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インヴィクルの殲滅

それから俺は、ブラクティシアへと戻り、ウリエラに色々な魔法や魔法理論、一般常識を教えてもらった。いや、一般常識を教えてくれたのは主にアンディだったか。


「もう数年ほど滞在していけばいいのに…」

「はは、近くを通ったらまた挨拶しにくるから。だからそんな寂しがるなって、アンディ。…それにウリエラに悪いし」

「…?」

「こちらとしても大変有意義な時間でした。最上級の魔法を何度も研究できるなんて…ぜひ、またいらしてくださいね」


ウリエラの言っていることはお世辞ではないし、社交辞令でもない。…だが、まぁ、年ごろの女の子だし?アンディには悪いが、ここはウリエラを応援しよう。

と、俺らは挨拶もほどほどに、『ウィッチャ』に乗り、その場を後にした。

この『ウィッチャ』という乗り物、運動力魔法で機体を浮かせ、エンジン部分に魔石を入れて噴かし、推進力を得るというものだった。原理は簡単だが、その制御が難しく、専用の整備士が職業として成り立っているほどだ。

そんな『ウィッチャ』も、ミレイユの手にかかれば軍用車ですら道を空けるどころかぶつかれば機体が空くほどの高耐久高性能へと魔改造され、魔力の発生源である最高位龍種の純魔力をエンジンに注いでやれば、マッハ50ほどの速度で移動ができる。ただ、そんな高速で移動したいならミレイユの地下鉄のほうが何倍も速いため、『ウィッチャ』ではのんびりとエンジンを噴かして行こうかと思う。

さて、大分足踏みしていたが、己の役割を忘れてはいない。アンディに教えてもらった倫理観でも人体実験は悪であるとのことで、大義名分はやはりこちらにある。それに新しい魔法も覚えたし、未知の敵に対する対応力も増えたように思う。まぁそれも強化されたこの面子によって、相対的に微々たるものになってしまっているのだが。

んでは、インヴィクルを本気で壊滅させにいきますか。




それから一ヶ月。俺たちはノースブラントに蔓延(はびこ)るインヴィクルの拠点を潰し回った。その間フォーティーエイスことウシャンやフィフスとは会うことはなく、彼らの行方もわからず仕舞いだ。できることなら変に力をつけられたり対策されるまえに潰して置きたかったのだが。


「ふう…これでこの大陸最後のインヴィクルの拠点も終わりだな」

「そうじゃの。抵抗龍力持ちも全然おらなんだゆえ、コッペリアとフェンの出る幕もほとんどなかったしの」

「というか、ほとんど俺と、たまにミレイユだけで潰してたからな。ちょっと拍子抜けしちゃったよ」


ウシャンやアイエベのときのような凄惨(せいさん)な実験は相も変わらずあったが、被害者はその度に異空間に送ってメンタルケアをして、希望があれば現世に戻してあげたりしていた。

そういえば、ファラン以外にも使える土地が出てきたのは良い話だ。その土地とは、リュノンである。リュノンは国の中枢全てをインヴィクルに支配され、俺たちがそれを排除したことによって国としての形を失ってしまった。そこに冒険者ギルドが介入し、国民を混乱に(おとしい)れないために冒険者ギルドがトップになった新しい国へとなったようだった。

そんな新しいリュノン国が、インヴィクルによって居住地を失ったり親を失ったりした被害者を集めて保護しているのだ。そのため、俺はファランかリュノンか、どっちがいいかを聞いてから希望通りにしている。


「次はどこに行こうか」

「他の龍玉はまだ厳しそうかの」

「うん…一つは曖昧、一つは高速で飛び回ってて、一つは存在を主張してるのに居どころが掴めない。魔法の系統的に精神、運動、時だとは思うんだけど、この中で唯一現実的に確保できる龍玉は運動かな?」

「精神の龍玉はインヴィクルに確保されてる可能性もあるしの…と、すればインヴィクルの壊滅のついでに神獣探しが効率的じゃの」

「はやいとこリヴィアとリウスを会わせてやりたいけどな…被害者が出てる以上後回しにできる問題でもないし、その被害者であるリウスの意向で被害者をなるべく少なくする方向でいいってことだから、お言葉に甘えるか」


龍玉については完全に手詰まりだ。こうなると、時と同じくらい、存在はしているのにどこにあるのかは曖昧な空間系の龍玉を確保できているのは大きい。難民異空間のこといい、アヴくん様々だ。

して、インヴィクル壊滅のための次なる目的地だが、もしかしたらついでに神獣も見つけられるといい。ここで思い出して欲しい。ゲール大陸にいたアスモデウス。あいつたしか色欲の悪魔だったな?つまりはゲール大陸にいる神獣で、リヴィアのいる冥府に繋がる鍵を持つものは居ないというわけだ。


「ふぅむ…ゲール大陸は選択肢から外れ…どこから着手しようか」

「まずはホルガナンダ大陸のインヴィクルからにするかの」

「うっし。まずは情報収集からだな」


ホルガナンダ大陸はゲール大陸の上部を蓋するように広がる三日月状の大陸だ。細長い形をしているため、資源が豊富で、豊かで、なんの争いをする必要もなかった。だからだろう。

ゲール大陸上部一帯を統治する帝国の植民地にされていた。


「ふーむ…まぁ見るところ、植民地と言っても家畜のような扱いを受けてるわけではないようだけどな…」


地球のひどい時代のような、人が人を物扱いしているような感じではないが、イメージ的には大名と農民のような…大規模な農園の安価な労働力のような感じで働いている。ただ、ホルガナンダ大陸の人々はその暮らしに不満はないようで、酒場や市場はまぁまぁ賑わっているようだった。


