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見習い女神ナスクの異世界ゲームセンター繁盛計画  作者: エエナ・セヤロカ・ナンデヤ
第一章 ナスクゲームセンター開店準備計画
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仕事紹介

 「浩太ぁ~! 大丈夫だった!? 知らない人に悪いことされなかった!?」


 迷子センターからナスクを回収後、金を稼ぐために街をうろつく。

 

 異世界に来た主人公が金を稼ぐ為にやる事と言ったらやっぱりクエストを受けるのが王道だろう。

 中には現実世界と同じようなバイトをやって日銭を稼ぎながらボチボチ生きてるパターンも多いが、せっかく異世界に来たんだから異世界っぽい仕事をしてみたいじゃないか。

 まぁ、クエストを受けて働くのはナスクなんだけどな。

 俺、モンスター退治とか無理だし。  

 そう思い、街の人に何かクエストを受けれそうな所がないかと聞いて現在地から一番近いここに来たのだ。

 だが早速詰みそうになっている。


 「なー頼むよー。クエスト受けれないと飢え死になんだよー。そう硬いこと言わずにさ、な?」


 「ですからクエストを受ける為にはまず本人確認の手続きが必要なんですよ。残念ですがその運転免許書証? ってやつでは本人確認はできません。公的機関などが発行したちゃんとした証明書を持ってきてください」


 「あ~? そうやってルールや決まりがーって言って柔軟に対応できないからお前らはお役所仕事って言われるんだぞ? 少しは改善しようと努力しろよ? お前、今まで何してたんだ?」


 「こっちが聞きてぇよ!」


 「ちっ……」


 どうやらクエストを受けるのには自分の身分を証明する必要らしいが、この世界で俺の事を確認する手段がないのだ。

 どうしたものか……。


 「……もちゅもちゅ……このお菓子うまぁー。賞味期限が切れて腐ってるんじゃないかと思ったけど、納豆だと思って食べたらこのお菓子もおいしいねぇー」


 ナスクは朝食の時に出した賞味期限が20年以上切れてるお菓子をもぐもぐと頭を空っぽして幸せそうに頬張っていた。

 

 「そういや、ナスク。末端でも一応女神なんだろう? だったらナスクから何か言ってやってくれ」


 「浩太の身分を保証してあげたら……もちゅもちゅ、いいんだね! ……ごくん。ではでは、……浩太の事はこの女神ナスク様が証明するよ! だから浩太にクエストをあげるんだよ!」


 「いやいや、俺にクエストを振ってもらっても困る。クエストを受け馬車馬のごとく働くのはお前だっての、ナスク。仮にも女神なんだろう?ならその力を思う存分使って魔王と一緒に刺し違えてこい。報酬は俺が貰っとくから」


 「ほにゅ!? なっ、ナスクがクエストやるの!?」


 ナスクはぷるぷる体を震わせてビビッていた。

 やめてくれよ、あんなに散々女神自慢してたくせになんでそんなにビビッてんだよ?

 俺まで不安になってくるじゃないか。

 

 「……なぁ、ナスクって本当に女神なんだよな? 弱い振りしておいて本当はチートレベルに強いんだろう!? な、そうだと言ってくれよ!?」


 ナスクの肩に手を置いて体を揺さぶる。

 しかし、ナスクは目を逸らしながら冷や汗をかいていた。

 

 「も……もちろんすごい女神だよ?」 


 なんか、すごい自信がなさそうに言っている。


 「あのー女神ナスク様? そのような名前は全く聞いたこともないのですが。失礼ですが、どこの所属ですか?」


 受付員が顔をしかめながらナスクに質問を投げかける。


 「所属……ですか? そのっー強いて言えば……――」


 ナスクは目を泳がせながらおずおずと何か言おうとする。

 だが、しばらく待ってもブツブツと小さく独り言を言うだけで何を言ってるのか分からない。

 その自信のなさっぷりはまるで現場に配属されたばかりの新入社員のようだ。

 

 「はぁー……最近多いんっすよ。女神だって名乗って金品騙し取ったりする女神女神詐欺。申し訳ないですけど、一度本人確認できるものを改めて持ってきてもらえますか?」


 「……もぐもぐ、お力添えできふにまことにもうひわけありませんでした」


 ナスクがまたお菓子をもぐもぐ頬張りながら困り顔で俺に謝る。


 「菓子食いながら謝ってんじゃねーぞ? 後で日勤教育な。何百ページもある分厚い哲学本読ませて感想文提出させてやる!」


 「……っ!? ご、ごめんなさ……ぐふっ!? く、苦しい……」


 急いでお菓子を飲み込もうとして喉に詰まらせたのかナスクが陸に打ち上げられた魚のようにピクピクし始めた。


 「これ以上ここにいても仕方がない。一度作戦の練り直しだな」


 それにしても不安が拭えない。

 ここに来るまではあんなに堂々と女神だと自称してたくせに、ここに来たとたん本当にただの痛い子に成り下がっている。

 女神女神詐欺って……もしかして俺もこいつに騙されてる?

