婚約破棄の演説中に「時間停止」を使いました。殿下の唾が空中で止まっている間に、全員のポケットに怪文書をねじ込みます
王立貴族学院の卒業記念パーティー。
それは本来、学び舎を巣立つ若き貴族たちが未来を語り合い、新たな門出を祝うための華やかな宴であるはずだった。
しかし、眩い魔導シャンデリアが照らし出す大広間の中央壇上には、未来への希望ではなく、ドロドロとした欲望と下卑た優越感が渦巻いていた。
「ロザリア・フォン・アルスター! 貴様のような傲慢で嫉妬深く、心根の捻じ曲がった悪女との婚約は、本日この時をもって破棄――ッ!!」
会場中に響き渡る怒声。
大広間に集まった数百名の貴族たちが一斉に息を呑み、壇上に立つ二人の人物へと視線を集中させた。
叫んでいるのは、この国の第一王子であり、私の婚約者であるジュリアン殿下。
金髪を派手になびかせ、仕立ての良さだけが自慢の豪奢な礼装に身を包んだ男だ。
その背後には、庇われるようにして寄り添うピンクブロンドの少女――男爵令嬢マリアの姿があった。
大きな瞳を潤ませ、今にも泣き出しそうな表情でジュリアンの腕にすがりついている。
さらにジュリアンの左右を固めるのは、学院きっての俊英と謳われる取り巻きたち。
屈強な肉体を誇る近衛騎士団長の息子レオンと、眼鏡の奥で冷徹な光を光らせる筆頭魔導士の息子ギルバート。
彼らは全員、まるで悪の魔王を追い詰めた正義の勇者たちのような顔をして、壇上の私を取り囲んでいた。
そして――。
演説のクライマックスを迎え、あまりの興奮に我を忘れたジュリアン殿下の大口から。
パッ、と。
目に見えるほどの大きさの汚らしい飛沫(唾)が、勢いよく飛び散った。
それは放物線を描きながら、今日のために仕立てた私の最高級シルクドレスの胸元へと一直線に向かってくる。
――あ、汚い。
私の思考回路が、スン……と絶対零度まで冷え切った。
無実の罪を着せられること? どうでもいい。
大勢の前で恥をかかされそうになっていること? 痛くも痒くもない。
こんな頭の軽い男に婚約破棄されること? むしろ熨斗をつけて返したい。
だが。
お父様が私の卒業祝いにと、半年も前から腕利きの職人にオーダーしてくれた、この一点物の特注ドレスに汚い唾を引っかけられることだけは――。
万死に値する。
「……失礼いたしますわね」
私は心の中で呟くと、扇子の陰で右手の親指と中指を重ね合わせ、パチンと小さく指を鳴らした。
「『時よ、澱みの中に眠れ(クロノス・スタシス)』」
カチリ。
脳の奥底で、巨大な古時計の歯車が噛み合うような、重厚な音が響いた。
次の瞬間。
世界から、すべての「音」と「色」が失われた。
ざわめいていた貴族たちの声がピタリと途絶え、オーケストラが奏でていた優雅な音楽も完全に消滅する。
魔導シャンデリアの眩い光はセピア色の鈍い輝きへと変色し、会場を満たす空気そのものが硬質なゼリーのように凝固した。
壇上のジュリアン殿下は、眉間に青筋を立て、目を見開き、大口を開けた間抜けな表情のまま完全停止している。
そして彼の口先から放たれた唾の飛沫は、私のドレスのわずか十センチ手前の空中で、まるで透明なビーズ玉のように静止していた。
「……ふぅ。危ない危ない。間一髪でしたわ」
私は静止した世界の中で、ふわりと優雅にドレスの裾を持ち上げ、横へ二歩移動した。
私の生まれ持った固有魔法――『時属性・時間停止』。
太古の時代に失われたとされる禁忌の極致魔術。
消費魔力が桁外れに多く、下手に使えば自身の寿命すら削りかねないため、これまでの人生で一度も他人に明かしたことはない。
