あまいきおく
「君は誰よりもキレイだ。」
そうして抱きしめるクロードさん。
なんだか泣きそうになりました。せっかく泣き止んだのに。
「どうして君を探していたか話しても?」
「お願いします。」
僕はクロード・フィラルド・ゼルド・ブラン。
伯爵家の次男で兄が家督を継ぐので、兄を助けるためにも騎士団にはいって剣の道を行こうと決めた。
16歳で入団し最初のうちは見習い剣士として城や砦でひたすら雑用と鍛練に励んだ。
二年目の17歳、実地訓練もかねて外に出ていくことが増えた。
そこである森で盗賊が出るという事で、騎士団の一部隊が派遣された。そこに僕もいたのだ。
「はぁ、はぁ。」
盗賊は確かにいた。
そして強かったのだ。
もしかして兵士か剣士上がりだったのかもしれない。
太刀筋が素人ではなかった。
先輩騎士たちも手を焼くなか、新人剣士である自分は緊張や実戦経験の少なさからかなり苦戦を強いられた。
「くそっ!」
血と汗を流すため近くの川に向かう。
切られて出血している腕を見る。
たいした傷ではない、ただ悔しかった。
自分が情けなかった。
「っくしょ!」
川の中で腕をつけてホコリや血を流していった。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
はっと声のする方を振り返ると12、3歳ぐらいの女の子が立っていた。
近くの村の子だろうか黒い髪と瞳の女の子だ。
甲冑は脱ぎ、上半身は裸だが子どもはそんな事を気にしてもいないようだ。
「お兄ちゃんは騎士様?」
「あ、うん」
見習いに毛がはえた程度だか騎士いちいち説明は面倒だ。
「森の盗賊をやっつけてくれたの?」
「そうだね」
「ありがとう!本当は森で木の実を集めたかったのだけど、お母さんが盗賊がでて危ないって行けなかったの!」
「そっか」
「これでお母さんに体によいものも食べさせてあげれるもの!騎士様本当ありがとう!」
媚びも裏の意味もなく心からのお礼を言ってくれる少女はすさんだ僕の心を溶かしていく。
「でも騎士様ケガしちゃったの?」
「あ、たいしたことないから。大丈夫だよ。」
しかし少女は僕のすぐそばにしゃがんで自分のハンカチを濡らし傷口をぬぐう。
「そんな事ないよ!ちゃんとキレイにしないと後で大変だよ!」
泣きそうな顔で優しくハンカチをあてた。
とたんに香るあまいにおい。
なんだこのにおいは?
あまい、あまいにおいだ。
この少女から出ているのか?
よっぽど難しい顔をしていたのか、少女はさらに泣きそうになってしまった。
「やっぱり痛いんだね?私薬持ってなくてごめんなさい。」
ハンカチで押さえながら俯いてしまった。