 俺は疑念を抱きながらナスクを見た。

 

 「……くふっー」


 ピクピクしていたナスクの動きが止まった。

 お前、お菓子にすら負けるのかよ?


 「何か騒々しいと思ったらエターナル商会さんじゃないですか。いつもお世話になっておりますー」


 外に出ようとした時、奥の部屋からおばちゃんが来て俺に向かって話しかけてきた。

 きっとここの少し偉いおばちゃんなんだろう。


 多分俺に言ったと思うんだが、エターナル商会って何だ?


 「あれ? エターナル商会の人じゃないのですか? 同じ羽織を着ていたもんですから、てっきりエターナル商会の人かと思ったのですが」


 「羽織?」


 そうか、あの商人からもらった羽織を着たままだったから、エターナル商会の人間だと勘違いさせてしまったのだろう。

 ……くふふっ、もしかしてエターナル商会の人間だって勘違いさせたらクエスト受けれるんじゃね? チャーンス!


 「いやぁーそうなんですよ~! 入ったばかりの新人なんっすよ~! すいません、まだまだ慣れてなくて~!」


 「あー、そうなんですかー。新人さんでしたかー。今日はどのようなご用件で?」


 「ええっとですね、今エターナル商会の新人研修中でしてね。現場を知る為にクエストを実際に受けて来いって命令されたんですが~……お恥ずかしながらクエストを受ける為の本人確認できる書類がなくて困っているのですよ。つい先日まで放浪者だったもんで」


 「なるほど、なるほど。そう言う事ですか。規則ではちゃんとした本人確認をしないといけないのですが……今回は特別にエターナル商会が保証人になると言う事で特別にOKとしましょう。それでは、あなたに合ったクエストを選ぶために一度ステータスを拝見させてもらってもよろしいですか?」

 

 「あーはい。……ところで、ステータスを見せるには私は何をしたらよろしいのでしょうか?」


 「そのまま楽にしておいてください。それでは、オープンステータス」


 そう言い終ると同時に、俺の周りに魔法陣のようなものがぐるぐる回っている。

 おおっ、RPGゲームによくあるような魔法だ!

 昨日はスマホで撮影されたがなんかこれは異世界っぽいぞ!


 だが、うかうかとしてられない。

 何と言っても、俺のステータスはゴミだからだ。

 能力が低すぎて受けれるクエストがないって事にならないといいが。


 ……あれ?違うくね?

 ナスクに働かせるんだから俺じゃなくてナスクのステータスを取得する必要があるんじゃね?

 この流れだと何かまるで俺がクエスト受注する流れじゃね? 止めねば!!


 「あの、すいません。ちょっと待って――……」 


 「名前は、杉山浩太さんで……職業は"詐欺師"……えっ?」


 「えっ? 職業が……詐欺師?」


 驚きのあまり静寂が流れる。

 いつの間にかフリーターから詐欺師にジョブチェンジしていた。

 ってか詐欺師ってもはやジョブですらねぇだろ! ただの犯罪者じゃねーか!


 「んー職歴詐称でクエスト受けようとしたから更新されちゃったんだねー」


 勝手に死に掛けて、勝手に生き返ったナスクはまたもぐもぐお菓子を食べるのを再開しながら俺にしか聞こえないように小声で言った。

 随分、機転の利くシステムだなぁおい。


 「……」


 「……」


 このまま黙っていても事態は良くならないだろう。

 とりあえず適当な言い訳を言ってみるか。

 

 「……ゼロベースで盗賊と商人のシナジーを抽出してフィックスさせたとてもフレッシュでイノベーション的な職業です。マイノリティ性が高くよく驚かれますが将来的にはイニシアチブを取る事ができる職業だと思います。なのであまり気にしないでください(真顔)」 


 「……そ、そうですか。で、ではあまり気にせずに次に行きましょうか。称号は~……"嘘つき"……えっ?」


 「あ~エビデンス上ではそうなってますか。ですが、あなたと私と間のアイライアンスでは何も問題ありません。ご安心ください(真顔)」


 「……」


 「……」


 「そ、そうですね。いやだわ私。年とったしまったせいで最近のワールドがアンダースタンドできていないのよね~」 


 これはちょっと前の時代のビジネスマンが稟議で上司の了承を無理やり得る為の最終手段。

 わざと難しいことを言って理解をさせないようにしてなし崩し的に了承を取るのだ。

 ポイントは『こんくらいの言葉なら上司は当たり前に理解出来ているよね?』みたいな雰囲気を作り出して『お前何訳の分からない事言ってるんだ?』って言わせないこと。

 だって言ってる本人が分かってないんだから。

 悲しいかな、最近ではでかいガラスの前でリンゴ持ちながらコーヒーすすっている学生が使っているせいで意識高い系とか言われて馬鹿にされるがこれは底辺ビジネスマンが生き残る為の切り札だったのだ。


 「あぐりーあぐりー。伝わった! 浩太が言いたい事はちゃ~んとナスクに伝わった! そうだね、プロテインだね!」


 ナスクは窓から外の景色を見ながら腕組みして一人で頷いていた。

 絶対に分かってない。

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