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貴方は前世を信じますか?〜信じますけど、どうしましょう。私は貴方の思っている前世の恋人ではありません〜

作者: 織子


「――貴方は前世を信じますか?」



結婚した時、旦那さまは16歳で、私は9歳でございました。公爵家の嫡男であられる旦那さまと、しがない男爵家の長女である私。誰がどう見ても不自然な婚姻でした。


プロポーズの時の旦那様の問いに、私は頷きましたが、それは旦那様が思っている事とは違う意味合いだったのです。



「おかえりなさい。旦那さま」

「ただいま。エスタリア。仕事の終わりに君の笑顔が見れるなんて、結婚して本当に良かった」


新婚の様なこのやり取りを、もう何年も続けております。目尻を下げて微笑む旦那様に、先日入ったばかりの使用人は目を丸くしていました。


旦那様こと、オルド・ジャン・シャマル公爵は、帝国騎士団の団長であり、ヴィネリア帝国唯一のソードマスターとして名を馳せた人物です。その為人は戦地では常に先陣を切り、動じることなく人を斬る冷酷な人だとされていました。


結婚して6年。私はそんな冷酷な人物は見たことがありませんが。


旦那様はいつものように私を抱き上げ、にこにこしながら広間へ向かいます。


私もいつもなら抵抗します。16歳になったのですもの。もう立派な淑女です。子供のように抱き上げられ運ばれるなど、淑女に対する接し方ではありません。


ですが今日だけは緊張していました。額に冷や汗が流れるほどに。今日は、今日こそは言わねば。


――旦那様が言っている、前世の恋人は自分ではないと。




私がこの世界に転生する前は、日本人でした。ごく普通の人生でしたが、早世でした。人に言わせれば、普通ではなかったかもしれません。難病をいくつか患い、人より多く苦しみ、短い寿命を終えました。もちろん、恋人はいません。


この世界に産まれ落ちる前に、白い空間で女神様に会ったのです。

『少し人より苦しい人生だった。次は違う世界に送ってやろう』


そうして7歳になった頃、園遊会で出会った旦那様が、私に会うなり涙を流しました。


「また会えた。奇跡のようだ」と。


公爵家からの婚約の申し出に、傾きかけている男爵家が断るはずもなく、9歳で私は輿入れしました。


年の差婚も政略結婚もある世の中とはいえ、16歳の新郎の、半分の背にも満たない新婦は見る者には滑稽だったことでしょう。


もちろん初夜など行われていませんが、結婚式の日に旦那様がこう言ったのです。


「貴方は前世を信じると言いましたね」

もちろん信じております。覚えてますし。

「はい」

「ふふ。貴方は前世で私の恋人だと言ったら、笑いますか?」

「······はい?」


前世で私に恋人などいません。でも唐突すぎて、その場は何も言えませんでした。






❉❉❉❉❉❉


「旦那さま。お願いがございます」

「何だい?私の可愛いエスタリア」


旦那様の返答に、思わず呆れ顔になります。

(その返事がもう父親のそれなのよ)


「結婚して今日で6年経ちます。そろそろ、離縁をしましょう」

「嫌だ。まだ諦めてなかったのか?」


3年前から毎年言っているので、旦那様も動じていません。ですが。


「今回は私も本気です。6年目にして白い結婚のままですし、お義母様にも、お義父様にも了承を得ました。近いうちに神殿から離縁状が届くはずです」


これには流石に旦那様の顔色も変わりました。

「待て、そんなに私に不満があったのか。何だ?全て直すから言ってくれ」

 

不満はありません。あ、いえやっぱりありました。どこでも抱っこするところとか、昨年の誕生日のプレゼントがクマのぬいぐるみだったこととか、平気で上半身裸で訓練するとか。――いえ、それは今はどうでも良いのです。 


「不満とか、そういう事ではありません。旦那様の、私と婚姻した理由がそもそも間違っているのです」

「どういうことだ?」


今まで、この理由は伝えたことがありませんでした。この間違いを正さなければ、離縁した後でも時折私の事を思い出してもらえないか、と。私の浅はかな考えです。

でもやはり、この理由を伝えないと離縁はしてもらえないようです。


「私、私は」

(あ、いけない)


