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別れ

夜が明けて少しだった頃、少し田舎だが栄えている京の町の中にあるひときわ目立つ大きな屋敷と道場があった。その道場の前に少女が東の方に見える美しい朝日に目を細めていた。彼女の名は鈴音(すずね)。まだ15の娘だ。鈴音の前に経っている道場は両親の剣道場だ。鈴音は道場の長女だ。

「鈴音、見送りありがとうな。」屋敷から鈴音よりはるかに背が高い目鼻が整った美青年が出てきた。彼は鈴音の兄の(れい)だ。この道場の長男で年齢は鈴音の四つ上だ。長男と言うこともありこの道場を継ぐため江戸の町にある有名な剣道場に修行に行くのだ。

「零兄さん、無理言ってごめんなさい。零兄さんは、反対したのに」鈴音は申し訳なさそうに目を伏せた。「いいんだよ。一人で出発するより鈴音がいてくれた方が頑張れる。」零は鈴音に優しく微笑んだ。「まぁ、一人じゃなかったかも知れないが」零は苦笑した。鈴音は、「一人じゃない…?」と首を傾げた。すると「零様〜。遠くに行かれるなんて〜」と一人の町娘を続き町の若い女達が零に駆け寄った。

ーーそう言うこと…

鈴音は少し笑った。「見送りはありがたいが家の仕事は大丈夫なのか?」零は女達に囲まれると苦笑した。「大丈夫です〜。」「帰ってきたら甘味でも食べに行きましょうよ〜」と色んな声が飛んできた。「女に誘いなんてさせるか。落ち着いたら文でも送る。」『いつでも待ってます〜』女達は嬉しそうにしながら朝げの時間だと零に別れを言うと家に戻って行った。

ーー朝げにしては、早い気がする。もしかして気を使ってくれたのかな?

鈴音は嬉しさと感動で胸がいっぱいになった。「さて、そろそろ行くか〜」零は朝日に手をかざした後鈴音に優しく微笑んだ。

鈴音は行かないで、と零の羽織を掴んでわがままを言いたくなったがそっとしまった。「行ってらっしゃい。零兄さん。身体には気をつけて、帰りを待っているからね」鈴音は精一杯微笑んだ。「行ってくる。鈴音、身体には気をつけろ。そして下の子達をよろしく頼むな。けど、決して無理はするな。」零はそっと鈴音を抱き寄せた。鈴音は驚いたが零の、胸元の着物の布をぎゅっと掴んだ。「行ってくるな。鈴音、気をつけろ」零は、安心させるように優しく微笑み鈴音の頭を撫でた。「いってらっしゃい」鈴音は、少し微笑んだ。「帰ってきたら、甘味でも食べに行こう。」零の言葉に、鈴音は「甘味〜」と目を輝かせた。そんな、鈴音に零は、「だから、そんな悲しい顔するな」と鈴音の肩に手を乗せた。鈴音は、驚いて目を丸くした。「行ってくるな。」零は、もう一度鈴音の頭を撫でた。「気をつけて、いってらっしゃい」鈴音の笑みは、安心と心配の笑みに変わっていた。

♢♢♢♢

ーー零兄さん…さて、しっかりしなくては

鈴音は気を引き締めるように長い黒髪をぎゅっと縛り零の温かみを胸に感じ屋敷の中に入って行った。

屋敷の中に入ると子供の泣き声がし鈴音は顔色を変え声が聞こえる方に走った。

「父上様!!何をして…」鈴音は末の弟の末吉(すいじ)殴られているのを見つけ急いで庇った。「お前、邪魔すんな。」鈴音の父親源蔵(げんぞう)は鈴音の髪を引っ張ると壁に頭を打ち付けた。「うっ...」鈴音は口の中が血の味がし血を吐き畳が紅に染った。「チッ汚ぇな。それにお前そんな事で泣いて男として恥ずかしくないのか?!」源蔵は末吉をまた殴った。「辞めてあげてください。末吉は…ま…だ六つだから」鈴音はふらつきながらも末吉の前へ立ち源蔵を見上げた。「チッ、零がい無くなったから次はお前の番だからな」源蔵は振り返り入口の方を見た。すると少し開いた襖から妹と弟二人が怯えた様子で覗いていた。「お前ら!!そこ掃除しとけ!!それまで飯はねぇからな!!」源蔵は部屋を後にした。「義姉上大丈夫?」鈴音の二個下の妹雫玖(しずく)が鈴音の腰を摩った。「大丈夫。ごめんね。心配かけちゃって」鈴音は雫玖に優しく微笑んだ。

