色欲の悪魔
リヴィアと同じ、大罪の名を冠する悪魔か!!くそ、てことはリヒトが持つ鍵は本物だってことか!神獣の鍵37つのうち、3つめにして当たりかよ!!
「ねえそこのアナタ?私と姦淫しない?」
アスモデウスの瞳に怪しい光が宿る。それを見た何人かの男が、アスモデウスに引き寄せられた。
「あラ?たったの6人?おかしいわ。んっぁ…ねえ、私と気持ちいいこと、し、た、く、な、い?」
扇情的な動きも混ぜ、さらに何人かの男がアスモデウスに引き寄せられる。しかし、全体の9割以上の男性は、アスモデウスを警戒してその場を動かなかった。
「なに?なんで?なんでこんなにも誘ってるのに、たかが15匹程度しか誘惑できないの?」
…なるほど、リヒトの目的がわかった。リヒトはこのアスモデウスを討伐、あるいは弱らせるため、アスモデウスに誘惑されない…つまりは、性欲が皆無に等しい存在を集めていたわけだ。
本来ならこのアスモデウスがアルヴテリアに解き放たれてしまえば、先ほどまで起きていた以上の、龍の大群による地上の崩壊やら、マルスや魔王のような人外による滅亡やらがあり得たのだろう。
しかし、ここは閉ざされた世界で、アスモデウスの誘惑が効かない者ばかり。龍種特効の洗脳なら俺たちも危なかったが、性欲があるもの限定の洗脳なら話は別だ。俺らは最高位龍種。個で完結している、完全な生命体だ。生殖も必要ないがゆえに、性欲もない。つまり、このアスモデウスの誘惑は俺たちには効かないのだ。
そして、能力を見る限り、このアスモデウス、他者を洗脳し操るのに特化したタイプで、対して自分の力はそれほどないのではなかろうか。リヴィアのようなトンデモ能力…まあアスモデウスの能力もこんな閉ざされた世界じゃなければ、性欲がある者全てを操るなんてのはトンデモ能力なのだろうが、リヴィアとは反対に環境に強さが依存しすぎた。
環境次第でリヴィアよりも総合的に格段に強く、厄介となっていただろうアスモデウスも、こんな閉ざされた世界じゃ恐るるに足らず!
「アナタ達、イきなさい!!」
アスモデウスも不利だと察したのだろう。先ほど洗脳した15人(体)と、先ほどブラクティシアを襲った龍達、その他諸々を一気にけしかけてきた。
だが、洗脳されないとわかってしまえばこっちのものだ。
俺はミレイユとキュリスを顕現させ、その場の停止を命じる。
「『硬化』」
まずミレイユがこの場の全ての物質を硬化させ、強度を上げる。
そしてキュリスの権限で凍らせ…
「『ゼロ・アブソルト』」
「ん?なんだそれ聞いたことな――」
――瞬間、世界を絶対零度が襲った。
大地には霜が降り注ぎ、空からは液体となった大気が雨となって降ってくる。全ての運動は停止し、静となる。
時が、止まった。
「ヴァーン、お腹空いた。早く帰ろ?」
アスモデウスを始め、アスモデウスに操られていた龍種達も氷付けにされてる。龍種は滅びれば司るものが過去現在未来に至るまで消えるが、こうして氷付けにしてしまえば動きはできないが死んではいないため消滅することはない。
完全に封印されている。
「光まで凍ってるから完全に真っ黒だな…どこで覚えたんだそんな技」
そういえば俺、最高位龍種の権限を調べたことがなかったなと思い出す。
名前『キュリウス・ウォレスト・プルトゥ』
位『最高位』
種族『純血:アルヴドラグアルティマオリジン』
権能『神位5』『ゼロ・アブソルト』
『神位』とさっきの技の名前の『ゼロ・アブソルト』しかない…?つまりいま、キュリスは本当の意味で自分の権限――いや、権能を使ったということか。
…なんともあっけなかったな。そう思いつつ、俺はリヒトの方を見る。――リヒトは少し離れたところで一人ぽつんと、封印されたアスモデウスを眺めて…いや。役目を終えたリヒトは既に、物言わぬ人形となっていた。…だが、俺にはそう思えなかった。
「…役目を終えたか」