――泣いてしまいそう。一気に言わなければ。


「私は旦那様の前世の恋人ではありま、せん」


言い切る前に、両目からぼろぼろ涙が溢れてしまいました。

(聞きずらかったに違いないわ。でも言えた。やっと言えた)


前を向くと、旦那様は辛そうな表情をされていました。

(ごめんなさい旦那様。でもようやく伝えれた)


「すまない」

(ええ。ええ。私こそ申し訳ありません。心置きなく離縁しましょう)


「私があの時言ったことを、そんなに気にしていたんだな」

「えっ?」

「前世など関係ない。君が誰であろうと、私には君しかいない」


下を向いていたので、目の前に旦那様が来たことに気づきませんでした。旦那様の長い腕に、優しく抱きすくめられました。そして背中をぽんぽんと撫でてくれます。

しばらくその状況に浸ってしまいました。


「旦那様、前世とか関係ないとおっしゃったのは、嘘でしょう?」

「·······嘘じゃない」


しっかり間がありましたね?

「無理をなさらないで下さい。事あるごとに、私に前世の彼女と重ねていたではありませんか」


花に見惚れれば「ピンクの花が好きだったろう?変わらないな」とおっしゃったり、ピクニックに行けば「懐かしいな。君が作ったお弁当」、馬車の中では「2人乗りで自転車で――」云々。もう、私も限界なのです。


「す、すまなかった!もう二度と言わない。だから離縁は――」

「いいえ!いいえ離縁してくださいませ!私では貴方には釣り合いません」


美しい銀髪に冷ややかな青い瞳。整った容姿を持つ旦那様が、他の令嬢たちにどんな眼で見られているか私は知っています。それでも冷酷と言われる旦那様が、私にだけ優しく微笑み、私だけ特別に大切にする。そんなことをされて、好きにならない人がいるでしょうか。


