決定的成功
決定的成功
厳つい作業員たちに囲まれて、転んだ二人は起き上がる。服についた砂を払うと、川端は彼らの衣服に目をつけた。
「お前たち、ここは立ち入り禁止だぞ。どうやって中に入った!」
ものすごい剣幕で捲し立てる正面の男も含め、彼ら全員の作業着には同じエンブレムが縫い付けられている。そのエンブレムは五芒星に、目のマークが中央に入れられたものだった。
「おい、聞いているのか。どうやって中に入ったのか、って聞いてんだよ!」
ただ立ち入り禁止区域に入ったからではない。これほどの剣幕で怒るのも、何かもっと別の理由があるからだ。それが何かまでは分からないが、その証拠に、川端は目の奥に恐怖じみた色を見た気がしていた。
「あぁ、えっと。俺たちは――」
「市の依頼で、ここの作業の進展具合を調査するよう言い使わされた者ですわ。先ほどはついつい、うちの足が縺れて転んでしまいましたの」
遮るように、川端は言うがかなり無理矢理な嘘だ。彼らは互いに見つめ合い、どうした物かと話し合っている。しばらく相談していた後、ようやく彼らは二人に話しかけた。
「では、所属を証明する物を見せていただきたい。我々にはそれの他に、あなた方を信用する手段がありませんので」
じっとりとした汗が流れる。当然二人はそんなものなど持ち合わせていなかった。はずだった。
「どうぞ」
川端が差し出した二枚のカード。それらを受け取りしばらく見比べた後、彼女へと返却した。
「先ほどの御無礼をお許しください。何せこちらも秘密の作業だとピリピリしておりまして。取りあえず、こちらへどうぞ。お茶くらいお出しします。おら、お前たちは作業に戻れ」
彼らは目の前の男を残して、持ち場へと戻って行く。
「川端、一体何をみせたんだ?」
聞こえないように、そっと耳打ちをすると、彼女は先ほどのカードの一枚を鳳に差し出した。
「これは……」
一枚のプラスチックのカードには、全くの見ず知らずの男の顔写真に名前が書かれている。
「さっきの人たちから二枚くすねて、それをシールで加工して渡したの。どう、私の手品スキルは?」
得意げな彼女に感服し、その手際の良さに呆れにも似た何かを感じていた。伊達に手品師を続けている訳じゃ無い、と。改めて彼女の凄さを体感したのだった。
「足元に気を付けてください。そのブロックは傾きますので」
コンクリートブロックで造られた階段をゆっくり上っていく。金属の扉を開き、中へと招き入れる。真っ白なプレハブの内側は案外広い物で、二十から三十ほどの事務机に、ホワイトボードで区切られた一角には、ローテーブルを一組のソファーが向い合せで置かれていた。
「こちらへどうぞ。少々お待ちください」
彼はそう言って、ソファーに座るように促すと入ってきた扉を出て行ってしまった。
「鳳、気づいた? 普通は工事の内容とか書いてある看板なんだけど、それが出ていないの」
「つまり、人には言えないようなことをしている。ってことかな?」
「おそらく、ね」
部屋の中をぐるりと見回し、誰もいない事を確認する。そして、二人はおもむろに立ち上がると、最も近い机から調べ始めた。