そして始まる新生活
確認はしておりますが、文章に一部不自然な箇所などがあるかもしれません…
その日の夜。俺は乙木さんと共に乙木さんの父親に事情を説明。住込みで働かせてほしいということをお願いし、無事に許可が出た。俺が未来から来たということについては案外すぐに納得してもらえた。
「桜木翼です。よろしくお願いします!」
そして翌日。今日から早速住込みバイト生活が始まる。
「うん、じゃあ今日からよろしくね」
そう言って俺にやさしい笑みを向けてきてくれているのはここのオーナーで乙木さくらさんのお父さん、乙木大地さん。47歳で、この喫茶店は先代から受け継いだものなんだそう。背丈は俺よりも少し高く、白のカッターシャツに黒のカマーベストを身に着けており、整えられた顎髭も相まって、俺的にはまさに喫茶店といった感じだ。と言っても、俺のいた時代にそんな典型的な格好をしている人はなかなか珍しかったが。
一通り仕事に関する説明を受け、いよいよ営業開始の時間となる。俺と大地さんで開店の準備を進めていたところ、上の居住スペースから学生服姿のさくらさんが下りてきた。今日から学園の2年生らしい。
「おはよー。お!桜木くん結構制服似合ってるじゃん!」
俺も、今日からの仕事に際して、制服を貸与してもらっているのだが、さくらさんはそんな俺の制服姿をまじまじと見つめてくる。
「そう言ってもらえてうれしいが、恥ずかしいからあんま見ないでくれ」
アニメ好きとしてはうれしいシチュエーションではあるものの、いざ実際にやられるとこの上なく恥ずかしいものだ。とくにさくらさんはかわいいから尚更、、、って、いかんいかん。余計なことを考えている暇はない。仕事をしなければ。
「そっか。まあ頑張ってね!」
そう言うとさくらさんは居住スペースの玄関口から出て学校へと向かっていった。
● ● ● ●
「桜木君、もういい時間だし、一旦お昼ご飯食べて昼休憩にしようか」
時刻は12時。レストランなどは今頃鬼混みしている時間だろうが、ここは喫茶店。一般に15時前後がピークとされており、この時間帯の客の量は少ない。そもそも、昼休憩をとる喫茶店がほぼないのだろうが、いかんせんこの時間は今日から入った俺を含めて2人。開店から閉店まで断続的に営業を続けるのが厳しいくらいには人手不足なのだ。
店に残っていた最後のお客さんが去ると、大地さんが店の入り口に提げられた札を「close」に変える。
「じゃあ、ご飯にしよっか」
「はい」
そうして俺たちは階段を上がり、居住スペースに移動した。
「どう?この仕事やっていけそう?」
「はい。やっぱり俺の感覚からすると100年前の喫茶店ですから、俺がいた時代の喫茶店とシステム面とかが大きく違っていて、そういう面でも面白いと思います」
「そうか。まあ、やっていけそうならよかった。うちも人手が足りなくて困ってたから助かるよ」
「そう言ってもらえるとありがたいです。ところで、昨日も思ったんですけど、俺が未来から来たって説明した時に、割とすんなり受け入れられてましたけど、驚いたりはしなかったんですか?」
俺は昨日の夕食の残りの肉じゃがをつまみがら聞いた。俺は、昨日から少し不思議に思っていたのだ。ふつう、「未来から来た」なんて突拍子もないことを言われてもすぐに信じる人なんていないだろう。俺のいた100年後の人間なら、タイムマシンの開発自体は進んでいたし、すぐに納得することもできるだろうが、俺が歴史の授業で習った範中で言うと、この2020年代はまだタイムマシンなんて技術はまだ存在していなかったはずだ。それとも、彼はなにか時間遡行について知っているのだろうか、、、いや、それはないな。
そんなことを考えていると、大地さんが口を開いた。その表情は先ほどまでと比べて暗い。
「それは、、、まあ、ちょっとね。まあ、桜木君が気にする必要はないよ。それより、ご飯食べ終わったらまたお店よろしくね」
なんだか答えを濁されてしまった。まあ、信じてもらえているなら今はそれでいいか。
● ● ● ●
「おつかれ!明日からもよろしくねっ」
営業終了後、俺はさくらさんにそう声を掛けられた。今日は始業式だけで早帰りだったとのことで、午後の営業の14時くらいから手伝いに入ってきてくれたのだ。人は宝。ここは地元ではかなり有名店らしく、ピークの15時ごろは正直3人でも大変だった。
「きょうはありがとう。助かったよ」
「べつに、手伝ってるのはいつものことだよ。こっちこそありがとう!初日、どうだった?」
「結構楽しかったよ。100年前の価値観とか文化を知れてすごく面白い」
「それは未来人ならではの感想ですなー」
「まあね」
そんな会話の後、俺は彼女に気になっていたことを聞いた。
「そういえばさ、あんまり聞かないほうがいいことなのかもしれないんだけど、さくらさんのお母さんは今どこに居らっしゃるの?」
俺が昨日、大地さんに挨拶した日に、お母さんにも挨拶をと思い、大地さんに聞いたところ、今は居ないので大丈夫と言われたのだ。
「お母さんは今は遠くで暮らしてるんだって。私も見たことない」
「見たことないって、いくら遠くに住んでてもたまに娘の顔ぐらい見に帰ってきそうなものだけど、、、」
「そう思って、何回かお父さんに聞いてみたりもしたんだけど、毎回、忙しいんだって返されるんだー。不思議だよね。何か裏でもあるのか?!とか思っちゃう」
そう言ってさくらさんは笑った。しかし、その顔はどこか浮かばれないようにも見える。
「まあ、いつかきっと会えるよ」
俺がそう言うと、彼女は少し驚いたような表情になって、
「桜木くん、気づかいとかできたんだ」
と言われた。特別気を使ったわけでもなかったけど、、、ってか、失礼だなおい。
俺が黙り込んでいると、彼女は「じゃあ、また明日」と自室へ戻っていってしまった。
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