致命的失敗
致命的失敗
昔々のあの時は、山に道なんてなかった。正確には頂にある祠まで続く、歩行者用の山道だけだった。それは草木に覆われ、当然、遠くからはもちろん。山の近くから見たとしても、外からではどこに道があるのか分からないほどだった。
だが、今現在は違う。山は大きく切り開かれ、遠くからでも見えていた山肌が頂上付近まで伸びている。
「ここまで山をぶち壊すか……」
山のふもとの広場には立ち入り禁止の看板と、大きな重機が並んでいる。それらは小さな山をどうこうするには大きすぎ、過剰な数である事が見て取れた。四人から重機を挟んだ反対側に、一軒のプレハブ小屋が立っている。完全に人気のない今なら、何か見つけられるかもしれない。
「なぁ。あの小屋を見てみない? 何か見つかるかもしれない」
「待ちなさい。タイムカプセルを取りに行くことと関係ないでしょう?」
いつの間にか目的とは違う好奇心に包まれていた鳳は、ついつい、何をしているのかを知ることに興味を示してしまっていた。
「そう、だな。悪い……」
「いや、いいんじゃないかな?」
川田は鳳の提案を否定せず、一つの作戦を提案し始める。
「簡単な話さ。鳳はこっちで気を引いて、その間に俺らが取りに行く。余裕だよな?」
「いけるいける。まぁ、なんかあっても謝っとけば何とかなるでしょう」
「だったら、うちも鳳についてくわ」
完全に一人でいくものだと思っていた鳳は、思わず驚きの声を上げた。
「いいじゃない。一人くらい変わんないでしょ?」
呆れた様子で、川田は分かったと頷く。内海は口を開きかけたが、鳳に見られたくなかったのか慌てて口を噤んだ。
「じゃぁ、また何かあれば携帯で……いや、ラインにしよう」
分かった、と鳳は背を向け山に向かう二人を見送った後、立ち入り禁止の樺bbがつけられたフェンスを軽々と飛び越える。
「うちら、高校に大学と同じ学校だったわね」
並べられた重機の陰に隠れながら、小屋を目指す。思いで話なんてしている場合ではないのだが、川端は気にせず続ける。
「高校はそれなりに仲良かったのに、学部は違ったと言え全然話してくれなかったのは悲しかったわ」
どこに、どんな人間がいるのか分からないその場所で、鳳と川端との緊張の差はかなり激しかった。どうしてこいつはこんなにも気楽なのだろうと、苛立ちにも似た疑問を抱えていた。
不意に、前を進んでいた鳳は誰かの話声を耳にする。どこにいるのか分からない。だが確かに、誰かの声が聞こえたのだった。さっと身を隠し、様子を伺う。つもりだった。
全く声に気が付かなかった川端は、突然止まった鳳に強く激突してしまう。勢い余った二人は、無様な姿で重機の陰から飛び出していた。
「誰だ!」
転倒する二人に気が付いた作業員の一人が声を荒げる。すぐさま彼の怒声に気が付いた他の作業員が、二人を囲んでいた。