表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
見習い女神ナスクの異世界ゲームセンター繁盛計画  作者: エエナ・セヤロカ・ナンデヤ
第一章 ナスクゲームセンター開店準備計画
14/19

チートが無くてもゴブリンくらいなら過去の経験で!

 さっきの黒奈の戦闘を見て、ゴブリンの身体能力が現実世界の人間と大して差がない事が分かった。

 ゴブリンはまるで俺をビビらせるように威勢よく大声を上げながら剣を俺の心臓めがけて貫こうとしている。


 「ウラアアアア!!」


 「ごめんなさい! どうか謝りますからああああ!」 


 ……ここだ


 すかっ!


 剣が体を貫こうとした瞬間、俺は少し左に回避する。

 剣はそのまま俺の右30cmの空気を切り裂いた。

 

 「……この程度か」


 戦いを何も分かっていない。

 もちろん相手が弱い事はとても喜ばしい事だが、何だか期待外れだ。

 まるでスク水にハサミを使って穴を開けるAVを見せられてるような気分だ。


 ビュン!


 「ウラ?……ゴブッ!?」」


 回避したと同時に、全力の右ストレートをゴブリンのアゴに叩き込む。

 手を抜く必要はない。

 だってこれはもう喧嘩じゃないんだから……。


 「うぐっ……うぐぐぐぐぐ!????」


 ゴブリンは大きくよろめいて後ろに後退する。

 ほう、完全に入ったと思ったが、流石はモンスター。 まだ失神はしてないか。


 ビュン!


 漫画みたいにベラベラ喋って、敵に態勢を立て直す暇なんて与えない。

 ガラ空きになっているゴブリンの腹めがけて思いっきり蹴りを入れる。


 「があぁっ!!!??」


 「……」


 蹴りがクリーンヒットしたゴブリンは苦しみの表情をあげ、ヒザを地面につける。

 ほう、丁度良い高さにゴブリンの顔があるじゃないか。


 ゴブリンの顔面めがけて、子供の頃に夕方に遊んだサッカーを思い出しながら蹴る。


 パーン!

 

 「……うぅ」


 そのままシュートされたゴブリンは地面に倒れこみ、ピクピクと泡を吐きながら痙攣する。

 人間ならこれで戦闘不能だが、ゴブリンの生命力は分からない。

 ひょっとしたらすぐに回復して、今度は油断のない全力の攻撃で襲い掛かってくる可能性だって十分ある。

 こんな雑魚に逆転される可能性を1%だって残してやるつもりはない。


 ドン! ドン! ドン!


 「……ぐぅ」

 

 ゴブリンの顔面に何度も何度も全力で足で踏みつける。

 お嬢様、踏んでくださいブヒィなんてマゾ豚が喜ぶような生ぬるい踏みつけではない。

 殺す気で何度も何度も何度も踏みつける。


 「……」


 やがてゴブリンが反応しなくなった。

 だが、生死の確認をする時間なんてない。

 それなら少しでも攻撃回数を増やして絶命に近づけた方が良い。


 ゴブリンの手から離れた剣を使って確実にとどめをさしたいが、その隙すらゴブリンに与えたくない。

 とにかく、このゴブリンの醜い顔が完全にミンチになるまで――……


 「杉山さん! も、もう大丈夫です……!」


 「…………」


 「……杉山さん?」


 「あ? ……ああ、そうだな」


 このゴブリンの生死はまだ確認できない。

 まぁ黒奈が戻ってきてるから仮に立ち上がってきても大丈夫だろう。

 あ~あ、きっと今の俺、めっちゃ怖い顔してるんだよなー。

 せっかくのイケメンが台無しじゃないか。


 「も~俺、超怖かったんだけど~? 新人教育放っておいて、おっさんの発毛しに行くってどうなのよ~? まじ勘弁してくださいよ~?」


 「……え? あ、はいっ……申し訳ありませんでした!本当に申し訳ありませんでした!」


 黒奈はペコペコと謝るからおっぱいの谷間がよく見える。


 おや?

