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一日一度

_一日に一度、君に○○をする_

今日も、雨だ。

まだ梅雨でもないというのに、えらく雨雲が張り切っている。

誰かあの雨雲にまだ5月だぞーって言ってきてくれないかな。

……別に、雨は嫌いじゃない、むしろ好き。

私が一人の時に、雨音は一番よく響いてくれる。

だから、雨音がよく響いている限り、私は独りでいられるから。

だけど、雨が降っているせいで図書室に人が来るのは嫌だ。

多分、外は雨が降ってるから暇のつぶせる場所を探してきたんだと思うけど。

だからって図書室で騒ぎ立てるのはやめて欲しい。

私は一人では居られないと言われているみたいで、気分が悪い。

少し憂鬱とした気分で窓から外を見る。

まるで、私の心を映したみたいに暗く沈んだ低い空。

明日は、晴れるかな?

特に何もなく、漠然とそう思った。

________________________________________


翌日も、私の心の声は聞こえなかったのか雨は降り続けた。

憂鬱な、昨日と同じ空模様。だけど、図書室は昨日よりうるさかった。

何が面白いのか人体の構造が載っている本を指さしてゲラゲラと笑っている。

こんなにうるさくては本も読めない。

ため息を一つついて、明日からはほかの場所で本を読むことにした。

幸い、この学校は静かな場所が多い。

雨と人目がしのげて、静かな場所なら……特別棟3階がいい感じかな。

窓を眺めてそう思っていた。

――――――バンッ!

突然響いた音に驚き少しだけ目を見開く。

今のは、本を閉じた音?

