ゲームセンターごと異世界転移
「ブォオオオン!! ブォオオオオオオン!! ブッブッブッブオオオオオオン!!」
金髪でピアスをしているDQNがレーシングゲームの筐体に座って、唾を撒き散らして大声でエンジン音のモノマネをしている。
ここはゲームセンター。
気分が盛り上がってちょっとくらい奇声あげるくらい全然構わない。
だけど金くらい入れろよ?
何でお前、金も入れずに30分間座りっぱなしで奇声あげてんの?
お前の頭、下り最速だよ。
「はい、俺勝ったぁ! 俺勝ったしぃー!! はい、お前雑魚ー!!」
向こうに置いてるオンラインロボット対戦ゲームでは黒縁メガネのデブが相手に聞こえもしないのに高々と勝利宣言。
ガッツポーズをした際に筐体から落としてしまったであろうペットボトル飲料が床に水やりをしている。
なんでそのまんま放置してるんだよ?
店員の俺に何か言えよ。
お前の頭はボーダーブレイクかよ。
「何であの時無駄覚醒したの!? お前二等兵かよwwwww???」
「はぁ!? 俺のメイン垢は銀プレなんだけど!? 銅プレが調子に乗るなよ!?」
向こうの動物園――おっと失礼。
あっちの4人でやる対戦ゲームではお互いの自分の身分を自己紹介していた。
甲高い猿みたいな大きな叫び声のせいで他のお客さまのご迷惑にならないようにする為の処置として、あの筐体はフロアの一番端に設置していたのに。
まるで館内アナウンスかのように声が響き通っている。
頼むからゲームよりもお前らの頭を覚醒させてくれよ。
「はああああああああん!!??」
「ほおおおおおおおおん!!??」
あっちではガタイの良い野郎2人がメンチを切りながら今にもリアルファイトをしようとしている。
一人は灰皿を装備して、もう一方は酒ビン。
このゲームセンターは終日禁煙&飲酒禁止なんだけどなぁ。
何で灰皿と酒ビン持ってるんだろ……?
「……当店では快適なゲーム環境を作る為にどうか皆様のご協力を……――」
俺は周りの現実を受け入れることができず、ボソボソと独り言を呟いてしまう。
俺の名前は、ハッピー浩太。
……あっ、違う。これフロアーネーム……。
俺の名前は杉山浩太。
親父から引き継いだこのゲームセンターの経営者をしている。
今日で経営者として1週間目。
別に継ごうと思って継いだ訳じゃなかったが、就職に失敗して仕方なくこのゲームセンターを強引にまかされるようになった。
でもゲームは大好きだぞ?
大学時代は大手ゲームセンターで4年間アルバイトをしていたし、ゲームプログララマーになりたいと思って就職活動してたしな。
ただ、経営者になるつもりはなかっただけだ。
何故ならばこの俺自身も屑。
俺の前で堂々とUFOキャッチャーの景品口から景品を盗み取ろうとしているこの屑と同類だからだ。
そんな屑が経営者になっても、あっという間に店を潰してしまうのオチだ。
さて、このまま黙って景品を盗み取られる訳にはいかない。注意せねば。
「お客さま、いかがなさいましたか?」
疲れを顔に出さないよう気力を振り絞ってにっこりと接客スマイルをする。
さっさと帰れ。ここは猿の知能実験する場所じゃねーんだぞ?
「ああああん!? これ、全然とれねーぞ!? お前これ、詐欺だよ、詐欺!! 訴えるぞ!!」
金髪で短髪の不良がドン! ドン! と強くUFOキャッチャーを叩いた後、カッ! っと蹴る。
どうやらこいつにはこのUFOキャッチャーが太鼓を叩いて遊ぶゲームに見えるらしい。
お前の頭に『フルコンボだドン!』してやりたい。
「何その反抗的な目? こんな詐欺が社会的に許されると思ってんの!? これマジでツイッターだは~!!」
そもそもお前、1プレイ分の金も入れてねーじゃん。
機械叩いてるのも含めばっちりそこの防犯カメラに映ってるからな?
てかそこに『防犯カメラ作動中』ってデカデカ大きく注意書きしてるんだから機械叩くなよ。
あれか? 漢字が分からなかったか? 全部ひらがなにして書かなかった俺の落ち度か?
「はぁー……」
こいつに何を言っても話が通じる訳がない。
だけど店員である限りこいつと言葉を交わさないといけない。
徒労感に思わず深いため息をついてしまう。
俺が大学の進学をする為に上京するまで、このゲームセンターは清く健全な子供たちの笑顔あふれる素敵なゲームセンターだった。
ところが近くに全国の不良を押し込んだんじゃないかと思うくらい不良が集まる高校が設立されてしまったせいでこのゲームセンターはその高校の付属の保育園になってしまった。
親父はそんな悪い雰囲気を変えるために警察に相談しても『ゲーセンってそんなもんでしょ?』とか言われて全く取り合わなかったらしいし、高校の校長に相談しても全く効果なしだったようだ。
しかも出禁にしても平気でやってくるし、どんどん新しい屑が無限沸き。
だから親父は少しでもDQN層を減らそうと、新規客を呼び込む為に新しいゲーム筐体を置いたりしたのだが、それが裏目に出てしまい余計にDQNが増えてしまって世紀末ゲームセンターが完成してしまったのだ。
幸い親父は新しいゲーム筐体費をまかなう為の借金こそは作らなかったが、運営費はもうほとんど残っていない。
売り上げから推測するに後2、3ヶ月で底を尽きてしまう。
この経営危機を切り抜けるためには銀行とかで融資してもらって資金を調達するしか方法がないが……多分どの銀行も貸してくれないだろうなぁ。
「よろしい、ならば閉店だ。もうこんな奴らの保育なんてうんざりだ」
悪いな親父。
だけど今ならまだ傷は浅いんだ。
ゲーム筐体は全部売り払って土地と建物は賃貸で貸し出すか最悪駐車場にしておけばいくらか金が返って――……。
「えー? お店閉めちゃうのー? こんなに素敵なゲームセンターなのに~!」
「あ?」
振り返ると、JCくらいの白髪ツインテール少女がニコニコと喋りかけてきた。
その少女はスク水+魔法少女みたいな格好をしている。
オタク系にはにはとても詳しいが、こいつは一体何のキャラクターのコスプレなんだ?見たことないぞ?
「汚された所以外はちゃんと綺麗に掃除されてるし、この古いゲームも……うんうん、ちゃんとメンテされてる。うーん、ここは何だか温かい何かが感じるね~」
「褒めてくれてありがとよ。そんな事より、そんな抜きゲーのヒロインみたいなエロい格好でこんな所をうろついていたら、不良とエンカウントして3秒で合体だぞ? 変なトラブルになる前に出て行ってくれないか?」
「ふふ~ん! お店閉めちゃうんだったらさぁ~この女神、ナスク様が買おうじゃないか!そして君はナスク様の庇護下で店長を――……!」
「あーはいはい、分かったからそういうのは――……」
「大丈夫! それ以上言わなくても君の気持ちはちゃーんと伝わった! みんなが安心して楽しめる優しいゲームセンターを作りたいんだよね? なら行きましょう異世界へ! では移転しま~す」
ピカーン!
「わわ、何だ!? 何だ!?」
急に眩しく白い光が目の前を覆い、何も見えなくなる。
こいつ、一体何やったんだ!?
『契約完了を承認。異世界への移転作業を開始します』