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見習い女神ナスクの異世界ゲームセンター繁盛計画  作者: エエナ・セヤロカ・ナンデヤ
第一章 ナスクゲームセンター開店準備計画
5/19

移転2日目

 「おはようごじゃいます……顔洗いたい。洗面所はどこ~?」


 時刻は午前6時。

 ナスクがまだ寝ぼけた様子でやって来た。

 俺も丁度さっぱりしたいと思っていたところだからそのついでに顔を洗える所まで誘導してやる。

 ゲームセンターで顔が洗える所、つまり水回りの設備が備わっている所ってどこだって? そりゃあ、あそこしかないだろう。

  

 「……ここで顔を洗うの――?」


 トイレだ。

 

 「まぁ気にするな。洗顔用のせっけんとかは置いてないからこれで我慢してくれ。まぁ石鹸なんて何使っても大して変わらんだろう」


 洗面台に置いてある手洗い用の石鹸を指さす。

 プラスチックボトルに入った緑色の液体の奴だ。


 「後、顔を拭く物が必要だな。えーっと、とりあえずこれで我慢してくれ。2,3回くらいしか使ってないからギリギリセーフのダスターだ」


 青色のダスターを1枚ナスクに渡す。

 ダスターとはぞうきんみたいなもんだ。

 この店では赤、黄色、青色の3種類のダスターがある。

 赤色のダスターはゲーム筐体などお客さまが直接触れそうな箇所を水拭きして黄色のダスターで空吹きする。

 青色のダスターはトイレの便器や灰皿の内側など汚い所を拭く所だ。

 よってダスターが一番綺麗な状態を保っているのは黄色のダスターであり、俺はそれをナスクに渡し――……

 あっ、古い青色のダスター渡しちまった。


 ふきふきふき


 「んー……」


 間違いに気づきダスターを取り換えようとしたが、時既に遅し。

 ナスクは青色のダスターで顔を拭いていた。

 このまま、知らんぷりを決めようと思ったが、ナスクはくんくんとダスターの臭いを嗅ぎながらボソッと呟く。


 「このタオル……死んで腐ったネズミのような臭いがする……」



 ◇◇◇◇◇



 もぐもぐ


 「いやぁ~UFOキャッチャーの景品のお菓子だからって案外馬鹿にできねぇだろ? この北海道のなんちゃらケーキ! 北の大地の香りがするよな!」


 「んー……」


 「な?うめぇだろ?」


 「んー……」


 朝食と言えば、炊き立てのご飯に卵をかけてガツガツと胃に入れるのがジャスティスだが、このゲームセンターにご飯や卵なんてない。

 そりゃ、そうだ。ここはゲームセンターだし。

 だから今日もUFOキャッチャーの景品のお菓子だ。

 

 もぐもぐ


 ナスクがまたボソッと小声で呟く。

  

 「このお菓子……洗ってない犬のような臭いがする……」


 「これが最近の北海道の味なんだよ」


 どうやらこのケーキとさっきの青いダスターとは同じ匂いがするようだ。

 お菓子の箱を確認してみると賞味期限が20年以上前に切れている。

 景品倉庫の隅っこに落ちてた物だったが、このお菓子は俺と同い年くらいだったのか。

 しみじみと20年物のお菓子を見ているとナスクが不満そうに何か言い始めた。

 

 「こんなの間違ってる……」


 「間違ってる? 何が?」


 「昨日の晩御飯はうまい棒! お風呂はないからトイレの洗面所! お布団がないからダンボールを床に敷いて就寝! 顔を洗おうと思ったらまたトイレの洗面所! そして朝食は洗ってない犬の味のケーキ! こんなひもじい生活聞いてないよぉ! 絶対に儲かるからと半ば強引に契約させられたフランチャイズのコンビニオーナーみたいだよぉ!」


 「いや、知らんがな。てか、そもそもの原因はいきなり異世界に拉致ってきたのはどこのどいつだよ?」


 昨日の時点で入ってきたお客さまは0人。

 辛うじて客と呼べるのはあのスライムくらいだろうか。

 ナスクは『明日はお客さまをたーくさん来てもらえるようにがんばろうね~!』と実に幸せそうに言っていたが、そんな裕著な事言ってる場合ではない。


 だって、ここには生きていくための最低限の物資がまるでないのだ。

 水道は通っているから脱水症状になることはないものの、手元にあるまともな食料と言えばUFOキャッチャーの景品のお菓子。

 カロリーは摂取できるかもしれないが栄養的に考えるとかなりやばい。

 まずは生きる為の食料の調達が急務だ。


 「ナスクはねぇ? ナスクはねぇ? 子供たちに夢と希望と笑顔を与えるお仕事がしたかったのぉ! えへっ、えへへへへ~!」


 天井を見上げながらレイプ目でブツブツ言っている。

 まるで売れないグラビアアイドルが事務所の意向で無理矢理AVに出演される事が決まったような感じだ。

 

 「どんな夢見てたか知らねーが、とにかく出来る事をやっていくしかねぇだろ?」


 「……出来る事? ぐすんっ、そうだね、そうだね! 現実とちゃんと向き合わないとダメだよね! 諦めたらそこで試合終了だもんね!」


 ナスクはおっさんがおしぼりで顔を拭くように、青いダスターで自分の顔をごしごしと拭いて気合を入れる。

 そしてすっと立ち上がってどこかに言ったかと思うと、すぐに戻って来た。手には紙とマジックペンを持っている。


 「よし、まずはチラシを作って宣伝活動だ!」


 「はぁ……。チラシ配ったってその効果が出る前に飢え死するってーの。そんな事よりまずは飯や最低限の物資の調達だろ? いいか、まず両替機や筐体から現金をありったけかき集める。恐らく50万くらいにはなる。その軍資金で必要な物を揃えるんだ。今から手分けして金をかき集めるぞ」


 「日本円は使えないよ? だってここ異世界だから日本円じゃ街に行っても何にも買えないよ~」


 「……えっ?」


 「この世界の通貨はこれ」 


 ナスクはポッケから財布を取り出して財布の中身を俺に見せる。

 そこには見たことない銅貨みたいなものが数枚だけあった。

 

 「色々聞きたいことは山ほどあるが……。まずはーそうだな。随分、中身が寂しいような気がするんだがこれが全財産とかじゃないだろうな?」


 「移転費用でお小遣いぜーんぶ使っちゃったからこれで全部だよ☆ でも、心配するような事じゃないさ! 末端とは言え、一応女神の端くれ! このナスクには経営危機を乗り切る為の考えがある!」

  

 すると脚立によじ登って腕を組んで自信満々そうにドヤ顔をして言った。

 

 「お金がないならアルバイトをすれば良いのだ!」


 ブツン


 ナスクがそう言い終ると同時に部屋の蛍光灯が全て消えた。

 いや、蛍光灯だけじゃない。全てのゲーム筐体の電源も切れている。

 朝の日差しが窓を通して入っているので暗闇で全く見えないと言うほどではないが、これじゃあまるで停電したみたいじゃないか。

 

 「あ……ついにこの時が来てしまったんだね。バッテリー切れ」


 「この時……?」


 嫌な予感がする。ひじょーに嫌な予感がする。

 まさかバッテリーってあのブレーカーに取り付けてあった乾電池の事を言ってるんだよな?


 「……つまり、充電が必要って事だよな?それって――……」


 「お金がいるよ!」

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