誰だろうと思って少し視線を巡らせたけど、それらしき人は見えない。


「ここは図書室だ、静かにできないなら出て行ってくれないか」


それほど大きくはないけれど、不思議と通る声を発した人がいた。

静かでもよく聞こえる声だ。

私の真後ろにいる男の人が発したみたい。

そんな彼の声に圧されたのかほとんどの生徒が出て行った。

残った一部の生徒も声をひそめるか、黙っている。

それに満足したのか彼はまた本を読み始めた。

私には無理だ、言おうなんて思いもしなかった。

声もあんなに通らないし、言ったところで誰にも聞こえないだろう。

静かでおとなしいとよく言われるけど、褒め言葉ではないのは私が一番知っている。

すごいなあ、と心底思って、少しの間、彼を見つめる。

すぐ本に目を戻すつもりだったけど、彼の行動に興味を惹かれた。

いきなり難しそうな顔をしたかと思うと本を閉じたのだ。

彼の今読んでいたのは、最近若者に人気のラノベと呼ばれるものだ。

それもいま一番人気の本の最新刊。密かに私が読みたかった本だ。

それをため息とともに本棚に戻そうとする彼。

今見逃したら多分何週間も読めないままだろう。

そう思った私は今読んでいる本を急いで本棚に戻し、彼の後ろにスタンバイする。

彼が本を棚に置き背を向けた瞬間に本を手に取る。

やった、やっと読める。

そう思うと少しだけ頬が緩む。今月は金欠だから図書室にあってよかった。

今すぐにでも本を開いて読みたい、だけど家で読んだほうがいい。

昼休みももうすぐ終わるし、家の方が落ち着く。

私は楽しみを後にとっておく派だしね。


昼休みが終わったあと仮病を使って学校を早退した。

勉強なんてどうでもいい、今はこの本を読みたいから。

制服を適当に脱ぎ散らかしてベッドに寝ころぶ。

本を開き、整然と大量に並んだ文字を目で追いかける。

主人公が傷つき、倒れたところに無意識に声をかけてしまったり。

修羅場でニヤニヤしたり、笑ったりしながら物語に引き込まれていった。

約3時間で読み終わり、読了後の余韻に浸っているうちに寝てしまった。

________________________________________


それにしても、昨日彼は何を思っていたんだろう。

あの本は本屋ではほとんど売り切れている超人気作だ。

それを手放すのは少し気になる。

多分、みんなが騒いでいるからどんなのか気になって読んでみたけど、

自分に合わなかっただけだと思う。

ほかの人と感性が違う人って少ないわけじゃないし。

それでも、本を戻す前に見せた難しそうな顔に興味を惹かれた。

だから、今日も図書室に来てしまった。

図書室を見回してみると昨日と同じ場所で本を読んでいる彼がいた。

今日は少し前に流行った恋愛ものを読んでいるみたい。

あれは読んだことがある、昨日のラノベとは全然違う文体だ。

自分の好みがよくわからないうちは面白そうだと思ったものを読むものだけど。

彼もそんな感じなのかな。

また昨日と同じように難しそうな顔をしたあと本を戻して出て行く彼を見てそう思った。

________________________________________


これで、10日目。

また同じように本を戻そうとした彼を見て、興味を惹かれる。

いつも流行りの本ばかりだったから人と話を合わせたいから読んでいるのかと思った。

でも、今日は話のネタにするには古すぎる本を読んでいた。

なんでだろう。とても気になった、すごく気になった。

なんで読めない本を読もうとするのか、難しそうな顔の意味はなんなのか。

聞いてみなくちゃ、これじゃあ夜しか眠れない。


「……あのぅ」

「うん? この本でも読みたいのかい?」


自分の持ってる本を示して聞いてくる。

いえ、それは読んだことあるのでいりません。


「いえ……そうじゃなくて」

「何か用かな? 話をするなら図書室出てから聞くけど」

「は、い……少しだけで……いいです、から……」


ここでは話をしないと言わんばかりに私を制してくる。

人と話すのは、苦手。自分の思ったことを言葉にするのは難しい。

だから、この人みたいにそんな私を特に気にしないで接してくれる人はありがたい。

図書室から出て廊下の少し奥のあまり人目のない場所に連れて行かれる。


「で、なにかな?」

「あ、え……っと。すこし…気になることが……」

「あー、見てたのかい。あれだよね、読みもしない本を取るなって」

「す、少し……違い、ます」

「ん、ほかになんかやってたかい?」

「えと、気に……なったんです……なんで、かな……って……」

「つまり、俺が読みもしない本をとっては戻しする理由のこと?」


はい、その通りです。

などというのにも私は詰まってしまう。

だから、こういう時は素直に首を縦に振る。


「あー、うん。別に対した理由はないんだけどね」

「だけど……?」

「つまり、本を読みたいんだけどね。

でも物語の山場ってあるでしょ、そこでどーしても気分が悪くなるんだ」


