表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/106

リューク

「…?」

「おや、起きたかい?」


知らない天井と知らない顔の男が視界に移る。

ここはどうやら、あの村ではないようだった。


「リウ…ス…」

「リウス…ああ、あの子か。あの子のことならこの子に聞くと良い」

「リウスの妹…?」


リウスの妹から、ここはどうやら村があったところから歩いて1年を10回繰り返しても着かないほど遠い場所だということ、リウスはあの冒険者についていき、友達を救うための冒険に出ているということ、この男は医者兼神父で、僕の体を調整してくれたのもこの男だということを教えてもらった。


「僕の名前はエイド。ちょっと前から君たちの保護者をすることになっている。これから長い間、よろしくね」

「…よろしくお願いします」

「さて、君に名前がないのは不便だ。君にはリュークという名前を付ける。これは僕から最初の、君への贈り物だ」

「リューク…」

「そう、リューク。そしてこの子はヒカリ。覚えてやってくれ」

「ヒカリ」

「よしよし、言語機能、記憶、思考ともに問題なしのようだね」


ヴァーンが病院にリュークを連れてきたとき、エイドの顔を見るや否や直ぐに切りかかってきて大変だったものだ。しかし身体の不具合を直ぐに見抜いたこと、インヴィクルを既に脱退していたこと、ヴァーンを神だとしてある程度の敬意があったこと、孤児院になんの変哲もなく、子どもたちにも尊敬されていることで、リュークを一旦預けるという判断がされたのだった。それについていくと言ったヒカリも一緒に。


「さて、皆君の目覚めを待っていたんだよ。皆に挨拶をして、腹ごしらえだ」





それから10年。ここでいろいろなことを吸収していった。まずは龍神の存在。宇宙の真理。これが書いてある本の写経のついでに文字の読み書きを覚え、写本を売ったお金で売り買いをして算数も覚えた。さらに、世界のこと、国のこと、龍神教のこと、年頃になったときには男女に別れて性のこと。戦いのこと。命のこと。体の動かし方などなど、ただの孤児院ではできないようなことを、数多く教えてくれてきたのだとおもう。さらに僕には特別に、力の使い方を教えてくれた。


「本当に、いままでありがとうございました」

「なにかあれば直ぐに軍に知らせてください。飛んでいきます」

「うん…うん…本当に手のかかる子達で…こんな立派に…うぅ、…元気でいてね。一ヶ月に一回は手紙を寄越すんだよ」

「はい!エイド先生もお元気で!」


門出の日。毎回泣くエイド先生を慰めていたのが、今度は泣かれる側となった。

僕は小さい頃、インヴィクルの幹部に心臓を抉られ、死ぬはずだった。しかし、通りがかりの冒険者、勇者ヴァーンによって、心臓を再生、体の組織を作り直されたのだそうだ。しかし、その再生はただの人間の子どもには過ぎた力となって、逆に体を蝕む毒となるところを、エイド先生が調整し、大きくなった僕はその力を完全に制御している。

