君の名は 2
「クロード坊っちゃん!まぁまぁまぁ!こんなに大きくなられて!なんて立派に‥‥旦那様もさぞかしお喜びでしょう!!」
涙を浮かべ僕をみつめる。
そんな彼女は大分年を取り、顔色もあまり良くない。
「坊っちゃんはやめてください。もう大人になりましたから。それより顔色があまり良くなけど、どこかわるいの?」
「いえ、風邪をひいてしまいましてね。でも大分よくなったんですよ。」
「そうか、それは悪いときに来てしまったね。」
「大丈夫ですよ!今日は孫娘がブローニャの村から来てくれる予定でして、あの子の好きなクッキーを焼いてやろうかと思ってたんですよ!」
にこにことそれは嬉しそうに話す彼女は、屋敷にいたときと変わらなかった。
「そういえば、坊っちゃんはどうしてここに?」
「うん、近くを通ったから寄ってみたんだ。」
「そうでしたか。ありがとうございます。お会いできてとても嬉しいです。折角ですし、坊っちゃんもクッキーを食べて行きませんか?お時間はありますか?」
坊っちゃんはやめてくれないんだな。
苦笑しつつ答える。
「でも折角お孫さんが来てくれるんでしょう?お邪魔しちゃ悪いな。」
「お邪魔なもんですか!あの子も喜びます。本当に不憫な子なんですよ‥‥。」
そう言って彼女は顔を曇らせて俯く。
「すいません、坊っちゃん。実はあの子の母親は、私の娘でもあるあの子の母親は、3年ほど前に流行りの病に倒れました。元々体も弱くて、寝込みがちだったんですけどね。」
そしてハンカチで目頭をおさえた。
「その後来た後妻であるあの子の義母がえらく美人でね、あの子の父親は骨抜きにされてしまって嫁のいいなりなんですよ。」
「それでね、母親譲りの黒髪が気に入らないとかで、外にも出さず、外出の時には父親の外套を着せるんですよ。まだ若くてあんなにキレイな黒髪を。それであんまりひどいんで前の誕生日に赤い頭巾を作ってやったんです。それは喜びましたよ。」
な?
なんだって?
黒髪?
「引き取りたいってお願いしたんです。でも娘は父親と暮らすべきだって取り合ってくれなくて。息子が出来てからはさらにひどくなりましたよ。あの子はそりゃあ落ち込んで。本当は優しくて明るい子なのに、頭巾をずっとかぶって。」
まさか、まさか!
でも!
もしかして、あの少女なのか?
いやブローニャの村にも使いを出したはずだ!
居ないと言われたはず、だ。
僕は動揺していた。
黒髪はそんなに珍しいわけじゃない。
そうだ。
そんなはずはない。
なおも彼女の話しは続く。
「母親譲りの瞳も、あの黒い瞳も気に入らないのでしょう。」
黒い 瞳