物語の山場といえば、シリアスと呼ばれることが多い。

その先の物語につなげるためにも、深みを出すためにもシリアスは必要になる。

しかし、そのシリアスに耐え切れない、というわけだ。

いない、とは言い切れないけど、割と珍しい気がする。

シリアスのない小説なんて生粋のコメディーぐらいしかない。


「え、と……コメディー、とかは……?」

「うん、そういうのってさ、主人公が馬鹿やらかすからさ。それも嫌になっちゃうんだ」


えー、そんなこと言ったらどんな小説も読めないよ。

本は本でも絵本を読みたいわけじゃないだろうし。

本が読みたいならそれぐらいは我慢して……あ。


「エッセイとかの、小説じゃないジャンルは、どうでしょう……?」

「ん? どういうことだい?」

「えと、小説ではない本はたくさんあるわけです。例えばハウツー本だとか……」

「ああ、なるほど。そういえばたくさんあるね」

「ほかにも……名言集や、そういった本として見られるものは多いです。

 広義的に小説は虚構、つまりフィクションの物語ということで定義されています。

 なので、小説を読みたい、というわけでないならそういった選択もありだと思います」

「なるほど、ありがとう。今度探してみるよ!」

「あ、はぃ……がんばって、ください……」


あぅ、また私の悪癖が。

どうしても本に関する話は饒舌になってしまう。

いつもはつっかえながらでしか喋れないのに。

ああ、もう。また恥ずかしい思いをしてしまった。

そんな私を気にとめず、彼は去っていってしまった。

図書室によっていくわけじゃないみたい。

本当に本が読みたいのか、少し疑問に思ってしまった。

________________________________________


数日もすると、ニコニコしながら本を読んでいる彼を図書室で見かけた。

今日は、心理学の本を読んでるみたい、昨日はスポーツ雑誌だったような。

それにしても、平凡顔の彼でも笑ってるとキラキラして見えるなぁ。

私はあんまり本を読んでいる時の表情を見られるのは好きではない。

よくニヤニヤとしているので気持ち悪いと言われることが多いからだ。

彼のニコニコと私のニヤニヤの間には大きな差があることは言うまでもない。

なぜ私はニコニコできないのか……密かにぐぬぬ顔をする。

どうせ前髪に隠れて見えやしないし。


「……ねぇ」

「ひぴゃあっ!」


いきなり後ろから声をかけられて変な声が出てしまった。

いつも声なんか出してないから大きな声は出なかったと思うんだけど、静かな図書室の中では割と聞こえてしまったみたいで近くの人がチラチラとこちらを見てきた。

うう、恥ずかしいなあ。


「えーと、ごめんね? 少しお礼をしたいんだけど」

「とり、あえず……出ましょう……」

「あ、うん」


恥ずかしさに耐えきれなかった私はスタスタと図書室を出る。

彼の答えは聞こえなかったけどついて来なくても別に構わない。

数日前と同じ場所で前とは逆の立ち位置になる。


「えと、ごめんね? 驚かせるつもりはなかったんだけど」

「はい……分かりました、から……御用は……なんでしょう、か……?」

「お礼が言いたくてね、君のおかげで面白い本がたくさん見つかったよ」

「どういたしまして……」

「ごめんね、それだけのために驚かせちゃって」


別に気にはしていない、いっときの恥は書き捨てるものだし。

そういえば、気になっていたことがあったんだった。

ちょうどいいし、ついでにここで聞いちゃおう。


「少し、聞いて……いいですか……?」

「ん? なにをかな」

「私に、聞くまで……手に、取らなかったの…ですか……?」

「あー、ハウツー本とかの今読んでいる本を、かな?」


その通りです。と言う代わりに頷く。

口数少なくてもわかってくれる人はありがたい。

こういう人が周りに多ければ……何も変わらなかったね。


「恥ずかしいことにね、周りに読書歴の深い友人がいなかったんだ。

 最初にすすめられたラノベ、だっけ? それを読んでね、最初面白いなと思ったんだ。

 だけど、最後まで読めなかったからさ、何か最後まで読みたいと思ってね。

だけど周りの友人からすすめられるものはやっぱり読めない。

そこで君に言われてやっと思いついたというわけだよ」


ちょっといらない部分も足りない部分もあったけど、納得した。

いつも読んでいたのが流行りの小説だったのもそれが理由。

字がたくさん並んでいるだけでも嫌だという人は多い。

その上ハウツー本なんかだと専門的な知識や言葉も入ってくる。

何となく難しく見えてしまって手を出さない人も多いのだろう。


「でもやっぱり小説も読みたいね。何かいいのないかな?」

「……便利屋、では…ありません……けど、本の相談なら……いいです」

「ありがとう、すごく助かるよ」

「来て、ください……」


とりあえずはシリアスが読めないのをなんとかしないと小説は読めないだろう。

そのためには何をすればいいだろうか。

まずどんなところが読めないのかを知ってからのほうがいいかな。