そのためか、国軍にスカウトされ、ヒカリと一緒に軍属となって孤児院を一人立ちしたのだった。


「まぁ、国軍といっても戦争なんてここ十数年全く無いんだけどね…」


でも魔物の被害は少ないけど確かにある。だからどちらかというと、国軍というよりかは自警団のほうが近い業務内容だ。


「ゴブリンの群れだ」


ヒカリが言う。

ゴブリン。亜人間とも言われる彼らだが、その実人間のように四肢があり二足歩行をしているだけの魔物だ。ゴブリンよりかはまだ、猿のほうが人間に近い。

だが、二足歩行をしているからか、やはり頭は普通の魔物よりかは回る。むしろ猿よりかは頭がいい。


「あの拠点。いけるか?」

「相当な準備をして、慢心なくいけば」


エイド先生に教えられた戦いの掟。それが、慢心をしないことだった。それは、過大に恐れ、杞憂を重ねろということではない。

その程度なら。そういう考えをするなということだ。


「出入口は?」

「3つ。正面と、裏口と、地下の下水」

「塞げば一網打尽にできるか?」

「砦は高いけど、飛び降りて逃げられなくもない」

「遅効性の毒だな」


野生の猪の死体を用意し、サカナクワガタの花のエキスを塗り込んでおく。ゴブリンは保存食を作る文明がないため、肉ならばすぐに食らうだろう。砦の近くに置いておく。

ただし、魔物は力で支配された上下社会だ。下っぱには肉が行き渡らないかもしれない。

だから。


「出入口も塞げば死体確認もできていいよね」

「よし、全滅してるようだ」


魔物の被害にあった村や町に赴き、敵を排除。または、事前に依頼があればすぐさま飛んでいき、排除。数年これを繰り返しているうちに、俺らはどんどん昇進していった。


「大尉!近頃行方不明者が増えている件ですが!」


一介の村人から、大尉に。とてつもない昇進だ。ヒカリと二人だけで暴走した低位竜の討伐をしたのが大きな要因となっているのだろう。ヒカリのほうは補佐官という役職に就いている。


「ふん…なんの予兆もなく、消えている…。被害は東の町方面か」


俺らはすぐに東の町に赴き、聞き取り調査を行った。その多くは、近くの森に山菜やら薬草やらを採りに行ったっきり帰ってこないというものだった。

しかし、その森には新しく強大な魔物が出現したなどという情報が全く無い。そのため、手がかりもなく、調査しようもなく、帰ってこれる保証もないため調査できないとのことだ。


「わかった。俺らが調査をしてくる」

「よろしいのですか?」

「ああ。行方不明者の安否も確認しないとだからな」

「ありがとうございます」


そうとなれば善は急げだ。


森は異様な雰囲気を出していた。ナニかがいる。だが、何もいない。

生き物の気配が全くしないが、何かがうごめく気配がする。


「これは…やばいな」


経験則として、自分の認識できないナニかがどうにかなっている場合は、なにもしないほうがいい。幼い頃の教訓だ。だが、今回は行方不明者の安否だけでも確認しなければならない。


「とりあえず進んでみよう」

「そうだな」


不測の事態にも対処できるように、できることは全てやっておく。回復薬をあらかじめ飲んでおき、ヒカリの身体強化を全てかけて。口のなかに丸薬を忍ばせ、意識を失ってもすぐに大丈夫なように気付け薬と、魔力回復薬と、回復薬と。

奥へ進む。次第に気配は近くなり、やがて…


カツン…カツン…


なにか硬いものを木の幹に叩きつける音が聞こえる。似た音といえば、キツツキが木の幹を叩いている音だが…。

油汗が滲む。それは絶対に近づいてはならないものだと本能的に悟っていた。ヒカリと手を繋ぎながら、姿を確認するために近づき――


――絶句した。


それはキツツキだった。だが、体長は3mほどもあり…頭が、人間の腕だった。手に何かを握り…木に打ち付けている。何か…何か。人間だ。


「全力で走れ!」

「うぅ、うん!」


走り出す。後ろに。向いた。はずなのに。


「いつまで経っても!あの音が、あの音がぁ…!!」

「いいから、走れ!走らなければ、逃げられない!」


響く。頭に。後ろから。すぐ、後ろから。カツン、カツンと。どんどん、どんどん近づいてくる。近づいて、近づいて、背後に、背中に、耳元に。


目の前に。


後ろに走り出したはずなのに。


「うあああああああ!!!」

「いやぁ!!」


切りかかる。鳥は羽を散らし、目玉を溢して…目玉?傷口から覗くのは、人の顔。


「なんだ、なんだこれは!?」

「いやっ、いやぁぁあああ!!」


ヒカリが錯乱して走り出す。前に。鳥に。向かって。


「あぐっ!?」


掴まれた。


「う、うぐぅ」

「離せ!」


首を切り落とす。…いや、俺が切り落としたのは指だったはずで、では誰の首を…


それと、目があった。


「あ…」

「こふ」


ヒカリの目と、あった。


「あぁ…うあああああ!!!!」


左手を握りしめたまま、俺は、発狂し


「落ち着きたまえよ」

「エイ…ド、先生?」


ここには居てはならない、居るはずのない人物が。


「よく感じたまえ。リューク、しっかりと」

「感じる…?」

「いま君の左手には、なにが握られていて、何を握っている?」

「…っ!!」


ヒカリの、手だ。だが、ヒカリはもう…

いや、目の前のヒカリには、両手がある。では、この手に握られているのはなんだ?


