数秒前
数秒前
露天掘りでもしているのかのような、段階的なすり鉢状の穴は、それぞれの穴をそれぞれの重機が少しづつ掘り進めている。
「一体、何を掘っているのです?」
鳳は草加に尋ねる。三人は重機が通れるように作られた坂を下っていく。
「ここはかつて資源の採取が行われた場所です。我々はここを再利用し、都市ガスを供給するための拠点にしようと考えております。そのために今は、施設建設のため掘り進めている所です」
二人の正面、穴を挟んだ反対側に、金属製の壁のトンネルが二方向に伸びているのが分かる。奥に灯りは無いようで、先がどうなっているのかまでは分からない。
下の方から一人の作業員が歩いてくる。その男はチラリと二人を見た後、不可解そうな表情はしたものの、特に気にせず草加に向かって口を開いた。
「監督、間もなく予定深度に到達します」
「そうか、わかった。ありがとう」
草加は報告した作業員に礼を言うと、二人に向き直る。
「どうですか。間もなく予定深度に到達するそうです。折角ですので、近くで見に行きませんか?」
思いがけない提案に、二人は思わず顔を見合わせる。笑顔で進める草加だったが、その表情は何と言うのか、どこか自然的では無いようであった。中央の最も深い位置では、数人の作業員がこちらを見ながら待っている。
「おーい。監督、早くきてください!」
「おう、そのまま待ってろ! さぁ、お二人とも、こちらへどうぞ」
草加は二人についてくるよう促し、先に歩き始める。できればこの場よりも先に進みたくなかった二人だったが、先ほど報告に来た作業員が背後から早く行くよう急かしてくる。「それにしても運がいいですね。これだけの規模の施設の最も深い位置に、一般人として初めて立てるのですから」
背後の男は軽い口調で話しかけてくる。しかしエレベータで降下している時から感じていた、得も言われようのない不安感は一体どこからきているのだろうか。それは滅多にないほど地下深くに潜ったのが原因だろうと、鳳自身勝手に決めつけていた。だが今、こうして中央部に向かうにつれて、それが深さのせいではなく別の要因がそうさせている事に気が付き始めていた。
「酷い匂いだ……」
ハンカチで口と鼻を押さえる。中央に向かって行くにつれ徐々に強くなっていくその匂いに、川端も気が付いたらしく。目に涙をいっぱいに溜めながら、同じようにハンカチで口元を覆っていた。
決して悪い香りではないのだ。甘く、まるで粉っぽいような香りであり、しかしそれの強さが二人の体は匂いを拒絶していた。
「こ、この匂いは一体……」
強い吐き気を抑え込み、涙ながらに問いかける。作業員は特に匂いについては気にしていないようで、心配そうにしていた。
「僕にもわかりませんねぇ。ずっとここで働いているため、匂いについては慣れてしまいました」
そうこうしているうちに、草加と作業員を含めた四人は中央部へとたどり着く。
「さぁ、最後の一堀りです。おい、始めてくれ」
多くの作業員と、二人が見守る中、重機のショベルは一度高々と持ち上げられる。そして深く、深く地面を抉り取った。