そう思った私はもう一度図書室に彼を連れて行った。


「これ……読んで、ましたよね……?」

「うん、最初にすすめられた本だけど」

「どこ、が……読めない、ですか……?」

「えっと、ここらへんかな」


彼が指し示したのはとてもベタな主人公の葛藤シーン。

仲間に裏切られて一人でベッドに潜り込むというものだ。

実際は敵に操られているのだが、知ってても割と重いシーンではある。


「これ、は……仲間が、敵……に」

「え、えっと……? もう少し詳しく」

「操られて、ます」

「ああ、なるほど。ってネタバレされても……」

「ここ、で……主人公は、どうやって……助けた、でしょうか……?」

「うん? 敵を倒しに行ったんじゃないのかい?」

「正解は、この本の……中に……」


すこしニヤリとしながら言ってみる。あ、前髪邪魔で見えないね。

ちょっと迂闊だったけど、別に表情なしでも煽りは有効だったみたい。

とても気になってウズウズし出したようで、読みたそうに本を見ている。


「はい……どう、ぞ」

「あ、ありがとう」

「本の楽しみ方は人それぞれです。から

もっと本を読めば貴方なりの楽しみもできると思います。

お手伝いならいつでもしますよ」


人に本の楽しみを知ってもらえるのが嬉しくてつい饒舌になってしまう。

彼ももっと本を好きになってくれるといいな。

________________________________________


あの日から、図書室に行くのは放課後になった。

彼と会うのが嫌だから、ではない。

むしろ彼と会うためなのだから。


「いつも時間ぴったりだね、なんでだい?」

「いろ、いろ……あるん、です……」


そう、あの日から彼と放課後に図書室で会う約束をしている。

理由はほかでもない、彼の読書を応援すること。

いろいろな本を紹介したり、読みにくい所ではあの日のように煽ったり。

最近では私が何も言わなくても全部読めるようになってきた。

そうなってくると、私は何もすることはない。

最近では、彼の顔を見つめることが多くなった。

いつまで、この空間を維持できるだろうかと考えることが多くなった。

明日にはもう無いかもしれないと思うと、苦しくて。

また、彼の顔を見つめてしまう。

――――まるで、

――――――まるで、


――――――――――――恋を、しているみたいに。



「あ、時間……です、よ……」

「ん、ああ。もうそんな時間かい」


それだけで、今日の放課後も終わる。

少し赤くなった顔は前髪に隠れて見えていないと思う。


「じゃあ、また明日」

「うん……また、明日……」


彼の言うまた明日、がとても嬉しくて、つい小さな笑みがこぼれる。

いろんな本を読んで、恋はよく知っていたつもりだった。

だけど、恋をしたことなんてなかった。

……これって、恋なのかな。

浮かれた軽い足取りを少し止めて、前をまっすぐ見る。

太陽はただ沈み続けるだけで何も言わなかった。

________________________________________


楽しければ楽しいほど、終わりは辛い。

それは当たり前のことだと思うし、何事にも終わりはある。

ただ、少し突然過ぎた。


「あー、もうそろそろ終わりにしようか」

「え……?」


いつものように、また明日と言ってくれると思っていた、放課後の終わり。

いつもとは、想像とは違う言葉に、頭の中が白く染まる。


「流石にずっとこうしているわけにもいかないしね。頃合いだと思うけど」

「いや、です……そんな」


考えも思いも何もかもがまとまらない。

ただ、自分の頭に浮かんだままの言葉を、口に出していた。

自分で何を言っているのかも理解できない。

彼が不思議そうな顔をしたのを見て、何かが喉につっかえる。


「どうしてだい? なにか逢いたい理由でもあるのかな?」

「……私が、あなたを……好きだから、です」


逢いたい理由、と言われて喉のつっかえがとれた。

出てきたのは、意図しない告白の言葉。

これ以上ないくらいにストレートで、勘違いしようもない。


「……ごめんね。無理、だよ」


それを彼は、悲しそうな顔で受け取り、答えを返してくれた。

返ってきたのは、否定の言葉。

何も、期待なんて持てない、完全な否定。

解っていたことのはずだ、わかりきっている。

いきなり告白して、それを受け入れてくれるなんて。

都合のいい展開があるわけがない。


「あ、えっと。その、なかないで」


そう言われてやっと自分の頬が濡れていることに気付いた。

恥ずかしくて、寂しくて、怖くて、うつむいてしまう。

うつむいたまま彼の手を取り図書室の外に連れ出した。

連れ出して、私だけ図書室の中に戻り扉を閉めて中から鍵も閉めた。

彼からの謝罪の言葉が聞こえたから、図書室の奥に逃げた。

私の初恋は、玉砕。自分でもはっきりと自覚してないうちから玉砕だ。

笑い話にも、ならない。

もうどうしようもなくて、図書室の隅でうずくまって泣いた。