「いや、こいつは壊れても、自分の使命のために働き続けていたんだ。俺にはリヒトがまだ、アスモデウスを監視しているようにしか見えないよ」
「…そうかの」
そうして俺らは、リヒトに囚われていた人々を異空間に収容し、ブラクティシアに戻った。
「アンディ!」
「ウリエラ!」
二人が走り寄ってハグをす…ればよかったのに、アンディがウリエラと密着する前にウリエラの手をとり、ウリエラの体の具合を見た。
「大丈夫かい?どこかケガとか、あざとか作ってないかい?ただでさえ引きこもりなのに、こういうときに無茶しちゃうぐへぇ」
「んもう!アンディなんかもう知らない!」
しばらくアンディとじゃれあってたウリエラだが、俺らが見ていることにやっと気づいたのか顔を赤らめて平静を装い、俺らにきちんと挨拶をする。
「改めて、ブラクティシアを代表して感謝申し上げます。ヴァーン様、この度は国の危機を救ってくださりありがとうございました。謝礼の品についてはまた話し合いの機会を。そして、アンディを探してくださいという個人的な依頼に関しても感謝申し上げます。報酬については、ここまでの大事になるとは思わず…他になにか欲しいものはありますか?」
ふーむ…欲しいものね。ブラクティシアとの取引の方は面倒だから、俺はセラスの護衛だとかなんとか言ってセラスに丸投げしちゃって、ウリエラの依頼のほうは…空路のやつ以外に欲しいものは無いんだよな。こっちゃ、魔法の権現、最上位の龍種が集まってる。強いて言えば…
「そうだな。ウリエラには前に話した空路の他に、知識を授けてほしい」
「知識…ですか?あれほどの魔法を使える方々に教えられるものに覚えがないのですが」
「俺らは冒険者だけど、戦ってばかりでこの世界の最新の文明、価値観とかに疎くてね。教えられる範囲でいいから教えてほしい。その代わり、こっちも教えられるものがあったら教えるよ」
正直、俺たちにとっちゃ物よりも知識のほうが何十倍もの価値がある。というわけでセラスを一旦国に返したあとはウリエラたちのとこで勉強だ。
「それで、ブラクティシアからの下賜だが、実は俺はセラスの護衛でな。そこらへんの話しはセラスにお願いした」
「はぁ!?」
「護衛、ですか?」
「はぁ…まぁいいわ。貴方がブラクティシアの代表として応対するなら、私も改めて自己紹介をするわ。私はセラス・ガイナース・ファラン。この国から見て、この星の裏側に位置するファラン王国の次期女王よ。貴方は?」
「なるほど…ただ者ではないとは思っていましたが、水平の果ての使者でしたか。それでは私も自己紹介を。私はウリエラ。『銀造りの屋敷』の主、ブラクティシア魔法師連盟の首長、ウリエラです。立場を名乗ったということは、セラス様は国家同士の取引をご所望ということでよろしいですね?」
「貴方がブラクティシアの首長…!?…失礼、少々驚いたわ。大分若いのね」
「それを言うならセラス様もですよ。次期女王が既に決まっているということは、既に王位継承権のゴタゴタは済んでいるということ。来年にでも国主となるのでは?」
「ふふ、話しやすいわ。立ち話で済ます話でも無いわね。…まぁ、一週間くらい長居したっていいでしょう」
「え、いや、一週間つってファラン出てきてるんですけど?無断でもう一週間なんて、王様に申し訳ないんだが」
「これ、既に国と国との外交になってるのよ?ヴァーン。いまの私の決定を覆すなら、私と同じ立場、つまり夫となるしかないのだけど」
「あ、いや、なんでもないっす」
「ふふ…それでは、4日後に正式な場を設けます。それで良いですか?」
「ええ。それまではこの国の文化に触れて勉強させていただくわ」
「はい、最大限のおもてなしをさせていただきます」
…まぁ、俺にとっては宝の持ち腐れみたいなもんだったし、ブラクティシアに売った恩をセラスが有効活用してくれるならいいか。




