ノーミス
ノーミス
鳳らと分かれた内海と川田は、広場の外を迂回するように山へと続く道に向かう。本当は山道を通って行くのがこれまでの行き方だったのだが、今もなおその山道が機能しているのかどうかは、彼らにも分からなかった。ただ、作られた道は目的地である頂上付近へと向かっている事は見ただけで理解できていたため、その道を上って行くことにしたのだった。
「なかなか、急な坂だこと……」
予想以上な急斜面を一歩一歩、ゆっくりと踏みしめて昇っていく。舗装されていない為、滑りやすく、自らの足で登るには危険な道でもあった。
「全く、山をこんなんにしやがって……ってか、酷い匂いだな」
顔をしかめて、片手で鼻をつまむ。そんな川田の言葉を聞くまでは、内海は匂いに気が付かなかったようだった。
疲れた素振りを見せず、しかしゆっくりと二人は登っていく。そんなとき、内海は下の方から大きなエンジン音が響いてきている事に気が付いた。
「川田君、隠れるよ!」
強引に腕を引き、木々の間に引きずり込む。二人が飛び込むのとほぼ同時に、下の方からいくつもの重機が隊列を組んで登ってくるのが見えていた。
二人は完全にそれらが通り過ぎるまで、木々に影に身をひそめる。その時二人はほぼ同時に、ある事に気が付く。砂埃を上げながらそれらは山の陰に消えていく。完全に見えなくなったのを確認したのち、また山を登りだす。
「あの重機の事なんだけど……」
「所属が一切書いてなかった、か?」
「そう」
本来ならばどこかにペイントされているであろう、所属を示す文字がどこにもなかったのだ。全体を黄色一色だけで塗りつぶされたそれらは、一層、無機質的な強さを放っていた。
「とりあえず、進もうか。俺の見立てが正しければ、もうすぐで祠につくはず」
そう言って、川田は重機が消えて行った山の向こう側を指す。内海は再度下から重機が上がってこないか耳をそばだてるが、そんな気配が無い事に安堵していた。
そうこうしているうちに山の頂上へとたどり着く。人がいると思い、木々の合間に隠れていた二人だったが、人どころか、重機すらそこに存在しなかった。
「さっきの重機はどこに行ったんだ? ここから先に道は続いてはいないようだし……」
パッと見渡す限り、一つの小さな祠と、そのそばには大きく口を開けた洞窟があるのが分かる。
「良かった。祠は無事だったみたいだ」
気が抜けつつある川田の言葉は、内海には届いていなかった。彼女の頭の中では、あれだけの重機がどこへ消えたのかを考えていたのだった。
「おぉい。ここだよ。この辺り、と言っても掘り返す道具を持ってきちゃいねぇや」
内海は川田の近くへと歩いて行く。彼は祠の裏側にいるのだが、確かに。祠の存在が無くなれば、どこに埋めたのかが分からなくなっていただろう。
「道具、持ってきていなかったの?」
呆れた、と内海はため息をつく。ここまで来て無駄足だったかと、肩を落としていた時、川田は一つ、提案をする。
「なぁ、あいつらの重機をちょっと借りようぜ」
突拍子もない提案だったが、再び山を登るリスクと面倒さを考え、思わず頷いてしまっていた。