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頼まれ屋アリア  作者: 角 風蓮
第一章 青い秘境
2/5

2 欠けた月夜に

 オルファ香は深山に生える。簡単には手に入らない。

 その後、二人は一旦出直し、旅支度をすることにした。

「……急いては事をし損ずる、もう少し落ち着けよな。」

 心なしか、アリアの手が震えている。

「……あたし、間違いたくないんだ。人を死なせたくない。わかるでしょ?」

「なら、焦るな。……なんだよ? あんな昔のこと、まだ引きずっているとか? らしくないぜ?」

「……間に合わせたいの。人が死ぬのはもう嫌なのよ」

「なら、急げ。ほら!」

 ヴェルゼは荷造りを終えると、アリアを手伝った。

「オルファ香の生えるイルヴェリア山脈までは遠い。今日はもう無理だ。しっかり寝ておくんだな」

「うん……」

 お休み、と声をかけ、ヴェルゼはさっさと自室に退散する。


……慰めるのは、苦手だ。

 不器用な自分に、姉貴は何を求めている?

 人は間違える存在。依頼が失敗し、ときには人が死ぬこともある。

 それを今更、なぜ恐れる?

 すっきりしないままに、ヴェルゼは自室で月を仰いだ。

 どこか欠けた、うつろな月。

 満ちるのは、いつの日のことだろう。

 その頃には、自分たちも満たされているのだろうか。


――遠い、遠い昔。

 シドラという少年にはめられて、ふるさとの村を追放された。

 信じていたのに。シドラにとっては、裏切りは「ゲーム」でしかなかった。

 それに激怒したヴェルゼは、あの日、暴走し、アリアの心を消し去った。

 その後、ヴェルゼの死霊術(ネクロマンシー)で、アリアの心は復活したけれど……。その代償として、ヴェルゼは五年の命を失った。

 あの日、ヴェルゼは人を信じられなくなった。


――もしかして、あの日。

 自分のことにしかかまけていられなかったけれど。アリアも等しく傷ついていたとしたら。

――間違いたくないんだ。

 シドラの言葉を鵜呑みにし、間違ったことを行って 禁忌を犯し、挙げ句の果てにはふるさと追放。それは、誤った行動の生んだ悲劇。

 アリアの気持ちが、わかったような気がした。

「……下らんトラウマだ」

 けれども、その過去は。あまりにも悲しく、憤ろしくて。トラウマと知りつつも、決して手放せないもの。

「カルダン……」

 ふるさとに残してきた、唯一無二の友のことを想う。

「あんたは今、元気でいるか……?」

 悲しみだけではなかった、ふるさとでの日々。

 遠ければ遠いほどに、まぶしくて、直視できない思い出。

「疲れた、眠ろう」

 いつの日か、過去に向き合う日は来るだろうけれど、今は、まだそのときではないから。

 眠りについて、依頼のことだけを考える。

 雑念なんて、要らない。

まだ続きます。

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