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超短編2

口は災いの元。

作者: しおん

口は災いの元。


昔の人はこんな言葉を残している。これは不用意な発言は自分自身を滅ぼす要因となることもあり、言葉が自らに災難をもたらすことが多いからうかつに言葉を発するべきではないのだという戒だ。つまるところ、なにか発言をするときは注意しなさいってことで、実質的に話すなという意味ではない。


しかし、これを大袈裟にとらえ災いを避けるために口を閉ざす者もいるわけで、そんな中の一人が僕の兄だった。

兄は元々おしゃべりな人ではなかったけれどある日を境に家族間での会話が続かなくなった。


「ねぇ、兄さん」


「うん」


「宿題教えて欲しいんだけど」


「うん」


「ここが分かんないんだ」


「うん」


何をいっても、うん。こっちの言葉を受容するばかりで自分の意見を主張することがなくなった。そればかりかyesかnoの二択以外では反応することもあまりしなくなってしまった。


家族だからこんな反応なのだろうかと兄の友人を訪ねると、兄は元々そういう奴だと言う。それが事実だとしたら兄は家の外ではずっと今のような人間だったというわけだ。よくそんな奴と友人をしていたものだと、兄の友人に感心すらしてしまう。


そんなこんなで、兄の外面はわかった。

だがしかし、なぜ急に家族の前でもそんな態度になったのかが謎のままである。僕の知る限り家族間でトラブルが起きたり家庭環境が変わったりはしていなかったはずだ。僕の家の"いつも通り"がそこにはあった。なのになぜ、兄は変わってしまったのだろうか。


「ねぇ、兄さん」


「うん」


「なんかはなそーよー」


「うん」


「うんじゃなくてさぁ...」


「うん」


いや、だから違うって!

声を荒げてそう言いそうになるのをぐっとこらえた。きっと兄に自覚はない。僕が思うに兄は今まで通り僕と接しているつもりなのだろう。わざとらしい視線も声も表情も、何一つとしてないのだから。


「最近の兄さん、ちょっと変だよ?」


何気ない(ふう)を装って言ってみたのだが少しわざとらしかっただろうか。これじゃあ僕の方が兄より変かもしれない。それに、兄がこの事を気にするかもわからない。


「そうか?」


そっぽを向いていた目がピタリとあった。兄に話すという意思が無かったわけでないらしい。


「そうだよ。どうしちゃったの、急に」


何が変わったのか、核心的なことは教えてやらない。それは僕が教えるべき事ではないだろうから。


「うむ......」


考えてる、考えてる。

大いに悩むがいいさ、そして結論を教えてくれ。なぜこうなってしまったのか、本人が一番よく知っているはずだ。

兄はしばらく頭を右に左に捻りながらうんうん唸っていたが、やがてピタリと動きを止めたと思うとこちらを見て一言


「......そうか?」


と、口にした。期待していた返答とは違っていたが、これで一つわかったことがある。どうやら兄には心当たりがないらしい。

これは厄介なことになってしまった。自覚のない人間に自分のことを理解させなければならないのだから......長期戦になる。というか、ただ面倒くさい。


まずはどうやって自身の現状を把握させようか。

僕の悩みは尽きない。


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