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後編

 

 陛下はシャロンに魔族討伐について尋ねた。


 しかし、答えは1年前と同じである。


「王国の常備軍全てで当たるの~」

「それでは万を超える。各国の笑いものだ」

「もう、笑いものなの~、笑われるのはシャロンで十分なの~」


「それではダメだ。一個騎士団と平民の歩兵団をあてる」


「ダメなの~、賢君は、臣下の策を一部採用なんてしないの~、採用するかしないかなの~」


「何故、そんなに必要なのだ」


「1人の剣聖よりも、100の平民兵で作った槍衾なの~、1人のネームドのタンクよりも100の雑兵の盾の防御なの~、1人の魔道師よりも100の矢なの~、これで簡単に勝てるの~」


「しかし・・・そんなに兵を動員して、何か目的があるのか?」


「ご褒美欲しーの。ドレスと宝石、お金が欲しーの」



 陛下はこの答えで満足をした。


「なるほど、分かった。兵の全権を渡そう」



 兵をまとめると、シャロンはすぐに兵を進めた。


 しかし、行軍三日目当たりから、陛下に書簡が届く。


 曰く。


『ドレスと宝石は必ずもらえるのか?』

『予算はきちんと編成したのか?』

『どの商会に依頼したのか?』

『その商会にお金は払ったのか?』



 等々、ウザいほどご褒美の進捗状況を尋ねる書簡が届いた。


 廷臣達は眉をしかめ。


「まるで、勝ったかのような算段」

「そりゃ、全軍で戦えば勝てるだろう」

「いや、逃げられたら、勝ったことにはならいのでは?」



 公爵は陛下に奏上をした。


「陛下、シャロン殿下は強欲で危険です。今からでも呼び出し、謀殺するべきでございます」


 それに対して、陛下は。



「それは卿の考えすぎだ。欲深い小人は目先の欲望を叶えればそれで満足をするものだ。決して、国を奪おうと思わないものだ」


「陛下・・」


 公爵は思い出した。今上の陛下は王位につくまで欲望を表に出さなかった。



「これ以上言うと、功大き卿でも不敬罪で逮捕しなければならないぞ」


 公爵はこれ以上、何も言えなかった。



 元々は魔族軍の国内侵攻は公爵の手引きだった。


「魔族軍に書簡だ。シャロンは白馬に乗り、派手なピンクの鎧をつけている。討ち取って、手柄にいたせ」


「しかし、父上、今のうちに兵を王宮に進めれば?」


「馬鹿、復讐に燃えた遠征軍が王都に迫ってくるぞ。3万人だ。そして、我が騎士団は3千人だ。さすがに勝てぬ」


「まあ、お父様、シャロン殿下は、床に落ちたお菓子を拾うほど強欲ですわ。ドレスと宝石で釣れば如何でしょうか?」


「グレディ殿下は調略には屈しなかった。だから、オーガを呼んだのだ。シャロン殿下は強欲で愚かだと思ったから調略はしなかった・・今更、もう遅い」


「でも、シャロンですよ」




 一方、シャロンが、戦場に着くと。ムカデ族の族長は驚愕した。



「馬鹿な。なんて、デタラメな対抗戦力にデタラメな布陣、こんな話は聞いたことないぞ!」


「族長、どこに行っても王国軍がいます!」



