埋葬
埋葬
紅梅山。
神功市の北に唯一存在する山であり、平野続きのその市からならどこからでも見える。そのため、神功市のランドマークとして親しまれていたのは、既に昔の話だった。発展し、成長し行くこの街は、山よりも高いビルが立ち並び、人は山の存在を忘れてしまったのかのようだった。
「山を開発するためなのか、はたまた何か資源でも出て来たのか。俺は何も知らない。ただ言えるのは、市が山の事を見捨てたのは確かだってこと」
三人は内海が車をとめた駐車場へと向かう。鍵を開けようと内海がバッグに手を伸ばしたとき、誰かが彼女の車にもたれかかっているのが見えた。
「まってたわ」
「川端!」
川田は思わず声を上げ、駆け寄る。と言うのも、その待っていた人物は中学の時、川田にとって忘れがたい思い出の人物だったからだ。
「沼子ちゃん。どうしたの?」
動きやすいジャージに身を包んだ、美しい女性が腕を組んだ状態で川田を見つめる。
「どうしたの。は、こっちの台詞ね。いったい、どこへ行こうとしていたのかしら?」
「どこって、山だよ山。タイムカプセルを取りに行くんだよ」
強い口調で川田は捲し立てる。そんな彼に一切物怖じすることなく、冷たい目線を送っていた。
「タイムカプセルを取りに行くくらい、うちも入れてほしいわね。たとえ山の管理人じゃないとしても何も言わないから、いいでしょう?」
「おい!」
今にも殴りかかろうとするほどの川田を抑えこむ。どう考えても悪いのは川端だが、彼女に対して何かをいう事ができなかった。
「落ち着けよ、弘樹。一人くらい増えたって何にも変わらないだろう?」
どうにか川田をなだめ、鳳は内海の車に乗り込む。助手席に座った川田は何も言ってはいないが、なんとなくイライラしている事は理解できていた。
「で、川田君。紅梅山のどこに行けばいいの?」
軽くナビをいじりながら、内海は尋ねる。川田は川端の事を気にしつつも、的確に場所を伝えていく。
「鳳君って外科医になったんだっけ?」
「ま、まぁな……」
鳳に顔を近づけ優しく問いかける。かつての川端もなかなかの美人だったが、成長した今はさらに磨きがかかっていた。
「川端は何を?」
車は大通りへと滑り込み、流れに合わせて進んでいく。相も変わらず多い車が、行く手を塞ぎ、邪魔をする。
「うちは手品師よ。たまたまいろいろあって、地元じゃ有名なプロの手品師よ」
鳳は先ほどの手品もさることながら、昔からもはや魔法の域に達するほどうまかったのを思い出していた。
「まぁ、川端ほどの腕前ならそれで食っていけるのにも納得できるよ」
「うれしい、ありがとう!」
車は急に曲がり、鳳は強く窓に頭を打ち付ける。この時、川田はともかく、内海までイラついている事に初めて気が付いた。
「う、内海。運転が荒すぎるって……」
「うるさいな。乗せてあげてるだけでも感謝しなさい!」
「なぁにぃ、楓ちゃん。うちらに妬いてんのぉ?」
内海の舌打ちが車内に響き渡る。川田の方は無言で膝を小刻みにゆすりながら、携帯をいじっていた。
そうこうしているうちに、ビルの陰から紅梅山が姿を現す。街と言う海にぽつりと浮かぶ深緑の山、だったのだがその緑には、遠くからでもわかるような肌色の切れ込みが入っていた。
「標高にして200メートルちょい。その頂上には小さな祠がある。その祠のすぐ近くがタイムカプセルを埋めた場所だ。けど、それなりに深い場所に埋めていたんだ。掘り起こすのに時間がかかるだろうな」
山のすぐ下の有料駐車場に車を止め、四人は見上げる。太陽はほとんど真上にあるにもかかわらず、何故か禍々しさを感じていた。