「…落ち着きました。ひどい精神攻撃ですね」

「そうだね」

「ヒカリは…まだうつつのようですね」


ヒカリは、右手を握ったまま、焦点があわない目をして崩折れていた。

そして、目の前にあるのは。


「卵、ですか?」

「そのようだね。まったく、悪趣味な」


エイド先生がそれを割る。中から出てきたのは、ぐちゃぐちゃに溶かされた人間のような、そんなような液体と固体の混ざりものが…


「いや、君の感想通りのものだよ。これは」

「は?」

「まったく…本当に悪趣味だ。人を閉じ込め、溶かし、悪夢として概念化する。生まれてきた怪物は…」


周囲を見回すと、既に3つ4つの卵の殻が割れていた。


「まったく…本当に、悪趣味だ。これは閉じ込めた人間が深層心理的な部分で恐れている怪物を、本人を溶かしてその怪物にするもののようだ。リューク。心が痛むだろうが、卵を割るのを協力してくれ」

「は、はい」


最初は理解できていなかったが、ほぼ人間の原型があったナニカが出てきた瞬間に、理解した。そしてえづく。


「…すまない。酷なことだったね」

「ハァ…ハァ…いえ、いつかはこういった光景も直視することになったでしょう。誰か安心できる人が居るときに慣れる機会が得られたのは良かったです」

「安心できる人…か…」

「…?」


卵を全て壊し、ヒカリの意識が戻った頃。落ち着いて話す機会を得られた。


「あなたは…本物なんですよね?」

「あぁ…うん。そのつもりだよ」

「なにか思い出話でも」

「うーん…あれはヒカリが8歳の頃。出先のトイレが不気味だからといって、我慢して――」

「あー!あー!!わかりました!エイド先生!あなたはエイド先生本人ですっ!」

「それで…なぜエイド先生がここに?」

「あー…それには深いわけがあってね。まぁ、昔の縁があって、近くの町にいてね。しかし、聞いた話によるとリュークとヒカリがこの森に入ったって。嫌な予感がして、飛んできたというわけだよ」

「助かりました。ありがとうございます」

「俺らが飛んでくはずだったのに、すいません。ありがとうございます」

「はい、助けました。ふふ、君たちも大分成長したみたいで嬉しいよ。でも無謀が過ぎたね?」

「被害者のことを思うと…」

「クモの巣に捕らえられた仲間を助けようとした虫も餌になる。教えたよね」

「「はい…」」

「まったく…今回は僕が居たから良かったけど、ただの偶然だ。次はいない。だから危ないことはやめてくれ。本当に」

「「…」」

「…はぁ。国軍を辞めて、冒険者になろうとしているんだろう?そうなったら危ないことと隣り合わせだ。危ないことをするなとは言わないよ。ただ、自己犠牲はやめてくれ。君たちにとっての他人よりも、君たちの身内のほうが君たちを案じてる」

「「はい…」」


久しぶりの説教は、とても心に響いた。それからしばらく。吐いた分の水分補給をして、気力も戻して。エイド先生は、ピクニックにでも行くような感じで、それじゃと、続けた。


「それじゃ、奥に行こうか」

「え、でも」

「エイド先生」


エイド先生は、正直戦いについては素人だ。軍で鍛練したいまの俺なら、きっとエイド先生よりも何倍も強い。正直、エイド先生は医者としての能力が高く、ただそれだけの一般人だ。戦闘員ではない。だから、この先は俺たちだけで…


