前編
社交界のシーズンが終わった頃、凶報が王宮までもたらされた。
「大変でございます。魔族軍が襲来しました。鉱山守備隊は全滅です!」
「規模は?」
「数百、オーガでございます」
「何だと」
魔族のオーガの一部族が襲来したとの報がもたらされた。
オーガとは騎士の実力に、魔道師級の魔法も使える。1体で2兵種だ。
しかも、占拠した場所はシルバーランド北方、国号にもなった銀鉱山である。
王家直轄地でもある。険しい山々で防備が手薄になっていた。
すぐに、王宮に廷臣達が集められた。
厄介な場所だ。
当然、騎士団による討伐の話になったが。
国王は一計を案じた。グレディに功績を立てさせるためだ。
「如何にオーガと言っても数百だ。騎士団を動かすほどではないだろう。グレディよ。考えを述べよ」
「はい、確認したところ、魔族の政争に破れた一部族ですわ。勇者討伐にならい精鋭を投入するべきですわ。
後の魔王討伐の演練にもなりましょう。私は魔道を少々使えます。私の友人達と向かいますわ」
「うむ。グレディよ。頼もしい。凱旋式の準備をしておこう。この戦いの功績で王太女に正式に決めるぞ」
「はい、陛下、しかし、まだ、勝ってはおりません。油断禁物ですわ。
私の学園の友人、近衛騎士団の子息、ウェーバーは剣聖の実力の持ち主です。
宮廷魔道師団長の子息、ソロンはもう上級魔道を習得しております。
実習で知り合った冒険者にネームドのタンク、サムソンがおります。
それぞれ実力のある友人を連れて来てもらいますわ。
また、宰相閣下の子息、オルト殿は調整能力に長けています。情報・兵站担当をお願いしますわ」
「さすが、グレディよ。もう、調整が終わったか。どこかの強欲な姫とは大違いだな」
強欲な姫とはもちろんシャロンのことである。
シャロンは、グレディをジィと見つめていた。
全くの上の空だ。
「シャロンよ。一応、聞いておく。もし、仮にだ。お前が魔族を討伐するとしたら、どうやって行う」
「あ、はい、お父様、お義姉様のドレス、素敵だなと思っていましたの~」
「陛下と呼べ。全く、この言動で成績だけは良いとは女神様は不公平だな。魔族討伐だ。お前ならどうする?」
「はい!王国軍全投入による討伐なの~」
「全く話にならない。万を超えるではないか?12人子供をもうけて、残ったのはグレディとシャロンか」
男子に恵まれなかった王は、側妃たちと子作りに励んだが、生まれた子は全員女だった。
その中で残ったのが、正妃の子グレディと男爵令嬢の子シャロンである。
シャロンの母は男爵家出身である。
女児を産んだ後、速やかに王宮を辞した。
王は諦め。女子でも後継者で良いかと思うようになったが、この王、猜疑心が強く。部下の作成した計画に必ず一言口を挟む趣向があった。
野心のある王女は国外に政略結婚で嫁入りさせ。
婚約者の家に謀反の疑いがあれば処刑、
凡庸以下であるからと母親の実家に追放。
そして、シャロンは、本来なら母親の実家に追放である。強欲であるが、無駄に成績は良かった。
成績の良さと言動の幼さには『女神様の気まぐれ』とも揶揄された。
「良い。シャロンは離宮に行け。追って沙汰を出す」
「はいなの~、陛下・・・」
「何だ」
「この後のパーティーに出席して良いかなの~」
「好きにしろ」
もう、グレディ姫が王太女に決まりだと誰もが思った。
グレディは学友達を集めた。未来の王国を担う頭脳になる精鋭達である。
「グレディ殿下、オーガと言え。敵は数百、行軍で一月半、討伐で一週間、帰りの行軍で一月半、予備を含めて、四ヶ月を予定しています。まあ、如何にオーガでも数百ならすぐに討ち取れるでしょう。それに政争で敗れた部族ですから」
「オルト殿、油断は禁物よ。でも、来るべき魔王討伐に、この中から誰か選ばれれば良いわね。皆、しっかりやるのよ」
「「「「はい!」」」
グレディ一行は150人に膨れ上がった。それぞれ信頼できる友人や部下を連れて来たのだ。
グレディはそのクラン長になり。軍師役にもなった。
戦場でも指示を出す。
「矢を放ち。その後、ウェーバーは剣士達を率いて突撃、その後をタンク職の半数が随行し、その後をソロン率いる魔道師が援護よ。奇策はいらない。正攻法でいくわ。
斥候職の方々は周りを警戒して、細部は皆様に任すわ」
「「「「了解!」」」」
魔族軍に連勝を重ねたが。
「グレディ様、魔族軍が見つかりません」
「そんな。オーガが逃げるなんて」
「殿下、山向こうにオーガらしき影があります」
「そう、行くわよ」
しかし、急行したら、オーガが作った偽陣地に、草木で作った人形が置いてあった。
「そんな。オーガが策を使うなんて・・」
「オルト殿、糧食は?」
「まだ、余裕はあります。しかし・・・追加の要求をだしたら、殿下の名が落ちるかもしれません」
「馬鹿ね。要求を出しなさい。私の名なんて、どうでも良いわ」
しかし、その手紙が王宮に届くと、意見具申をする者が出た。リーベルク公爵である。
☆☆☆王宮
「うむ。軍糧と武器の追加要求か・・・」
