目線
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金属と靴底がぶつかる音を高らかに奏でながら、二人は階段を下り続けていた。
「川田君、下見て。もう地面が見えている」
二人の位置からではまだまだ小さいが、多くの重機がすり鉢状に掘り進められた穴で作業しているのが分かる。ただ、その中でも実際に動いている重機はほとんどなく、作業員らしい人影も、ほとんど中央部に集まってきていた。
「これ、ミーティング中だとかか?」
「分かんないけど、今の内なら近づけるかもしれない」
「そうだな、でも下からのにも気を付けないとな」
一切スピードを緩めることなく、会話しながら二人は降りていく。徐々に近づくつれ川端は穴の中央部に、つい先ほどまで見ていた色の服を着た者が二人いる事に気が付いた。
「内海、真ん中のところだ。あれ、鳳と川端じゃないのか?」
グルグルと螺旋階段を下りながら、内海はチラリと下を確認する。すると確かに、鳳と川端がそこにいる事に気が付いた。
「ほんとだ! 何やってんだろう……」
階段を全て降り切った二人は、多少息は荒いものの大した疲れを見せずに、並ぶ重機の陰に身をひそめた。
「あいつら、プレハブ小屋に向かったんじゃなかったのかよ」
「静かに」
二人が隠れる重機の反対側を、二人の作業員が歩いて行く。
「まぁ、何かあったんでしょ。後できっちり問い詰めればいいじゃん。沢山あるけど、一体どれを使うの? さすがにこれは運搬用で、掘り返せないよね……」
二人は再び重機の陰からそっと顔をのぞかせる。その時、集まっていた所を中心に、黒色の棘が何人もの作業員を串刺しにしていた。
「助けなきゃ!」
駈け出そうとする内海を掴み、重機の陰に引き入れる。
「このまま無暗に飛び出しても危ないだけだぞ!」
「じゃぁ、何。どうするの?」
強い口調で内海は問いかける。
「こいつを使おう」
そう言って親指で刺したのが、二人を隠していた重機。ブルドーザーだった。
「動かせる?」
幸いなことに、鍵はもちろん。エンジンすらかかったままで、いつでも動かせる状態だった。さらに幸運な事に、普段川端が使っていたのと完全に同型であり、各種レバーなど全て同じ配置になっていた。
「おっけい。これならいつも使っているのと同じ奴やつだ。すぐにでも動かせる」
中央の方から、逃げ惑う従業員の波が押し寄せる。そんな人々の合間を上手く抜けて、二人は、鳳たちを探す。これほどの中を探すには苦労するかに思われたが、意外とすぐに見つける事ができた。と言うのも、倒れる作業員の中に立つ残された三つの人影、そのうちの二つが鳳たちだったのである。
「あれ、鳳君だけど、後ろのは何?」
文字通りの黒い人影が、奇妙な動きで三人を追う。必死に逃げる彼らとは同じくらいのスピードであり、距離こそは縮まってはいないもの、既に彼らの体力は無くなってきていた。
「鳳たちの前につける。一旦止めるから、追いつかれる前に一気にこれに引き入れてくれ」
内海は扉に手をかけ、いつでも開けられるように準備する。少しでも早く助けようと、速度を上げた時、逃げる三人の前にもう一つの人影が沸き上がっていた。
「掴まれ!」
急ブレーキと共に前の人影をひく。人を引いたのと何ら変わらない衝撃が、中の二人を襲った。
「鳳、川端、早く乗れ! エレベータに間に合わなくなるぞ!」
三人が乗るのを確認すると、動き出したエレベータに向かって一気に加速した。