 なんか黒奈の目が赤く光っている。

 ちょっと魔族っぽい感じがして、これはこれで可愛い。

 

 「次はちゃんと守ってくださいよ~? それと、黒奈さんの目、すっごい充血してますよ? 大丈夫ですか?」


 「えっ!? こ、これは……へへっ……最終手段を使おうと思ったのですが、杉山さんが倒してしまったので……」


 「へ~最終手段? 黒奈さんの! ちょっと最終手段を見てみたい! そーれ! はい! はい! はい!」 


 「……それにしても……へへっ、やっぱり杉山さんはとても強かったのですね!」


 飲み会っぽくコールしたがスルーされてしまった。


 しかも俺にとって不都合な会話の流れだ。

 さっきの俺の戦いを見て『杉山さんは即戦力ですね? 一緒に戦おう?』なんて言われたらたまったものではない。


 「初めて会ったときからそうじゃないかって思ってたのですよ! あの時の反応からの防御姿勢はまさにプロでしたから!」


 あの時と言うのは恐らく一番最初に黒奈に会った時に、黒奈がぴったりと俺の体にくっついていた時だろう。

 特に意識してなかったが、無意識で防御をしてたんだな。 


 「いえいえ、あの時は黒奈さんのおっぱいに目がいって、変なリアクションをとってしまったのが防御に見えたのですよ。 今も無我夢中でやっただけで――……」 


 「……へへっ♡」


 にへら笑いで俺を見てくる。

 黒奈はそれ以上の追及はしてこなかったが、まるで俺の考えを完全に見透かしているようだった。


 「そ、そんな事よりも、この戦いって本当に勝てるのですか? このまま戦ったらまずいんじゃね?」


 接近戦が始まって既に数分経過している。

 いや、たった数分しか経過していないと言った方が正しいだろうか。


 この数分間の内に、前衛にいるおっさんが大けがを負ってどんどん戦線を離脱している。

 そして後衛もMP切れが近いのか知らないが、支援魔法のペースが明らかに落ちている。


 おっさんたちもゴブリンと同じような強さで、黒奈みたいに飛び抜けて強いおっさんはほんの一握りしか見当たらない。

 この戦場では、はっきり言って俺でも即戦力になってしまうレベルだ。 


 そんな戦力で、この物量差に対して数分間も戦線を維持できたのはとてもすごい事だと思う。

 その戦線を維持するための連携力と精神力は感心せざるを得ない。  


 だが、それも長くは持たないだろう。

 今もどんどん薄くなっていく前衛の戦線から、ゴブリンが後衛のおっさんを一気に襲い掛かってもおかしくない状況だ。

 そして支援魔法を受けれなくなった前衛はみるみる崩壊。

 抜けられた所から穴が広がり、やがて戦線は維持できなくなるだろう。

 そうなったら100人のおっさんの内、一体何人が生き残れるだろうか?


 てか、他人事のように言ってるけど俺もやばい。


 「確か、異世界の勇者様が来るまで時間稼ぎですよね? 後、何分持ちこたえたらいいのですか? ……もしかして異世界の勇者って……今日配属された俺の事じゃないですよね?」


 「も、もしかして杉山さんも実は異世界の勇者――……」


 「違います(即答)」


 「そ、そうですか。ですが、さっきの杉山さんはとても頼もしそうでした! 本物の勇者みたいでした! これなら新人教育は終わりにしてーー……」


 「ふ〜ん(無関心) で、それよりも異世界の勇者様はいつ頃来る予定ですか?」


 「………予定ではとっくに来てないとおかしい時間なのですが」


 黒奈がキョロキョロして異世界の勇者を探す。


 「黒奈リーダ!! 本部からの連絡です!!」


 すると、号令をかけていた指揮官のおっさんが息を切らしながらとても慌てた様子でやってきた。


 「……本部からですか。嫌な予感がしますね」


 「はい、その通りです。……ゆ、勇者様が急遽来れなくなったから残存戦力で頑張ってと……」


 「……そうですか。まだ予想の範囲内です。保険として個人的に依頼した勇者様の方はどういう状況ですか?」


 「そっちの勇者からも今連絡がありました。何となくダルいからクエスト放棄する。手付け金の金貨は手数料としてもらっておくから……と言ってました。私も何とか来てもらえないかと頼み込んだのですが……」