 シャロンは、兵の半数以上を索敵に使った。索敵の一部隊でもオーガでは殲滅不可能だ。戦っているうちに全軍が集まるであろうと予想された。



「軍の半数を索敵に使うなんて聞いた事がないぞ」


 シャロンは初日に山に登り。

 何かを地図に書き込んだ。



「シャロン殿下、ここは戦場ですぞ。物見遊山ではございません」

「分かるの~、大学時代は山岳部だったの。山を見れば、道筋が分かるの~、まるで支流があつまり大河になるように盆地があるの~、ここに主力を隠すの~」


「ダイガク?サンガクブ?」

「何でもないの~」


 そして、わずかな護衛を引き連れ、村々をまわり。

 そこで食事にした。食べきれないごちそうを並べ。


「皆ももったいないから、食べるの~」

「「「ありがとうございます」」」


 村人に食事を振る舞い。自身は派手なピンクを着て、ご褒美の催促をする手紙を書く毎日を送った。


 しかし、その動きは敵に捕捉され。


 魔族軍は乾坤一擲の一打に出た。


 待ち伏せだ。



「あのピンクの鎧が大将首だ」

「あの女を撃てば、敵軍は混乱するぞ!」



 それに対して、シャロンは戦おうとせずに、涙を流し叫び声をあげ逃げた。



「ヒィ、逃げるの~、皆、シャロンを守るの~、怖いから一緒に逃げるの~」


「はあ?殿下、1人で率先して、逃げて・・・もう、仕方ないな。皆、殿下の後をつけろ!」

「「「了解」」」


 シャロンの逃げる様は、オーガの被虐の心に火をつけた。



「奴をやれば、総崩れだ」

「たまんねえ。どうやっていたぶってやろうか」

「馬鹿、人質にするのだ。指を一本ずつ折って敵陣に送るのだ。奴は王族だ。逃げられるぜ」



 オーガは全軍で追ったが・・・気がついたら。



「何だ。ここは、敵のど真ん中ではないか?」


 およそ、盆地に配置された1万の軍に取り囲まれた。待ち伏せをしたはずが待ち伏せをされていたのだ。

 戦国時代の日本で云えば、『釣り野伏』の戦法である。



 オーガたちは。

 詠唱する間もなく、剣技を見せる間もなく。


 千の矢が降り。千の槍が突撃し。千の盾に守られた軽歩兵が後ろから石を投げた。


 戦力の二乗の原則。

 1対10の戦力差なら、1対100になる。


 この場合、人族軍1万人、魔族軍300人は1万対9に相当する。


机上の空論であるが、現実に圧倒的な戦力差でオーガを撃滅に成功した。



 残ったのは、族長と側近数体であった。


 あれほど、泣き叫んでいたシャロンは平然と捕らわれた族長の前に出た。


 族長はこんなふざけた奴に負けたのかと思いながらも懇願する。


「最後に戦士の戦いを所望する!一番強き者と戦わせろ」


「却下なの~、女子供を殺した時点でお前は戦士じゃないの~、内通者を教えるの~、おかしいの。お前達がここに現れるのは内通者がいなくては無理なの~」


「はん。オーガの誇りにかけて教えるものか」


「なの~、鉱山地区で、オーガの家族を捕捉したの~」

「な、何だと、それは見逃してくれ!頼む」


「受け入れられないの。お前達は人族の女子供を殺したの。でも、取引なの~、内通者を教えるの~、族長は王都に戦利品として引き回されて拷問されるの~、だけど、家族だけは見逃してあげるの~」



