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第0話「供花前夜」


 雷鳴が轟いて、沈んだ。血の匂いがじわりと煙る。

 壊れた祭壇の前で両肩を抱き蹲る男――ヨスガの背。それがやんわりと瞬いていた。


「……キョウカぁ。」


 ヨスガの、涙や笑みでぐちゃぐちゃな声。それを女の怒声がかき消した。

「ヨスガァァァッ!!!」

 ――あぁこの声は、妹だったか、母だったか。


 そんなものどうだっていい。愛しいひとを、やっと取り戻したんだ。

 再び奪われて、なるものか。


 振り返れば、畳の上に転がる死体、死体。

 親族、使用人、護衛――印瞳(いんどう)家の人間たち。

 何か嫌なものが、胸の奥で瞬いた。それを半端な理屈で飲み込む。

 ――最初に奪ったのは、彼らだ。ならば僕に奪われる覚悟も、なくては困る。


 ぽつぽつと、馴染んだ顔が剣を持つ。

 それをぼんやり眺めて、眺めて、目を閉じた。


 ――再び目を開いたとき。そこにはもう、印瞳(いんどう)家当主、印瞳 縁(インドウ ヨスガ)はいない。


 そう言い聞かせた。


 

 

 

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