「陛下、オーガなどたかが知れています。恐れながらグレディ殿下は軍糧を集め。謀反を起す気かと」
「送らないわけにはいかないが、要求の半数を出そう。その代わり半分を現地の村々から供出させよ」
一方、その頃、グレディは深刻な事態に陥っていたと気がついた。敵の正体が分かったのだ。
「オルト様、ご命令頂いた調査の結果が出ました」
「ご苦労、殿下、国外の情報ギルドに依頼したオーガの調査依頼が来ました」
「さすがね。オルト、その書簡を見せて・・・」
グレディは調査結果を読み。驚きの顔を隠せなかった。
「何ですって、敵は、魔王軍ですら破門になったムカデ族・・・女子供も無意味に殺す凶悪集団・・・政争に敗れた弱小部族ではなかったのね」
その時、まるで重なるように凶報がもたらされた。
「殿下、大変でございます。村が襲われていました。女、子供も嬲られ木に吊されています」
「い、行きます。全員で行きますわ」
村を見て呆然とした。家は焼き払われ。まだ、煙がくすぶっていた。食料庫は襲われている。
何の脈絡もなく襲われた村、生き残った村人たちが呆然としていた。
これでは食料の供出を命じるところではない。
1人の少女が、泥にまみれた落ちた麦を拾っている。オーガが運び出すときにこぼしたものだ。
グレディはたまらず声をかけた。
地に落ちた食べ物を拾う姿にシャロンを重ねたかもしれない。
「貴方、何をしているの?それはとても汚いのよ」
「グスン、姫様?オーガが父ちゃんを殺したよ。私は竈に隠されて助かったよ」
「そう、こちらも、食料は余裕ありませんが、拾うのはやめて、麦一袋を差し上げますわ」
「いらないよ。貴方たちもこうなるのでしょう。飢饉は経験済みだい」
戦いにおいて、基礎となるものは、士気である。
今まで、どこか個人技だけを磨いてきた貴公子たちは戦慄とした。
ただ、経験のある冒険者は敏感に察知した。冒険者サムソンは気休めを言うが、貴公子達には通じなかった。
「まあ、考えたって仕方のないこって、次、挽回すれば良いでしょう」
「はあ?この平民が、この近辺だけで18カ村あるぞ!いいな。冒険者は稼ぎ時だ」
「何だと、お前ら貴族が、きちんと守らないから、こうなっているのだ。村が盗賊で消えるなんて、珍しいことじゃねえよ」
「オルト、サムソンに謝って、サムソンの言う通りよ」
やがて、食料はつき。決戦を挑んだが。オーガは出てこない。食料は半分しか届かなかったのだ。
村々は警戒し、柵を築き供出を拒否した。
「そんな。オーガは戦士で短気じゃないのかよ」
「グレディ殿下、逃げて下さい。オーガが総攻撃を仕掛けて来ました。このサムソン、盾になりますから、その間にお逃げ下さい。姫様が逃げなければ誰も逃げられないって話ですよ」
「分かったわ。サムソン、少ないけど最後のパンを置いておくわ。私は装身具を路銀にするから大丈夫よ」
「パンは持って行きなさい。全く、貴族ときたら・・撤退戦を知らない。飲まず食わずで逃げるものですよ。さあ、馬に乗りお逃げ下さい」
「僕は宮廷魔道師の息子、盾には魔道師がコンビだ。僕も残る」
撤退戦で開戦初期の士気を取り戻したが、もう、遅い。
グレディは泣きながら馬に乗り撤退をした。
皆、バラバラに逃げ何とか半数は助かったが、その後は地獄の撤退戦を味わう。
敵はオーガだけではなかったのだ。
戦場に群がる武具漁りに狙われ、ウェーバーは命を落とし。
生き残りの半数が亡くなった。
グレディは馬の上から装身具を投げつけ。注意をそらし。
何とか、オルトと少数の貴公子たちと王都圏までたどり着いた。
その姿は、
「私は第一王女グレディですわ。この者たちは貴族の子弟達です。宿と・・王宮への連絡を所望しますわ」
「え、新たなコジキ商売かよ」
コジキにしか見えなく断られたと云う。
それでも、王宮でグレディを見かけたことにある男爵が、
「グレディ殿下、お労しい。湯浴みと着替えを、伴の方々にも食事を差し上げろ」
グレディは下町をまわる。シャロンの言う通り。王宮からの残飯を売る商会があり。貧民が群がっていた。
グレディは何か想うことがあった。
「私に出来る事は敗戦を受け入れることね。男爵殿、私をすぐに王宮まで連れて行って下さいませ」
「はい、畏まりました」
王宮にて、陛下は慰労することなく。
「期待外れだ。修道院に行け!その他の貴公子たちは謹慎だ!」
その後、王宮では喧喧ガクガクの会議が開かれたが。リーベルク公爵が討伐に手をあげた。
「私どもにお任せ下さい。公爵家軍だけでオーガを退散させましょう。我が長子は軍略が得意です。次子は剣が得意です。長女は魔道でございます」
「う~む」
失われた銀鉱山は王族の名で取り戻さなければならないと王は考えた。
残った王族、そう言えばシャロンはまだ修道院に行かせていない。
離宮にいるはずだ。
「シャロンを呼べ」
「は?あのシャロンを」
かくして、シャロンは再び王宮に舞い戻ることになった。
最後までお読み頂き有難うございました。




