださってありがとうございます!」
「ありがとうございます?」
「ほら、ヒカリ。インヴィクルから俺たちを助けてくれた」
「あ、ありがとうございます!!」
ふーむ。よい子に育ったものだ。礼儀正しい。
「こいつが育てたってのにな」
「ははは、ほんとに僕にはもったいないくらいさ」
本心で言いやがる。まったく、親バカにもなったもんだよな。
「うーん、やっぱり大きくなってもリウスにそっくりだ」
「リウスのこと知ってるんですか!?」
「ああ。いまはホルガナンダ大陸でリヴィアっていう友達を助けるための冒険をしているよ」
「ホルガナンダ…遠いなぁ」
「…行くか」
「え?」
「ホルガナンダ大陸。いや、リウスに会いに冒険に行くか」
「良いんだね?今度こそ都合よく僕が助けに行けることはないけれど」
「はい。まずは冒険者になって、自分たちの実力を確認してからにします」
良い子に育ったなぁ…まじで。それに引き換え、のびのびと育てたこっちのリウスはというと…
「いやまじでごめんね…何度もリウスには会いに行くように言ってあるんだけど、私は邪魔になるって言って聞かなくて」
「邪魔?」
「あー…」
ヒカリのほうにはなにか心当たりがあるのか、歯切れが悪い。
「無理やりひっぱり連れてきて会わせるっていうのも違うからさ。リウスの拠点はシホン。いまはそこを中心に、世界を飛び回ってるっていうことだけ、伝えておくよ」
「ありがとうございます!」
それから、エイドに他にも邪神教がどんなことをしているのか、構成などの細々としたことを聞こうとした。しかし、エイドは創設者の少女への義理によって答えられないと言って、俺の邪神教への仮説が間違っているかを教えてくれた。
さて、エイドに邪神教の細々としたことを聞いたことだし、本格的に潰すか。ホルガナンダ大陸を。
邪神教は何らかの形で信者を大量に補充している。
…。
邪神教には人間を量産できる環境がある。
…。
邪神教は国1つをまるごと人間牧場にしている。
違うな。
邪神教は大陸1つをまるごと人間牧場にしている。
…。
……その大陸とはホルガナンダ大陸である。
…。
ホルガナンダ大陸。それは帝国に植民地にされ、しかし一見して帝国によって発展した大陸…かのように思われた。
しかし、その帝国が邪神教に乗っ取られていたら?考えないではなかった。リュノン皇国の件もある。だから調べたんだ。最近異常な動きをしていないかとか、国が関わるちょっとした騒ぎがなかったかとか、奴らが言う星痕が体に焼き印されている幹部がいないかとか。
白だった。真っ白だった。
宰相も、議員も、市民も、誰も彼も。――皇帝さえも。
故に、俺は。
大義名分無し。俺と言う個がホルガナンダ大陸の解放を詠い、勝手に始める聖戦。
我はヴァーン。我が勇者の称号の名の下に、帝国に宣戦布告をする!!