ただの平穏な貴族令嬢として、大人しく王妃教育を受けてきたのだ。
だが、この馬鹿王子は私の静かなる忍耐を「ただの無能で大人しい女」と見誤り、あろうことか浮気相手の男爵令嬢と結託して私を公衆の面前で処刑しようとした。
「言い返して、証拠を突きつけて、論破する……それもスカッとするでしょうけれど」
私は扇子をパチンと閉じ、腰の空間収納ポーチに手を当てた。
「それでは、私のこのドレスを汚されかけた精神的苦痛への慰謝料としては、あまりにも安すぎますわね」
どうせ時間を止めたのだ。
ただでは起きない。
私をハメようとした愚か者たち全員に、一生トラウマとして刻み込まれるレベルの『芸術的な自滅劇』をプレゼントして差し上げよう。
私はニヤリと口角を上げると、停止した世界の中で軽快にステップを踏み出した。
「さて、まずは――今回のすべての元凶である、可憐なヒロイン様から」
私はジュリアンの背後で「か弱い小鹿」のポーズのまま固まっている男爵令嬢マリアの前に立った。
彼女は自分を「純真無垢な被害者」として演出しているが、その裏の顔を私はとっくに調べ上げている。
何せ私は、アルスター公爵家の情報網をフルに使える立場なのだ。
私はマリアが小脇に抱えている豪奢なビーズバッグに手を伸ばした。
時間が止まっているため物質は極めて重く感じるが、魔力を指先に集中させれば動かすことができる。
バッグの金具を器用に外し、中身を少しだけ引っ張り出した。
そして、私の空間収納ポーチから取り出した『ある書類』を、バッグの中からこぼれ落ちそうに見える絶妙な角度で挟み込む。
その書類の表題は――【攻略対象殿方の資産・利用価値・将来性一覧表(マリア直筆メモの写し)】。
彼女が夜な夜な自室でニヤニヤしながら書き殴っていた日記帳から、我が家の凄腕隠密が書き写してきた極上品である。
『ジュリアン殿下:顔は良いし地位もあるが、財布の紐が異常に渋い。結婚して王妃の座を手に入れたら、適当な理由をつけて早々に離宮へ幽閉し、国庫の金を自由に使い込みたい』
『レオン様:絵に描いたような筋肉バカ。少し涙目でおねだりすれば高価な宝石をホイホイ買ってくれる最高のお財布。ただし話が絶望的につまらないので二人きりは苦痛』
『ギルバート様:陰気な眼鏡。プライドだけは高いので「さすがギルバート様、頭がおよろしいのね」と煽てておけば便利な魔道具を無償で作ってくれる都合のいい下僕』
実に素晴らしい、打算と悪意に満ちた本音の数々。
これを、マリアが少し動いただけで床にハラハラと舞い散り、周囲の貴族たちから一番見えやすい位置へ配置した。
「ふふ、これでヒロイン様の準備は完了ですわね。お次は……筋肉担当のレオン様」
私はジュリアンの斜め後ろで、腰の長剣の柄に手をかけたまま、ドヤ顔で威圧的なポーズをとっている近衛騎士レオンの元へ歩み寄った。
彼は「悪女ロザリアからマリアを守る高潔な騎士」を気取っているらしい。
だが、その中身はただの単細胞である。
私はポーチから小さな極細ナイフを取り出すと、彼の純白の騎士ズボンを支えている革ベルトのバックル裏を、ススッと丁寧に切断した。
針一本分の革の繊維だけで辛うじて繋がっている状態だ。一歩でも足を動かせば、自重で千切れてズボンがストンと落下する仕掛けである。
さらに。
彼の胸元のポケットに、ピンク色の可愛らしい便箋をねじ込んだ。
それはマリアがギルバートに宛てて書いた『ギルバート様だけが私の本当の理解者ですわ』という熱烈な愛のラブレター(本物)である。
「男同士の友情にヒビが入る音……楽しみですわね」