 来る予定だった勇者も、予備として用意した勇者も来ないと聞かされた黒奈がショックを受けて呆然とする。

 流石に予備の勇者も来ないとは予想してなかったのだろう。


 そして何やら乾いた笑みでブツブツ言っている。


 「……へへっ、勇者様が確実に来てくれるように手はいくつもの打ちました。……契約書もちゃんと交わしてます。……歩いてここに来たくないから最高級の馬車を用意しろと要望があったので大金を払ってチャーターして出迎えの用意をしました。その他にもたくさん勇者様の要望通りにしたのに……」


 なるほど、なるほど。

 つまり勇者が屑だったってことだ。

 屑には約束や契約書なんて何も効果はないもんな。

 契約書なんてLineのトーク履歴程度にしか思ってないもん。


 ゲーセンで出入り禁止の誓約書を書かせても平然と次の日やってくるもん。

 『今日は俺のサインいらないんですかー? 俺のファンキルなんでしょ?』とか言っちゃってるもん。


 「両方の勇者が来れない最悪のパターンを想定して、Cプランは事前に準備しました。そちらの方は間に合いましたが……」


 余計な口を挟んで邪魔しないようにするつもりだったが俺はつい間に割り込んで質問してしまう。

 だって自分の命がかかっているんだし。

 もしやばそうなら今すぐ逃走したいからぜひ教えて欲しい。


 「Cプランとは具体的にどのようなプランなのですか?」


 「君は?」


 「今日配属された杉山と申します」


 「杉山さんは、多分ないとは思いますがこれまで戦闘経験はありますか?」


 「いえ、まったく」


 「ご覧の通り、今は杉山さんの命も保障できないくらいの非常事態です。杉山さんは一度この戦線から撤退してください」


 「話が分かるぅ!! お世話になりましたぁ!!」


 ガシっ


 「……へへっ、ダメです♡」


 黒奈が俺の腕に強く抱きついて、しかも手を絡ませて恋人繋ぎをする。


 おっぱいが当たって気持ちが良い! 黒奈の着ている奴隷服みたいな服の生地が薄いから感触が生々しく伝わる!


 「Cプランは、他の現場から応援として1000人の追加戦力を投入するプランです」


 「1000人も?だったらゴブリンと同じ戦力じゃないですか?」


 「ですが練度も士気もすごく低く、戦力としては正直私たち100人の方が高いくらいです。このままCプランでいっても犠牲者が多数でます。そもそも勝てるのかどうかも怪しいです」


 ちょっと遠くてハッキリとは見えないが、塹壕辺りにおっさんがわらわらいる。

 きっとあれが追加のおっさんたちなのだろう。


 指揮官のおっさんが苦虫を噛み潰した顔で言う。


 「……他の現場では3年以内の死亡率30%。しかし黒奈リーダの尽力によりこの現場では3年の間、死者数0でやってこれました。苦しい決断にはなりますが、ここで死んでも私たちは黒奈リーダーを恨む事はありません」


 「……決めました。プランC併用型のプランDを実行します」


 「プランD!? よ、よろしいのですか!? それだと黒奈リーダーの責任問題に!!」


 「……えへへっ……構いません。やっちゃいましょう!」


 「……しかし」


 「あのープランDは何するんですか?」


 「このプロジェクトの放棄です♡」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