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見習い女神ナスクの異世界ゲームセンター繁盛計画  作者: エエナ・セヤロカ・ナンデヤ
第一章 ナスクゲームセンター開店準備計画
6/19

生活費稼ぎ

 ゲームセンターを出て30分くらい歩いた所で街に到着する。

 予想通り、なんと言うかRPGゲームみたいな剣と魔法のファンタジー世界っぽい街だ。


 「はぁ……はぁ……。やっと……着いたね。へへ……。負けないでぇー↑↑もう少しー↑↑」


 ナスクは途中で拾った太い木の棒を松葉杖代わりにしてよろめきながら街に到着した達成感に満ちた顔をしていた。

 ただ30分歩いただけで何で24時間テレビマラソンのフィナーレみたいな感じになってんだよ。

 しかもめっちゃ音痴だし。


 「こ、浩太。……ちょっと休憩しない? ナスクはゆとり世代だから10分以上の徒歩は無理なんだよ」


 「ゆとり世代でも30分歩いただけでここまで疲れねーよ。ほら、さっさと行くぞ。明るい内にできるだけ情報を集めてちゃっちゃと金を稼がないと明日食う飯すらねーんだよ」


 「さーいごまで↓↓走り抜けてぇー↑↑」 

 

 休憩を希望するナスクを無視して街を歩く。

 地べたで駄々でもこねるんじゃないかと心配していたが一応ちゃんと付いてきた。

 しかし、俺に対してのささやかな抵抗のつもりなのだろう、歌うのは止めなかった。 

 

 異世界に飛ばされて2日目。

 俺たち最低限の生活費を確保するために街に来た。

 そう、仕事を探しに来たのだ。

 電気が使えない以上、ゲームセンターを開店させるなんて不可能なんだから街に来るしか選択肢がない。 

 ナスクに聞いた所、バッテリーを充電する為には、まず1カ月分の電気代を先払いしないといけないらしい。

 移転してから1日動いていたのはゲームセンターを移転した際、正常に動くかどうかのテスト用の電力だったそうだ。 

 つまり、生活費に加えて先払い分の電気代を稼がないといけない。

 

 「……ごくごく。うまぁ~。そんなに焦る必要はないよ~。生活費と電気代くらいなんとかなるよ~。はい、浩太の分のお水~」   


 ナスクは自分が飲んでいた水が入っているビンを俺に差し出す。

 これを飲んだらナスクと間接キスになるが、俺は気にもせず受け取り口を付けた。

 だって、俺、ロリコンじゃねーし。


 「サンキュー。ところでこの水、どうしたんだ? まさか……最後のなけなしの金を使ったんじゃないだろうな?」


 「さっき露店で買ったの。もうナスクの財布はすっからかん」


 にへら~としながら財布に中身が無い事を証明するかのように見せてくる。

 本当に空っぽだった。


 「幸せそうに言ってくれるじゃねーか。お前、現状を認識してるのか? あん? あのゲームセンターを1ヵ月動かすのに必要な電気代を言ってみろ」

  

 「んー最近は電気代高いからねー。一人暮らしで5千円くらいとするとー……んーとね、5万円くらい?」


 「たった5万で賄えるんだったらゲームセンターはコンビニ以上に店舗があるっての! いいか? ゲーム筐体や、照明、それにあの広い空間の快適な空調を維持する為のエアコン代などなど、少なく見積もっても1ヵ月に100万円は必要だ! この世界で電気の価値はどのくらいなのかは知らないが、明日、明後日で営業再開出来るとは思うなよ?」


 「そっそんなに必要なの!? 電気の人にぼったくられてるんじゃないの!? どうしよう……どうしよう!」


 やっと今の深刻さを認識したのか、オロオロと慌てふためき始める。


 「まぁ確かにピンチと言えばピンチだがそこまで慌てる必要はない。何故ならば、俺には一獲千金できる良いアイデアがある」


 

 ◇◇◇◇◇


 