続いて、隣に立つ眼鏡の魔導士ギルバートの元へ。
彼は冷静沈着な頭脳派を気取り、眼鏡のブリッジを指で押し上げるポーズで静止している。
私は彼のポケットに、今度はマリアがレオンに宛てて書いた『レオン様の逞しい腕の中にいる時だけ、私は本当の自分でいられます』というラブレターを差し込んだ。
そして、彼が誇らしげに構えている最高級の魔導杖。
その先端に嵌め込まれている高純度の魔力増幅石を、魔力操作でカチリと抜き取る。
代わりに、私が王都の雑貨屋で買い占めておいたパーティー用の特大アイテム――『超巨大びっくりクラッカー(火薬三倍盛り・紙吹雪五色仕様)』を杖の先端にガチガチに固定した。
これで彼が「魔法でロザリアを拘束しよう」と杖を振った瞬間、凄まじい轟音とともに大量の紙吹雪とキラキラテープが射出されるはずだ。
「さて……そして真打ち。我が愚かなる元婚約者、ジュリアン殿下」
私は壇上の中央、唾を飛ばした間抜けな大口を開けたまま静止しているジュリアンの前へと戻ってきた。
まずは彼の胸ポケットに、王立銀行からの『度重なる遊興費および高級宝飾品購入に伴う、残債八千万エルの緊急返済督促状』を差し込む。
彼はマリアにいい格好を見せるため、王室費だけでなく個人名義で多額の借金を重ねていたのだ。
そして――メインディッシュの準備に取り掛かる。
私は会場のオードブルテーブルへと優雅に歩いていった。
大皿の上に美しく盛り付けられた一口サイズのカナッペたち。
その中から一つをつまみ上げると、ポーチから取り出した小瓶の蓋を開けた。
中に入っているのは、南方諸島から極秘に取り寄せた暗黒の香辛料『デス・ハバネロ&ドラゴンチリの超濃縮激辛ペースト』。
触れただけで皮膚がただれ、一口食べれば火竜のブレスを浴びたかのように口内が燃え盛るという、もはや毒物指定の一品である。
私はスプーンでその真っ赤な劇薬ペーストをたっぷりとすくい、カナッペの上にこれでもかと山盛りに塗りたくった。
見た目はベリーのジャムのように艶やかで美味しそうだが、放つ殺傷能力は国家滅亡レベルである。
私は激辛カナッペを持ってジュリアンの前へ戻ると、
彼が全開に開けている大口の中――喉ちんこのわずか一センチ手前の空間に、そっとそれを配置した。
時間が止まっているため、手を離してもカナッペはそのまま空中にピタリと浮遊し続ける。
演説の続きを叫ぼうとして息を吸い込んだ瞬間、
彼の喉の奥へ、この激辛爆弾がノータイムでホールインワンする寸法だ。
「……ふふ。完璧ですわ」
私は自分の仕掛けたピタゴラスイッチの全容を見渡し、心からの満足感を噛み締めた。
さて、仕掛けが終わったら、あとは安全な特等席で観覧するだけだ。
私は壇上から静かに歩いて降り、大広間を横切った。
向かう先は、会場の最奥――一段高い場所に設けられたVIPエリア。
そこには、息子の愚行にまだ気づかず、グラスを持ったまま静止している国王陛下と王妃様、そして我が父であるアルスター公爵が座っていた。
私は国王陛下の隣のフカフカの一人掛け高級ソファに、優雅に腰を下ろした。
テーブルの上にあった温かい紅茶のポットから、停止した液体を魔力でゆっくりとティーカップに注ぎ入れる。
足を組み、カップを片手に持ち、完璧な淑女の笑みを浮かべる。
「――それでは皆様。最高に滑稽で破滅的なショーの始まりですわよ」
私は紅茶のカップを軽く掲げ、心の中で呪文を解き放った。
「『刻よ、巡れ(クロノス・リリース)』」
カチリ。
世界に鮮やかな色彩が一気に雪崩れ込み、爆発的な音の洪水が戻ってきた。