「わ、分かったが、それは、どうやって保障する?保障してくれなければ、何も話さないぞ!」



「その耳飾りを耳ごともらうの~、その耳飾りをオーガの女子供が隠れている坑道に投げ込むの。そしたら、敗戦を悟るの。逃げるように説得するの~」


「おお、有難い。耳を切れ!」



 だが、洞窟まで族長を連れて行き。現場を見せたが。



「・・・シャロン殿下、オーガの家族たちは・・・鉱山の毒でなくなっています。廃水を飲んだのでしょう」


 もう、すでに、シャロンが3万人の軍を進めた時点で積んでいたのだ。

 族長は鉱山の知識はない。洞窟と同じだと思って、非戦闘員を坑道に隠した。



「そんな。馬鹿な。・・・」


「お前は馬鹿なの。約束は守ってもらうの~」



 開戦から四ヶ月、当初、グレディのクランが予想した期間内にシャロンは王都に着き。

 茫然自失をしたオーガは公爵家の関与を表明した。公爵家の領地に居住がエサであったのだ。

 公爵家は全員処刑になり。

 王国内に潜む獅子身中の虫の退治にも成功した。


 シャロンは王宮でたどたどしく幼児言葉で戦果報告した後。


「ご褒美欲しーの」


 と皆の前で懇願したとされる。



 その夜。


 シャロンはこっそり修道院に訪れた。義姉、グレディが追放された修道院だ。



「シャロン、どうしたの?失脚した私にかける言葉なんていらないわ」

「お義姉様は敗者ではないの。たった一度だけしくじりをしただけなの~」


「でも、私は大勢の未来の王国の幹部を死なせたわ・・」

「お医者さんも大勢死なせて腕をあげるの~、1人も戦死者を出さない騎士団長はいないの~」


「でも、私は・・・そうね。やるべきことはあるわ。この国は銀で潤っているけども、平民にまで富が行き渡っていないわ。銀鉱山が枯渇する心配もあるわ」


「そうなの~、やっぱりお義姉様が女王に相応しいの。だから・・・今までもらったネックレスやドレスを返すの~、資金にするの~」


「シャロン、貴方はどうするの?」


「お義姉様は能力だけではなく人望もあるの~、シャロンはご褒美をもらったから外国で暮らすの。バイバイなの~」



「まさか、貴方はお父様の猜疑心と、公爵の謀略を全て見切っていたの?だから、欲しがりで油断させたの?」


「たまたまなの~」


 シャロンは、山と積まれた宝飾品とドレスを荷台ごと修道院に置き。

 懇意にしていたメイドと爺やだけをつれ旅だった。


 特に、王国にはシャロンを探す動きはなかったと記録にある。


 しかし、現場の下士官からは、シャロンの作戦は偶然だろうけども理にかなっているとの声が大きかった。

 これが、『女神様のきまぐれ』か・・と驚嘆したと云う。


 そのシルバーランドの戦いは後世に残ることになる。






 ☆☆☆30年後、魔王城近郊


 異常事態が起きている。今までの対魔王軍戦略が見直され。

 100万と号する兵力で3万体が籠城する魔王城を取り囲んでいる。



「・・・勇者殿、これが、私が若い頃、我が祖国シルバーランドで聞いた軍略ですぞ。私は侯爵家で討伐の責任を取り。部屋で軟禁されていました。

 シャロン殿下の戦法は大軍を索敵、陽動に使います。今回は打撃軍を魔王城に送り込みます。魔族の1人1人は強いが、人族はそれを凌駕する人口があります。理解されたかな。若き勇者リヒト殿」



「老師オルト殿、いや、分かったけども、100万の軍勢で攻め込むのは・・・助かるけどさ、何かこう、成長がないというか・・・」


「何を言いますか。昔の勇者パーティーは、金を稼ぎながら旅をし、余計なことに気を使いすぎです。

 その間にも民は魔王軍による侵攻に悩まされているのですぞ。その聖剣でなければ魔王を倒せません」


 その時、ローブを羽織った魔道師が老師オルトと勇者の会話を遮った。


「勇者パーティーの皆様!これより、魔王城付近に布陣している魔王軍に爆裂魔法の飽和攻撃をします。空爆もします。その後、空いた道を通り。魔王城に侵攻して下さい!ご準備を」



「アハハハ、老師の言う通りだな。皆の者、準備をしよう。ところで、この戦法を編み出したのは、その時の欲しがり姫、シャロン殿下と聞いたが・・・良く記録が残っていたな。老師は参加しなかったのだろう?」



「この策はメアリー殿です。ほら、ザルツ帝国の第四皇子妃です。今は女神圏総本部で殿下ともども、対魔王軍対策をされているとのことです」



「もしかして、メアリー妃が、現シルバーランド女王陛下の義妹のシャロン殿下では?転生者との噂があるが・・」


「うむ。私はシャロン殿下の顔を知っています。内密に話そう。・・・と、爆裂魔法が始まりますぞ!」


「分かった。老師!」



 ザルツ帝国のメアリー妃は突然社交界に現れ才媛との評判を得た。

 シルバーランドなまりの大陸共通語を話すが、出自は不明である。

 幼児言葉は話さなかった。


 しかし、メアリー妃がシャロンであった説は有力である。







最後までお読み頂き有難うございました。

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