「やあ」

「ん?」

「見ない顔…っていうか、人種だね。竜人族?」

「ああ。ジュエ大陸の出身でね。君は?」

「僕はベル。あなたは?」

「ヴァーン。冒険者だ」

「冒険者!?わぁ、久しぶりに見た!ねぇねぇ、どんな旅をしているの!?よかったら、ご飯ご馳走するからうちで聞かせてよ!」


おおう?ナンパか?とは思ったが、見たところ危害を加えられそうな気配はなく、ただただ好奇心が大きいだけの男の子だということがわかった。

ただまぁ、生活水準調査がてら酒場で飲み物と軽い昼食を頼んで食べてたら急に同じテーブルに座ってきて一発目で家にお呼びだ。あまりにも人の悪意を知らなさすぎる。ちょっと心配だ。


「お邪魔しまーす」

「いらっしゃい!」


ベルはどうやら一人暮らしのようだった。中学生くらいの男の子が、一人暮らし。両親はと聞くと、顔も知らないと答えたベルは、それが当然であるかにように首をかしげていた。

それから、畑で晩御飯の材料を農園に取りに行ったり、ジャガイモのようなものを乾燥させたものを粉にして水で練って焼いたり。中学くらいの男の子の一人暮らしだとは思えないほどちゃんとした暮らしをしていた。大分長いこと、そう暮らしていたんだろうなと、そう窺える。

しかし、ベルが一人暮らしなこと以外は至って普通な、むしろわりと豊かな暮らしをしているようだった。農園に直接晩御飯の材料を取りに行っていたとこを見るに、税なんかもゆるゆるにしているのだろう。大規模な農園で区画ごとに何を栽培しているのかが決まっているから、生活を苦しめるほどの税なんかとっても98%を99.9%にするかどうかで、わざわざそんなことをしてまで労働力を下げることはないのだろうな。


「帝国の人たちに悪いようにはされてないか」

「うん。昔よりも食べ物がいっぱい取れるようになって、ここ20年ぽっちでむしろ良くなったよ」


ベルもいまの生活に不満があるわけではないようだった。というか、帝国が来る前までは原始的な生活をしていたみたいで、こんなに豊かな生活ができているのは帝国のおかげだとも言っていた。ほんと、帝国という企業が管理している大規模農園みたいなものなのだろうかと思う。


「ほら、これ」

「わあ!すごい!!ここらじゃ魔法なんて滅多に見れないよ!」

「ここいらに魔法師はあんまりいないのか?」

「帝国の偉い人が使えるって話をきいてるだけ。魔法なんか使えるような頭がいいひとはみんな帝国に出稼ぎにいっているよ。僕でさえ久しぶりに見たくらいだもん」

「なるほどなぁ…」


頭を使えるやつは頭を。体が使えるやつは体を。餅は餅屋というが、その実、学を奪って反乱分子を排除しておいている…というのは考えすぎだろうか。まぁ悪いようにしていないというのなら、無理やり帝国を引き剥がすこともないだろう。その後のホルガナンダ大陸の面倒を見ることも、いま抱えている使命を考えれば難しい。すくなくとも前よりは暮らしが良くなって、豊かになって、不満がないのなら静観だ。

…とすれば、帝国は外部の人間がホルガナンダ大陸の人間に魔法を教えることを嫌がるはずだ。『ウィッチャ』も乗っていると怒られるだろうな。やめておこう。

くつろいでいてよと言われ、晩御飯を任せきりにしてしまってから1時間。


「てか、うぉお。量多すぎないか、これ」

「そう?」


見ると、俺だけじゃなく、フェンやミレイユキュリスアドリウスが合わさってもまだ3人前ほど残してしまうであろう量の晩御飯が盛り付けられていた。

まぁ食べきれなかったら異空間に収納しておけばいいか…と、俺は山のような晩餐にありつく。


「やっばうっまなにこれ!」


素材の味を贅沢にふんだんに使ったスープ。香辛料たっぷりの炒め物。フルーティな酸味が効いたドレッシングが引き立たせる大地の恵み。これほどの料理を、短時間で?こやつ、一人暮らし歴半端ないな?しかも『美食家』ときた。


「これほどの量を短時間で作れて、こんだけうまい。店でも開いたらどうだ?」

「お店?うーん…100年くらい前に帝国が来てから自由にお店が開けなくなったし、そもそもお店を開いてもお金に興味がないしなぁ。僕は好きなものを好きなだけ食べれるいまの生活がとても気に入ってるんだ」


そうか、こいつは満足しているんだな。なら俺から何かすることでもない。

談笑しながらご飯を食べ終えると、既に夜になっていることに気づいた。


「もう行っちゃうの?」

「ああ。あんまりのんびりもしていられないんだ」


それからしばらく、ホルガナンダを転々とし視察して回ったが、特に異常もなく、不当に働かされてるわけでもなく。なんの問題もなかった。

ファランでもインヴィクルのような組織の話は無いってセラスは言うし、ウリエラも無いという。もしかしたら、神話になぞってインヴィクルが他の大陸それぞれで活動しているというのは杞憂なのか?

俺はなにか重大な見落としがないか不安を残しながらも、無いなら無いで良いことだと思い、俺たちはホルガナンダを後にした。

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