いつまで泣いていただろう、多分少し寝ていたと思う。

もう、帰らないといけないよね。

いつまでもここにはいられない、そう思って顔を上げた。


「あ……」

「え……?」


彼が、目の前でしゃがんでいた。

まるで声をかけようとしているみたいに中途半端に手を上げている。

いろんな思いが入り混じった表情でこちらを見ている。


「なに、しに来たの……っ!」


もう、いい。期待してしまうから、優しくしないで。

そんな思いを込めて、突き放す。


「ごめんなさい!」


そんな私に対して彼がとった行動は、土下座。

何が何だか、わけがわからない。

訳のわからないまま、彼をまじまじと見つめる。


「えっと、すごく、言いにくいんだけど……」

「何……? 訳が、わからない……」

「その、僕も……君が好きなんです」


土下座の体勢のまま、言われた言葉。


「なんで……? なんで、今……?」

「一回振っておいて、今更って思うかもだけど……。

 僕は君が好きだ……。これは嘘じゃないよ」


二度目は顔を上げて、しっかりと目を合わせて言ってきた。

待ち望んだ言葉、これ以上ないくらいに嬉しい。


「なんで、ふったの……?」

「ごめんなさい、嫌われたく、ないんだ……」

「何か、事情……かな? それとも、噂……?」


びくりと彼の肩が震える。

図星かぁ……あの噂は確かに事実からできてるから、信じてしまうのも仕方ないけど。


「噂を、聞いても……私、が……好き?」

「もちろんだよ! 僕の偽りない本心だからっ!」

「だから……受け取って、ほしい……?」


まるで責めるように、彼の言葉を遮る。

彼自身、今さっき振った相手に告白をしている。

そのまずさは……よく、わかっているんだろう。

彼は息を呑んで、こちらを見続け、返答を待っている。


「うん、いいよ……私も、貴方が好き……だから」


そう言った瞬間に、鈍い衝撃と共に後ろに転ぶ。

彼が抱きついた来た勢いそのままに私を押し倒したらしい。

その勢いで私の前髪も捲れてしまい、素顔を晒してしまう。

急いで戻そうとするけど、腕を彼に拘束されてしまう。


「やっ……泣いてた、から……!」

「ごめんね、こんなに泣かせちゃって」


私の抗議を聞かずにそのまま瞼にキスをする彼。

何度も、キスをされた。少しずつキスをする位置が下がっていって、唇まで来た。


「ん、んむ……」


もう、されるがままに任せて、幸せな気分に浸る。

彼と、こんな事をしているなんて、夢みたいだ。


「ふふふ、可愛いなぁもう」


そう言われて、素顔を晒していることを思い出し、顔が熱くなる。

そんな私の様子を見てまたふふふ、と笑われた。

ムッときた私は、力いっぱい抵抗して拘束を解く。


「うわっ」

「えぃ……」


体勢を入れ替えて、今度は私が上になる。

私も彼と同じように、何度もキスをする。

溢れそうな好きの気持ちを込めて何度もキスをした。

私からのキスを受けて、彼は幸せそうに微笑んでいた。


「おーい、まだ誰かいるのかぁ?」


ビクゥ、と彼が震える。多分私はもっと震えたと思う。

ここが学校だってこと、忘れてた。時刻は6時すぎ、最終下校時刻もぶっちぎりだ。


「すいませーん、もう帰りますー」


彼がそう返答した後、二人で顔を見合わせて笑いあった。

夏の日が長いとはいえ、だんだんと暗くなり始めた帰り道。

彼と手をつないでいれば、そんな暗さは気にもならなかった。


「そういえば、もうすぐ夏休みだけど」

「予定、は……ないよ……」

「そんないつでもバッチコイみたいに言われてもね……」


いつでもバッチコイ。うん、間違いじゃない、むしろ正解。

彼と一緒ならいつでも、どこにでもついていこう。


「そうだね、お泊まり会でも開こうか」

「楽し、そう……だね……」


二人でニコニコと笑い合う間には何も隔てるものがなかったから。

つい、唇を重ねてしまうのも、仕方ないよね。


                              Fin

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― 新着の感想 ―
[良い点] とても良かったです。 [気になる点] なし! [一言] 僕自身、三度の飯より本が好きです。友人に本を薦める時、長さをきにして本当に薦めたい本が薦められなかたのですが、あの、ラノベのように薦…
2014/01/10 23:15 退会済み
管理
[一言] ☆⌒(*^∇゜)vイイネ 頑張って連載続けよう!((o(^∇^)o)) こういう作品読んだことなかったから おもろかったよ( ^∀^)ゲラゲラ
[良い点] いエぇぇェぇェェえイィィぃぃぃィい!!!! [気になる点] イぃィィャっっッほォぉウゥぅぅぅゥゥう!!! [一言] 神こおぉぉォぉォぉォオりん ダネww ツぎもキたいしとるぜっ☆ おっ…
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