「自己犠牲かい?…いいや、違うな。君たちは慢心をしている」

「慢心?」

「そう、慢心。軍に入っても、君たち以上の実力者がそれほど多くなかったことだろう。だからこの件も、君たち以外で解決できる人がいないと思っている」

「…」

「それは慢心というものだよ。君たちよりも強い人、存在なんていくらでもいる。今回の敵しかり」

「はい…」

「そして、それ以上に強い僕しかり」

「…はい?」

「まぁ、いいから。ついてきたまえ」


俺たちは納得がいかないまま、エイド先生に連れられるように奥へと進んだ。そして、奥にはなにやら不気味な祭壇と、その傍らには4体の怪物がいた。

エイド先生は隠れるわけでもなく。まるで友人に話しかけるように、気軽に


「やあやあ、君たち。悪趣味なことをしているよね。やめてくれないかな?困っているんだよ」

「なんだ貴様」

「あれ、僕って案外影薄かったのかなぁ…そういえば、昔は研究ばっかりで顔を表に出すこともそうそうなかったわけだしね。それも仕方ないか。まぁ、知らないというのなら。僕はエイド。医者としてね?それと、人間として。不必要な殺戮は辞めてほしいんだ」

「…殺せ」


ネズミの集合体のようなものが襲いかかる。それをエイド先生は避けれずに…いや


「散りなさい」


避けずに、霧散させた。


「なっ…殺れ!」


首が変な方向に曲がった、血涙を流している喪服のドクロの貴婦人。青臭い野菜ジュースがかかっている無数のキノコの集合体と、顔面が牙を剥き出した口だけの犬。貴婦人が呪い、キノコが胞子を出し、犬が噛みつく。


「エイド先生!」

「エイド?」


エイド先生は、なぜかいまだポケットに手を突っ込んだまま、微動だにしない。だけど、こっちを見て、明らかにそんな場合じゃないのに。


「見ていなよ。この世界では力よりも、スキル…権限のほうが優位だ。それを見せてあげよう」


そう言い残して、彼は犬に噛まれて…


犬が、捻れた。


「ごめんな。君は犬が怖かったんだろうね」


次に、キノコが。


「君は野菜が嫌いだったのかな。好き嫌いはいけないよ?体に必要な栄養がバランスよくとれない」


次に、貴婦人が。


「君は過去に奥さんに呪われるようなことをしたのかな。大切にしてあげなきゃ。大切な存在がいるというのはどれほど幸せなことか」


なす術もなく、捻れた。


「この…裏切り者が!!」

「ねぇ。ボスはいるかな?」

「ぐっ」


術者が止まる。それに無造作に近づく。にやりと、術者がほくそ笑んで


「エイド先生!」


術者の背後から、死神の鎌のような包丁が、飛んできて。エイド先生の服を割き、胸を。心臓を…貫かなかった。


――え?


「僕の序列は第8位。君が何位かわからないけど、序列の意味は、わかるよね?」

「…いまさらお前が、なんの目的だ」

「ここらへんには僕の大切なものがある。それを壊されちゃ困るんだよね」

「ふん…いままでお前自身の手で何人もの大切なものを壊してきたというのに」

「そう。だから人のことは言えない。これはお願いですらない、単なる独り言なんだ」

「わかった。お前の願いを聞いてやる。だから――」

「?…ああ、いや、独り言だ。気にしないでいいよ。君は今から死ぬんだから」

「なに?ぐっ、うお、うぉおおおおおお!!」


ぐちぐちぐち。そんな音が幻聴できるほどに、まるで雑巾のように男が絞られる。


「君にお願いを聞いてもらったって、組織に伝わっちゃ意味がないからね。組織が追ってくるのは厄介だ」

「…なにも、殺すことないんじゃ」

「ヒカリ。彼らはここで殺さないといけないんだ。見覚えはないかい。この紋章に似た、なにかを」


それは、龍の腹がぽっかりと空いている紋章だった。


「…インヴィクル」

「そう。僕らは各大陸に、邪神教と呼ばれる組織を作り、根を張っている」

「僕ら?…あ」


包丁に切られた先生の服の隙間から、インヴィクルの紋章が…それじゃ、先生は、あの、村を襲って、リウスとヒカリを拐った…!!