 街を適当にブラブラする。

 狙いは金を持ってそうな商人。

 そして出来るだけ暇でゲスそうな奴が良い。

 そんな商人を探している途中、ナスクをロストしてしまったが、慌てふためいてもどうしようもない。

 俺はそのまま商人探しを続行した。

 街の賑やかそうな所に行くと露店やらが多くあるエリアに到達。 

 『お主も悪よの~』『いえいえ、お代官様ほどでは~』みたいな会話ができそうな第一商人、発見。

 そうそう、誠実で真っ当に商売している商人よりあんな肥えた豚のような奴の方が良い裏ルートとか知ってるんだよ。

 俺はいつもの営業スマイルで声を掛ける。


 「お忙しいところすいません。私は旅人の杉山浩太と申します。実は良い商談があるのですが少しだけ話を聞いてくださいませんか?」


 「あー? そんな美味い話がある訳ねぇだろ。商売の邪魔だ。しっしっ」


 「それがあるんですよ~。これを見てください~。」


 俺はゲームセンターから持ってきた物を見せる。

 それはUFOキャッチャーの景品の飴玉だ。

 1個の仕入れ値が数円にも満たない飴玉だが、異世界ではとんでもない大金を持ってくるだろうと思った。

 だって、考えてもみろよ。

 こんな中世みたいなファンタジー世界に住んでる土人どもにとって砂糖なんてさぞかし高価な貴重品なはずだ。

 その砂糖の塊である飴玉を俺は倉庫にダンボール数箱分持っている。

 つまりシコシコとゲームセンターで奴隷のように働いて小銭を得る生活なんてする必要ないのだ。

 この飴玉を上手く売りさばくだけで一生飯を食っていけるくらいの金を手に入れることができるのだ。

 本当はこんな商人を仲介に通さずに俺一人だけで暴利を得たい。

 だが、まだこの世界の事を何も分かってない事に踏まえて明日食う為の目先の金が必要な状態。

 だからここに持ってきたコンビニ袋の一袋分の飴玉の利益の取り分の一部は俺様が特別に恵んでやろう。

 ひざまずいて俺の靴でも舐めて欲しいものだ。

 いや、こんなおっさんに舐められても嬉しくないけどな! 


 さぁて、後はこの飴玉の価値すら分からない哀れで頭が足りなさそうなこいつにどうやって説明しようかなぁ~うぇへへへへぇ~!


 「これは飴玉と言って嗜好品の一つです。まぁ、言葉で説明するよりも実際に食べてみてください。試食品なのでお金も頂戴は致しませんし健康にも問題ありません」


 「……良く分からんが食べたら良いんだな?」


 「ええ、どうぞ。包装してる袋を破いて試食してみてください」


 商人は袋を破いて飴玉を口に入れる。


 ちょろい……ちょろすぎる!

 まるで女の子と3分喋っただけでその子の事が好きになってしまう男子小学生くらいちょろすぎる!

 後はテンプレ通り、『何だこれは!! こんな美味い物食べたことがない!! 一体どこで手に入れたんだ!?』みたいな流れになってとんとん拍子で話が進んで大金ゲット!

 ちんちくりん女神からチート的な力もくれず、いきなり異世界に連れてこられてハードモードでスタートかと思ったが超イージィー。

 うへっ! うへへっ! うへへへ――……!!


 「別に普通のアメちゃんだな。これがどうしたんだ?」


 「えっ?……美味しくないですか?」


 「あ? 美味いって言えば美味いがー……普通だな。食ったらレベルが1上がるとかそんな効果はねーのか?」


 そんなふしぎなアメねぇよ。てめぇポケモンかよ。


 この反応は予想していなかった。

 てっきりあまりにも美味しさのせいで感動に打ちひしがれて涙を流しながら『うんまぁい……うんまぁい!!』とでも言うかと思っていたがそんな事なかった。

 まるで禁煙の最中で口元が寂しいからとりあえず飴を舐めているおっさんのように死んだような目でアメを舐めてる。

 あータバコ吸いてぇーわーみたいな感じで舐めている。


 いや、違う!! これは罠だ!