「この6年、私にキスすらしなかったくせに」

渾身の力で押したものの、びくともしない体躯。涙を眼にためたまま、力の限り睨むと、ゆっくりゆっくり旦那様は私から離れました。


「うぅ」

この場にいるのも憚られ、私は自室に逃げました。追ってくるかな?と思ったのですが、杞憂でした。そのまま旦那様は私に会いに来ませんでした。








❉❉❉❉❉❉❉❉


「――――――――――ハァ」


公爵邸の執務室で、長い長いため息を吐いた。

文字通り頭を抱えるオルドに、執事が声をかける。


「何か、ありましたね?」

そこは、ありましたか?じゃないのか。


「エスタリアに離縁を求められた」

「今年もですか」


執事であるアルフォンスは、幼なじみだ。気にした風もない友人、兼、執事をジロリと睨む。

「今年は本気のようだ。すでに父上と母上に許可を貰い、もうすぐ離縁状が届く」

説明するのも辛い。更に頭が下を向く。


「え?そんな。一体奥様に何をしたんですか」

「何を····?何もしてない。何もしてないからなのか?」

いや、私が前世がどうのこうのと煩かったのもある。しかしアルフォンスには前世の事を言ってないので説明も出来ない。


しかし前世を説明せずとも、言葉足らずな説明でアルフォンスは状況が分かったようだ。――優秀な執事だ。

「何も?まさか、まだ夜を共にしていないのですか?」

「········」

無言は肯定ととられる。

「奥様が成人して1年以上経つのに?何をしてるのですか」

「私の中では成人は18歳なんだ」

「知りませんよ。何ですかそのマイルール」


アルフォンスは少し思案して言った。

「···まさかとは思いますが、閣下はいつもあの感じで奥様に接してらっしゃるのですか?2人きりの時も?」


「あの感じとは?」

「奥様を急に抱き抱えたり、子供の様に扱ったり」

「そんなつもりはなかったが」


アルフォンスの顔色が曇る。

「嘘でしょう?さすがに2人きりになった時には態度を変えていると思ってました」

オルドの顔色は更に曇った。

「そんなにひどかったか?」


「ええ。あれでは奥様が離縁を言ってきても不思議ではありませんね」


「どうしたらいいのだ」

オルドは途方にくれた。一万の敵兵を見ても表情を変えない男が、エスタリアの事になると途端に情けなくなる。

アルフォンスも慌てて言った。

「今からでも、夫婦らしい雰囲気を作るのです。まさかキスもしてない訳ではないでしょう?」


「············していない」


アルフォンスは匙を投げたくなった。お手上げだ。


「離縁状が届いたらおしまいです。教皇庁に人を送り、なんとか阻止致しましょう。時間を稼ぐしかありません。その間に奥様を説得してください」


「出来るだろうか」

オルドの背は高い。小さく見える訳はないのだが、今日ばかりは小さく見える。


「閣下、するしかありません。奥様は帝国で妖精姫と異名を持つほど美しい方です。離縁をしようものなら、帝国の未婚の令息から大量の求婚状が届き、すぐに誰かに取られてしまいますよ!良いのですか?」


公爵邸が微かに揺れる。

「想像しただけで、皇都を破壊してしまいそうだ」


「閣下。落ち着いて下さい。想像だけで公爵邸が破壊されそうです。」




コンコン

「閣下、前公爵夫人···アシェル様がお越しです」


使用人が言うなり、カッカッとヒールの音が響いた。扉が乱暴に開かれる。


「オルド!貴方一体どういうことなの!」

「母上···」


「エスタリアから文が届くまでこのような事になっていようとは知りませんでした。なんて不甲斐ないの。エスタリアが可哀想だわ」


「落ち着いてください」

扇子で叩かれるんじゃないかとヒヤリとした。いや、叩いて貰った方がいいのかもしれない。


「離縁と決まれば、我が家は責任を持って次の嫁ぎ先を見つけてあげなければなりません。6年も貴方を支えてくれたのですから」

「母上、お待ちください。私は離縁する気は」

「だまらっしゃい!」

母の激昂にオルドはなすすべなく黙る。


「嫌ならばエスタリアの気持ちを動かす努力をなさい。あの子は離婚の意志を固めていますよ」

「はい」

項垂れるオルドに、前公爵夫人はため息を付いた。9歳で嫁いで来たエスタリアは、娘同然に可愛がっている。息子と離縁したからとて、エスタリアへの愛情は変わらないし、他の男性に嫁いだ方が幸せになれるなら、そちらを選ぶ。

とはいえ、息子に少し情けをかけてやる。


「本当は言わずに行こうと思っていましたが····エスタリアは今日は私の社交につき合わせます。何故いつも女として自信がないのか理解出来ませんでしたが、今となっては分かります」


「それはどういう···?」

嫌な予感がする。


「いつも夜会は貴方がエスコートしていたでしょう?今日は貴方は来なくてよろしい。エスタリアには自分に自信を持ってもらいます」


「え、私なしでエスタリアを連れて行くのですか?」

オルドは慌てて立ち上がる。


「アルフォンス、馬車を用意しておいてちょうだい。貴方は仕事をちゃんとするのよ」

オルドの問いは無視して、前公爵夫人は部屋を出て行った。




「アルフォンス····命令だ。馬車は用意するな」


「····聞こえなかったことに致します」



アルフォンスが部屋を出て行くと、オルドは椅子に深く座り天井を仰ぐ。


(落ち着け。夜会と言えど、エスタリアが私の妻であることは帝国の貴族であれば皆が知っている。下手に声をかける者はいないだろう)


エスタリアと、公爵邸の一部の者以外には、畏怖の対象であることをオルドは知っている。



「前世など、もう口にしないようにしなければ」


エスタリアと初めて会ったあの日の夜、オルドは女神の夢を見た。オルドは元々前世の記憶を持っていた訳ではない。エスタリアに出会ったあの日、あの瞬間、前世での記憶が戻ったのだ。

