級友
級友
ホテルのホールを貸し切って、同窓会と言う名のパーティは開かれていた。各々が各々の再開を喜び、なつかしみ。過去と今とを行ったり来たりしている。
「おっす、鳳。美味そうな物はあるか?」
並べられた料理を見てどれにしようか迷っていた時、軽く背中を叩かれる。その者は中には何もない皿に、近くにあった薄いステーキをどっさりと乗せた。
「あれ、お前って誰?」
日に焼け浅黒い肌に、鍛えているのであろう筋肉。こんな奴が同じクラスにいたかな、と思う鳳だったが、すぐにまた思い出すことになる。
「誰って、お前と同じ落ちこぼれだった奴、で思い出すか?」
「弘樹か!」
「そう」
忘れるはずが無い。鳳が中学の時もっとも仲が良かったのが彼だった。あまりにも外見は変わってしまっているものの、その雰囲気は変わらず。横暴でありながら他者を思いやれる青年へと成長していた。
「まっさか。俺と同じくらい程度の成績だった奴が全国でもトップクラスの高校に行くなんて思いもしなかったぞ。俺はうれしい。うれしいぞ!」
「うるさいって」
泣く振りをしながら肩にかけようとする弘樹の手を、軽やかにかわす。今度こそ、ともう一度手を上げ近づこうとした時、弘樹はいつの間にかいた内海に服の襟をつかまれていた。
「川田くーん、いい大人が暴れるなって。私が相手になろうか?」
「いや、やめておく。降参降参。現役ゴリラに勝てる訳ないだろ」
箸を持つ右手を上げ、降参を宣言する。鳳は先ほどまで気づかなかったが、内海は女性としてはだいぶ力が有るように見て取れた。
抑え込まれ、締め付けられる内海をなだめていると、突然、部屋の灯りが全て消え去る。そしてホールの中央に一つだけスポットライトが当てられ、大きな音楽が流れ始めた。
「あ、沼子ちゃんだよ!」
一人のドレスに身を包んだ女性が、ライトによって闇に浮かび上がる。そして素早く両手を広げると、部屋全体に明かりが灯り、同時に全てのテーブルクロスが白いハトへと変わり飛び上がった。
手品特有の音楽が盛大にかかり、広げた両手を頭の上で一回だけ拍手する。会場を舞うハトは全て風船へと変わり、ふわふわと天井に引っかかる。彼女が頭上の手を顔の横まで下ろすと、中指と親指だけを合わせる。
ジェスチャーで静かにするように促した彼女は、小さく、指を鳴らした。するとすべての風船は破裂し、中の紙吹雪がホール中を舞い落ちだした。彼女は舞い落ちる一枚の紙吹雪を片手でつまむと、それをマイクへと変えていた。
「紳士、淑女となられた皆様。よくぞお越しいただきました。ただいまより、神功中学校タイムカプセル担当より大切なお話があります」
彼女は手元のマイクをこちらへと差し出す。先ほどまで近くにいたはずの川田は、それを受け取る。
「はいはぁい、タイムカプセル担当の川田です。えっと、一応タイムカプセルを埋めた紅梅山の管理者でもありますが、これから一部の人間だけで掘り返しに行きます。そして翌日、つまり明日ですね。皆さんの前でタイムカプセルを開けようと考えております。ので、明日は十一時までに学校に集合ということでよろしくお願いします。では、マイクは川端さんにお返しします」
川田は軽く一礼し、マイクを川端に渡す。そして、人の間をすり抜けて鳳と内海のところに戻ってきた。川田は相変わらず笑顔で入る物の、人前で話した恥ずかしさと、彼が何か不安のような物を感じているように見えた。
「おい弘樹、大丈夫か?」
「お、おう。ちょっと緊張したけどな。さぁ、食べようぜ」
先ほどの川田の様子は気のせいではないはずだ。彼が、自分たちに心配をかけさせまいと無理しているのではないか、と鳳は不穏に感じていた。