 商人が僕を陥れるために仕組んだ罠だ!


 そうやって飴玉に価値なんてまったくないような素振りをして『こちらでは値段が付かなく買い取れないのですがどうしますか?処分しときますか?』みたいな事言って後で売るんだろ? そうなんだろ?

 はっはっはっ~! 危うく騙される所だった! 残念だったな! 俺はそんな情報弱者じゃない!


 「あー兄ちゃん――」


 「いえ、処分はしなくて結構です!」

 

 「えっ?」


 「えっ?」


 「……」


 「……」


 まずは落ち着こう。そして情報収集だ。


 「……あの、商人さん。私はてっきり飴玉はとても高価な物だと思い込んでいたのですが実際の所どうなんでしょう?」 


 「あーなるほど、そういう事か。あっはっはっは、兄ちゃんはここに来てまだ間もないだろう? どこの出身か知らないがここではアメちゃんはそんなに珍しい物じゃないんだよ。だって今の時代は――……」


 ぴんぽんぱんぽーん!


 商人の言葉を遮るように、突如、柱に取り付けられたスピーカーみたいな物からアナウンス音が街中に響き渡る。 


 『迷子センターより迷子のお知らせをいたします。22歳で白のワイシャツに黒い長ズボンを履いた杉山浩太くんを保護者のナスク様がお探ししております。お心当たりの方は、迷子センターの係り員にお伝え――……ちょ!? な、何するんですか!?』

 

 『……ぐすっ。浩太ぁ~! 一人ぼっちにさせてごめんねぇ! ナスクのせいで寂しい思いせてごめんねぇ! うわあああああーん!!』


 街中にナスクの号泣が響き渡る。

 その迫真ぶりに人々の作業の手が止まるほどだった。

 てか、なんでナスクが保護者で俺が迷子扱いになってるんだよ!? 逆だろ!? 

 

 『変な人に付いて行ってないか心配だよおおおおお!! 浩太の好きなお菓子買ってあげるから早く会いたいよぉ!!』


 『きっ、きっと大丈夫ですから落ち着いてください! そ、それでは迷子センターよりお知らせでした!』


 ぴんぽんぱんぽーん


 「くすくす。22歳で迷子って……うける~」


 「笑ったら駄目だよ、保護者の人もすごい心配してるんだしさ」


 「でもね~。ねぇ、見てほら。もしかしてあの人が迷子じゃないの~?」


 「……う、うん。特徴はそっくりだよね」


 アナウンスを聞いた周りの人間がまるで嘲笑うような笑みで俺を見てくる。

 なんと言う羞恥プレイ。いくら何でも恥ずかしすぎる。

 商人から聞きたい事は山ほどあるが今は一刻も早くこの場から離れたい気持ちで一杯だ。


 「……迷子センターってどこにありますか?」


 「この道を真っ直ぐ行って突き当りを右に曲がってすぐある白い建物だ」


 「ありがとうございます。それでは失礼します。お時間とって頂きありがとうございました」

 

 商人に軽く一礼してその場を立ち去ろうとする。すると商人が呼び止めた。


 「待ちな兄ちゃん、これ持っていけ。少しは迷子じゃないって誤魔化せるだろう」


 商人からシルクで編まれたような青い羽織を手渡せられた。どうやら商人が着ている物と同じ物らしい。

 


 「ああ、はい。ありがとうございます。また近い内にお返しします」


 「もう古くて捨てようと思ってたから用がなくなったら勝手に処分してくれ。ほら、さっさと行かないと保護者が心配してるぞ?」


 「……」


 ナスクめ。後で上下関係をしっかり叩き込んで調教してやろう。

 俺はもらった羽織を着て軽く会釈して迷子センターに向かった。


 商人が呟く


 「さっきの放送で言っていたナスクって、もしかしてあの……。ははっ、まさかな」

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