女神も『お前の執念には感服する。再び出会えて良かったな』と言っていたし、オルドはソードマスターだ。魂のオーラを感じるので、エスタリアが自身の求めて来た人だと確信が持てた。


(だが、エスタリアはそうではないのだ)


彼女の立場になって考えてみれば、記憶にない女性との思い出話など聞かされるのは苦痛だっただろう。



コンコン

「···閣下」

ドアの外から、遠慮がちにアルフォンスが声をかける。

「何だ」


扉が開き、青ざめたアルフォンスが顔を出した。

「アシェル様と奥様が参加する夜会ですが、仮面舞踏会らしいです」


ショックで声が出ない。

仮面舞踏会ならば、自分の地位でエスタリアが守られることがない。無礼講であり、皆が顔を隠しているのだから。


オルドは死に物狂いで机の書類を片付けた。






❉❉❉❉❉❉❉❉❉


「お義母さま。このドレス、私が着て大丈夫でしょうか?」

いつも夜会で着るドレスと違い、肩が開いて背中も開いているドレスです。お化粧も時間をかけました。


「貴方くらいの年の令嬢の間で、流行っている形よ。思った通り、とても似合うわ。顔は仮面で隠れるけど····仮面でも美しさは隠しきれないわね」


お義母さまも褒めてくださるので、大丈夫なのでしょう。ドレスの布の部分が少なく感じて心許ないですが、私もいつもの私と違いますもの。


仮面舞踏会、成人してからティーパーティーで話題に出ますが、1度も行ったことがありませんでした。


(お義母さまが気分転換にと連れて来てくださって感謝です)


「わぁ」

いつもの夜会より活気があります。会場の装飾は華美なものが多く、お花も濃い色の薔薇が目を引きます。


本当に仮面で誰が誰か分かりません。いつも旦那様に恥をかかせないよう気を張ってましたが、ここは少し気を抜いても大丈夫そうです。


「美しいご令嬢、あちらで友人たちとお話しませんか?」

夜会で男性に声をかけられることなどなかったので、エスタリアは驚いた。


「え?私ですか?」

戸惑う私に、黒い仮面を被った紳士は優しく手を差し伸べてくれました。

(行ってもいいのかしら?)