「そう。僕はインヴィクルの一員だった。どころじゃないね。邪神教の幹部。インヴィクルのトップだったんだよ」

「じゃあ、村を襲うように指示したのも!!」

「ああ、僕だ。知ってるだろう?一度被害を被った君たちなら」

「そうだ…リウスのことなんか知ってるはずないのに、リウスのことを知っていたのも!」

「そう。僕が加害者側だから。ヒカリ。君は意識を失っていたからわからないよね。僕がリウスとヒカリである実験をして、研究をしていたことなんて」

「貴方は…貴方は!!いままで私たちに優しくしてくれたのは嘘だったんですか!!!?」

「おかげで宇宙の真理を知れた…まったく、それを被害者である君たちに教えてるなんてなんたる皮肉なんだと思っていたがね?」

「この、この…!!」


激昂したヒカリがエイド先生を殴る。蹴る。


「どうして!どうして!!」


エイド先生はただただ、その殴打を受け続け。


「どうして…どうして隠していてくれなかったんですか…」

「っ…」


ヒカリが、エイド先生にすがった。


「そんな話を聞いて、私は!激しい怒りで!いっぱいいっぱいで!先生を殴って、痛め付けて、それでも!それよりも、先生を殴るのが、こんなにも心が、痛い…痛いんですよぉ…うぅ…」

「…」

「私は…先生が村に、家族にしたことよりも!先生のことを心の底から愛してしまっている!どうして、どうして隠していてくれなかったんですかぁ…ぁぁ…うぅ、ひぐっ」

「ヒカリ…」


俺はヒカリの肩に寄り添う。そして、呆然とするエイド先生へ、もう一度問う。


「エイド先生。俺も同じ気持ちです。エイド先生は隠すこともできた。いや、できていた。それをわざわざ、なんで」

「……」

「エイド先生」


エイド先生は項垂れ、座り込み、そして、話し出した。嗚咽の混じった声で。


「僕だって混乱しているんだ。こんな感情初めてだったからさ。大切なんだ。すごく、すごく大切になってしまったんだよ…はじめは軽い気持ちで始めた孤児院だった。せっかく知った宇宙の真理を広めようって。そのためには無垢な子どもがいいって。ただそれだけの理由だったんだ。でも子どもたちが成長するにつれて、情が沸いて、無垢な笑顔が…無償に向けられる愛が忘れられなくて…!!君たちが、子どもたちが僕の中でとてつもなく大きな大切な存在になるにつれて、君たちにしてしまったことの後ろめたさも大きくなっていって…自責の念に耐えられなくなって…それで…君たちになら殺されてもいいなって…それで…それで……」


先生は、嘘をつかない。いままで嘘をついたことなんて一度もなかった。それに、嘘をつく子どもを賢い人間は嘘をつかないといって諭していた。

ヒカリのいままでのことは嘘だったのかという問いに、嘘だったと答えていない。

ただ、本当のことを言っていなかっただけで。

でも。だからこそ。


バチン


僕は、エイド先生を一発だけはたいた。


「先生。先生が僕たちを大切に思うように、僕たちも先生を大切に思っているんです。万が一にでも、僕らがエイド先生を手にかけたとしましょう。でもそしたら他の奴らが悲しんでしまう。僕らはもう、身内が居なくなってしまう悲しみを負いたくないんです。いまの一発は、そんなわからず屋な先生に対して、皆を代表しての一発です。もちろん、僕たちも先生が死んでしまったらすごく悲しい。村が襲われたときと同じように」

「でも、そうしたら、僕の罪は」

「許しません。絶対に許しません。貴方の贖罪は、生きていることです。生きて、僕たちに笑顔で送られる。それが僕たちに対する唯一の贖罪です」

「そうか…そうか…」


また、エイド先生を慰めるほうになってしまった。


「ありがとう、リューク、ヒカリ」

「先生…」

「僕には死ねない理由が「それは残念だ」かふ――」


先生の胸から、手が生えていた。


「先生!?」


エイド先生の背後に、知らない大男が立っていて。先生の背中に腕を突っ込み、佇んでいた。その男の顔左半分に、インヴィクルの紋章が。


「どこに隠れたんだと思ったらこんな辺境に。探すのに手間取ったぞ」

「ジェイ…ド…」


グジュ。そう音をたてて、心臓を引き抜き、潰した男。その心臓は、誰の?


「ふは、ふははは、やっと、やっとだ…やっと、この手で…!!」

「な、せ、せん、せい?」

「き、きさまああああ!!」

「はな、れて…」


絶叫をあげるヒカリと、切りかかる俺。しかし、俺は剣を抜く前に、ヒカリと一緒に、森の外へと転移させられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