本調子
本調子
誰もいない今の内に、手当たり次第に書類に目を通していく。元々整理されていた様子は無い机の為、どれが重要な書類なのかが分からない。適当に目を通していると、外から戻ってくる足音がしている事に、二人とも気が付いた。
「外の自販機のしかありませんでしたが……」
「いえいえ、全然大丈夫です」
扉が開くよりも先に、二人はソファーに戻っていた。作業員の彼は何事も無かったのかのように、缶コーヒーを三つテーブルに置いた。
「申し遅れました。私は作業監督員の草加颯太です。よろしくお願いします」
「鳳翔也と――」
「川端沼子です。こちらこそよろしくお願いしますわ」
立ち上がり、軽く会釈する。彼の作業着は監督員だからだろうか、なかなかに綺麗な物で、今にして思えば他の作業員よりもかなり綺麗だったかもしれない。彼の身長は鳳と比較して特別低いのだが、そこはただ鳳の方が大きいだけだろう。
「では、さっそくですが。どういったご用件で来られました?」
両膝に両肘をつき、顔の前で両手を組んでいる。コーヒーには手を付けず、そのままテーブルの上に置かれていた。
「そうですね。まずはこちらでも確認しておりますが、改めて工事の内容をおうかがいしたいですね」
草加は分かりました、と呟くように言った後、最も奥の机へと向かうと一枚の書類を手に戻ってきた。
「こちらが今回の工事内容となっております」
二人は差し出された書類に目を通す。そこには山のほぼ頂上から、下へと掘り進める趣旨の内容が記載されていた。いったい何故、何をするためにそんなところから掘り進めているのか。新たな疑問も生まれたが、それこそ尋ねても良い物なのか不安になっていた。
「はぁ、全く。これではわかりにくいですわ。いったい、何を作っているのか。書類では無く、貴方様の口から直接教えていただきたいものですわ」
片手で口を押え、草加はしばらく悩む。そしてチラリと時計を確認すると、口を開いた。
「分かりました。では説明するよりも、ご案内いたしましょう。今回は見学を特別に許可いたします」
思いもがけぬ提案に、二人は思わず目を合わせてしまっていた。