そして――連鎖崩壊のドミノ倒しが、寸分の狂いもなく作動した。
「――破棄するッゴボォッ!? ガハッ、ゴホッ! オエェェェェッ!?」
演説の勢いのまま大きく息を吸い込んだジュリアン殿下の口腔内へ、空中にあった激辛カナッペがダイレクトに着弾した。
瞬間、殿下の顔面が真っ赤を通り越して土気色へと変色する。
目玉が飛び出そうなほど見開かれ、鼻水と涙が滝のように吹き出した。
「ギャアアアッ! あ、熱い! 痛い! 舌が、喉が燃えるぅぅぅっ! 水! 水をくれぇぇぇっ!」
殿下は喉を両手で掻きむしりながら、壇上の床を無様にゴロゴロとのたうち回った。
そのあまりの豹変ぶりに、会場中の貴族たちが「な、何が起きた!?」と大パニックに陥る。
「で、殿下!? しっかりしてください、今お助けを――わっ!?」
すかさず駆け寄ろうとした騎士レオンが、力強く一歩を踏み出した瞬間。
仕込まれていたベルトがプツンと弾け飛んだ。
ストンッ。
見事な重力に従い、彼の純白のズボンが足首まで一瞬でずり落ちた。
大広間の眩い照明の下に晒し出される、レオンの筋骨隆々な生足と――真っ赤なイチゴ柄がプリントされた、なんともファンシーなトランクス。
『キャアアアアアッ!!』
『な、なんて破廉恥な……!』
貴婦人たちから耳を劈くような悲鳴が上がる。
「な、なっ!? 俺のズボンがぁっ!? な、なぜだ、ベルトが……っ!? うわっ、ポケットから何かが……『世界で一番愛するギルバート様へ』……だと!?」
ズボンを慌てて引き上げようとしたレオンの手から、ピンクの便箋がポロリと落ちた。
それを見たレオンの目が血走る。
「おいギルバート! 貴様、俺に隠れてマリアと文通していたのか!? 『ギルバート様の眼鏡越しの知的な瞳が好き』だと!? 抜け駆けしやがったな貴様ぁぁっ!」
「は、はあぁっ!? 何を言っているんだレオン! 僕のポケットにこそ、マリアから君への手紙が入っているぞ! 『レオン様の筋肉質な胸板に抱かれたい』だと!? 不潔極まりない! ええい、取り乱すな! 僕が魔法で殿下の喉を治療する――『風よ、癒しの息吹を(ヴェント・ヒール)』!」
混乱したギルバートが、事態を収拾しようと誇らしげに魔導杖を振りかざした。
その瞬間――。
バァァァァァンッッ!!!!
鼓膜を揺るがす凄まじい破裂音が会場に轟いた。
杖の先端に仕掛けられた特大クラッカーが完璧に作動し、大量のカラフルな紙吹雪とキラキラの銀テープが、猛烈な勢いで床を転がるジュリアン殿下の顔面へゼロ距離で直撃した。
「ぐぎゃあああっ!? 目があああっ! 喉が燃えているところに紙吹雪が鼻と目に突き刺さるぅぅぅっ!!」
「殿下ぁぁっ!? な、なぜ僕の杖から紙吹雪がぁっ!?」
「貴様ぁギルバート! 殿下に暗殺トラップを仕掛けたのか! やはり裏切り者はお前だ!」
「違う! 僕じゃない! 離せ筋肉ダルマ! 眼鏡が割れる!」
ズボンが半脱ぎのレオンと、クラッカーの煙に巻かれたギルバートが、壇上でみっともなく胸倉を掴み合い、殴り合いの大乱闘を始めた。
その揉み合いの余波で、後ろにいたマリアが突き飛ばされる。
「キャアッ! ちょっと、二人ともやめて――あっ!?」
マリアが床に手をついた瞬間、細工されていたビーズバッグがパカッと開き、中から数十枚の羊皮紙が勢いよく飛び散った。
大広間に巻き起こった風に乗り、その紙はヒラヒラと舞い踊りながら、貴族たちの足元へとバラ撒かれていく。
「あっ、ダメ! 拾わないで! 見ないでぇぇぇぇっ!!」
マリアが狂ったように叫びながら床を這い回るが、すでに手遅れだった。