「行ってらっしゃい。私は上の階にいるわ」

お義母さまがそう言うので、初めて旦那さま以外の紳士の手を取りました。不思議な感覚。


案内された先には同じ年頃の令嬢と令息たち。楽しそうにお話されています。


「おや、ここは初めてですか?美しいご令嬢」

「やぁ。仮面からでも美しさが滲み出ていますね」

「こちらへ。今日出会えたことに感謝します」


気付けば何人もの令息に囲まれ、身動きが取れなくなりました。初めての経験にどう接したら良いのか分かりません。

「あ、あの」

「緊張してるようですね。人数が多いからでしょうか?私とあちらで休みますか?」


腰に怖気が走りました。知らぬ間に腰に添えられた手に、嫌悪感が走ります。ですがそれも一瞬でした。振り返ると、私の腰に回された手が他の男性に掴まれております。

見知った体躯に、鷹を模した仮面を被った顔。すぐに分かりました。


「旦那さま?」


仮面で隠れていない部分から青筋を立てているのが見え、腕を折りそうな勢いでしたので、私は素早くその場を離れました。

「す、すみません。旦那さま行きましょう」







とりあえずバルコニーへ。離縁宣言をしてから、顔を合わせるのは3日ぶりです。


「心配で来てくれたのですか?まだ離縁前なので、不貞な事は致しません」

冷たい言い方になってしまいました。来てくれたことが嬉しいのに····。気まずくて、旦那様から少し離れてしまいます。


「わっ」

「離れていくな」

「だ、旦那さま?」

「頼むから···」

旦那様の腕のなかにすっぽり包まれ、身動きが取れません。


「旦那さま、私は貴方の想い人ではありません。前世を信じているのは、私も自分の前世を覚えているからです」


離縁するなら、きちんと説明しなければ。旦那様のしこりになりたくありません。腕の中に居るのは嬉しいけれど、これで終わりだと思うと胸が苦しい。


「私の前世には恋人がいませんでした。長い闘病の末に、1人で亡くなりましたので」


びくりと身体を震わせ、旦那様は私を離しました。ただ、腕の長さだけ。お互いの顔が見える距離です。旦那様はとても辛そうな顔をしています。


「そう···だったのか。それはとても辛かったな。今世では、1人で亡くなることなどないだろう。私が側にいるからな」

「·····旦那さま、ですから私とは」

「無理だ。前世はもういい。関係ない。エスタリアでなければ」

「え?」

「君を愛している。臆病な私を許してほしい」


そのまま、唇が触れた。結婚6年目にして、初めてのキスでした。

あまりの事に、私の目から涙が流れました。 


その涙を、旦那様は舌で掬うと、そのままもう一度キスをしました。


旦那様の緊張が伝わって来ました。手も震え、唇も震え、旦那様の長い睫毛も震えています。


「嫌いにならないでくれ」

旦那様はそう呟くと、さらに深くキスをしました。深く、長く。


「ーはぁッ」

顔が熱くて、息も苦しくて、どうしたらいいのか。おかしくなってしまいそうです。ふと旦那様の顔を見ると、私より赤く、何かを耐えるように苦しそうでした。でも、涼しかった青い瞳だけは熱を持って輝いています。


目が合うと、また顔が近付いて来ました。口を開けて、かぶりつくように。

(食べられてしまいそう)



――と、口と口が触れる寸前で、旦那様は固まりました。


「ッッすまない」

いつの間にかバルコニーの端に追い立てられ、しゃがんでいる状態に。旦那様が持ったバルコニーの柵が、バキリと音を立てて折れました。


「ふぅー」

旦那様がため息を吐いている合間に、今起こった事を反芻してしまい、私は顔から火が出るかと思いました。とっさに手で顔を隠します。こんな表情は見せられません。



「エスタリア?」

少し落ち着いた旦那様が、私の片手をゆっくりと顔から離して覗き込んでいます。瞳の熱は収まっていました。上目遣いなんてあざと過ぎます。



「この通り、止まることが出来ず、君を怖がらせてしまう――いや、君に嫌われてしまうのが怖かったんだ。なんせ君と私では、身体の大きさも歳も差がある」


「嫌いになどなりません」

(恥ずかしいから、片手を離してほしい)

残った片手で顔を隠す。


「私だって6年間貴方に恋して来たのですから」


「·····」

残った片手が旦那様にまた掴まれました。私の赤くなった顔が隠せなくなります。


「もう1度言ってくれ。お願いだ」

懇願されたものの、私だって恥ずかしくて今は言いたくありません。


涙目になりながら旦那様を睨みます。

「可愛い」

と言うなり、軽くキスをされました。

(蕩けるような赤い瞳に、私だけが映っている)


睨んだまま、1番気になっていることを聞きます。

「もし、今後前世の恋人が現れたらどうしますか?」


「何もしない。気にもならない。私には、君だけだから」


また旦那様は私にキスをしました。



――言葉だけならいくらでも言えます。前世の恋人の事を、あんなに愛おしそうに話していたのですもの。旦那様を信用した訳ではありません。



もしこの先旦那様の前世の恋人が現れようと、私が譲らなければいいのです。

そうでしょう?


とりあえず、今はこのキスを心に刻みたい。だって6年も待ったのですから。



目を閉じて幸せを噛みしめていると、頭の中に聞き覚えのある声が聞こえた気がしました。

 


『まぁそうだろうな。あやつにとっては前世で、君にとっては前、前世だからな』


女神様が微笑った気がしました。









 ❆❆❆❆❆❆


この2日後に届いた離縁状は、オルドが跡形もなく燃やしました。

母とアルフォンスに、エスタリア抱っこ禁止令を出され、しょんぼりしているオルドに、エスタリアは「週に1度なら」と許可したり。2人なりに愛を育んで行くようです。


前世、年の差、溺愛。

好きなものを詰め込みました。



読んでいただきありがとうございました。

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