近くにいた伯爵や公爵たちが、足元に落ちてきた紙を次々と拾い上げ、そこに書かれた文字を読み上げる。
『……な、何だこれは? 「殿下は財布が渋いので早々に幽閉したい」……?』
『こっちには「レオンは話がつまらない筋肉バカの宝石箱」と書いてあるぞ……!?』
『「ギルバートは煽てればタダで魔道具を貢ぐ都合のいい下僕」……ひどい、なんて浅ましい女なんだ!』
ざわめきは一瞬にして軽蔑と嘲笑の嵐へと変わった。
貴族たちから冷たい視線を浴びせられ、マリアは顔面蒼白になってその場にへたり込み、ガタガタと震え出した。
さらに、床を転がる殿下の胸ポケットから滑り落ちた『八千万エルの借金督促状』が、風に乗ってVIP席の国王陛下の足元へとピタリと着地した。
激辛で悶絶し泡を吹く王太子。
イチゴパンツを晒して取っ組み合う側近たち。
本性を暴かれて泣き叫ぶ男爵令嬢。
――わずか数十秒の間に完成した、完璧にして究極の地獄絵図であった。
「…………」
VIP席が、別の意味で完全に凍りついていた。
国王陛下は、足元に届いた息子の借金督促状を拾い上げ、プルプルと全身を震わせている。
額には青筋が何本も浮かび上がり、その瞳からはゴウゴウと怒りの炎が燃え盛っていた。
私はそんな陛下の隣で、優雅に紅茶に口をつけ、ふぅと息を吐いた。
「……良い茶葉を使っておりますわね。香りがとても素晴らしいですわ」
「ロ、ロザリア嬢……!?」
恐る恐る、といった様子で国王陛下が私を振り返った。
冷や汗を滝のように流しながら、壇上と私を何度も見比べている。
「そ、そなた……いつの間に壇上から余の隣へ移動したのだ……? というか、壇上で何が起きているのだ……?」
「あら。あまりにも壇上の皆様がお取り込み中のご様子でしたので、巻き込まれないよう淑女としてこちらへ避難させていただきましたの」
私はにっこりと、天使のように無垢で美しい微笑みを浮かべた。
「陛下。ご覧の通り、ジュリアン殿下は私以外の女性との愛を育み、側近の方々と絆を深め合うのにご多忙のご様子。アルスター公爵家といたしましては、先ほど殿下が声高に宣言された【婚約破棄】の申し出、謹んで、喜んで、ありがたくお受けいたしますわ」
「ま、待ってくれロザリア嬢! すべて我が愚息の乱心と不徳の致すところだ!」
国王陛下は青ざめ、玉座を降りて私に頭を下げんばかりの勢いで縋り付いてきた。
「アルスター公爵家の後ろ盾を失っては、我が国の財政も国防も立ち行かん! どうか……どうか王家を見捨てないでくれ! ジュリアンは即刻廃嫡とし、辺境へ追放する! 公爵家には国庫から莫大な慰謝料を支払い、そなたには望む領地の自治権と、生涯完全な自由を保障する【名誉独身貴族】の爵位を授与すると約束する! だから頼む……!」
「まあ、そこまで仰ってくださるのなら」
私は扇子を開き、口元を隠して目を細めた。
手に入ったのは、鬱陶しい王妃教育からの完全な解放。
誰にも邪魔されない豊かな領地と、一生遊んで暮らせる莫大な慰謝料。
そして何より、この上ない爽快感。
(――大勝利、ですわね)
私の視線の先では、激辛のあまり「水……水をぉ……」と這いずり回る元婚約者に、近衛兵たちが冷酷な手錠を嵌めているところだった。
私は心の中でニヤリと悪童のように笑いながら、地獄絵図と化した壇上へ向かって、静かに紅茶のカップを掲げてみせたのだった。
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評判良ければ連載も考えます!