雫玖は次女でしっかり者で気がとても強く道場に来る男が黙るほどだ。

「鈴音姉、手伝う。鈴音義姉さんは休んでて」雫玖は雑巾で血を拭いた。「いいよ。雫玖、私がやるから。雫玖は神楽(かぐら)さんの朝餉の準備手伝っておいで」鈴音は雫玖の手を優しく握り空いている手で雫玖の頭を撫でた。「で、でも!!やらないと鈴音姉さんが…」雫玖は声を上げたが鈴音の優しい笑みでしぶしぶ台所に向かった。

「鈴音義姉ちゃん大丈夫?」鈴音の四個下の弟悟る(さと)が鈴音の肩に触れた。悟るは恥ずかしがり屋だが心優しい子だ。

「大丈夫だよ。心配かけてごめんね。」鈴音は優しく微笑んだ。「鈴音お義姉ちゃん…ごめん。俺…男の子なのに」末吉が泣きながら鈴音に抱きついた。「大丈夫。末吉はまだ幼いから心配する事ないよ。弱音を吐いたっていいよ。」鈴音は末吉の頭を撫でた。

ーー零兄さん…いつも私達の代わりに庇ってくれてたんだ…今は、私が頑張らないと

鈴音は崩れた髪を結び直し気合を入れた。

父親の源蔵は暴力が多く、鈴音が十になるまでに十人以上兄や姉や妹や弟がいたが暴力で亡くなり今は五人兄弟になった。そして、兄弟だけではなく源蔵は妻が六人いたが逃げたり暴力で亡くなり現在一人だけとなった。ちなみに鈴音と零は同じ母親に生まれたがその母親は暴力に耐えきれなくなり二人を置いて逃げたのだ。今この屋敷にいる嫁の神楽は、既に子供を亡くしておりその償いかその他の兄弟を優しくしてくれ、鈴音、零()()の三人は本当の母親だと思い慕っていた。

♢♢♢♢

零が修行に行って半日が経った。鈴音は零に代わり暴力を受けていた。鈴音は身体と共に精神までまいってしまった。それでも鈴音の楽しみは兄から来る文だった。

そして今日も鈴音は源蔵に蹴られ、髪を引っ張られ壁に頭を打ちつけられていた。「…うっ」鈴音は骨まで届く痛みに耐えていた。近くには下の子達が殴られ泣いていた。

ーーごめん、零兄さん…守れなくて…

鈴音は意識がふわりとしてきた。すると何処からか燃えている煙の匂いと音がした。「何事だ?」源蔵は部屋を出ていこうと襖を開けると刀を構えた男三人が源蔵の喉に刀を近づけた。

鈴音はその人達を知っていた。この人達は源蔵の勝手な事情で道場を辞めさせられた人だ。

「職が無くて、借金抱えてんだよ。お前とその家族には死んでもらう」男は源蔵を切りつけ血が飛び散り源蔵はその場に倒れた。男は次に末吉の首に刀を滑らせ

血が吹き出し末吉はその場に倒れた。「ま…っ」鈴音は身体に力が入らず庇えなかった。男達は次に次に兄弟を殺していき、鈴音にたどり着いた。「お前、この屋敷の長女だな。怖いな〜兄弟を見殺しにしちまって」男がしゃがんで鈴音を笑った。鈴音の中で何かがプツンと切れた音がした。「ゔぁー!!」鈴音は懐に忍ばせた桜柄の小刀を取り出し、男達に飛びかかった。「おっと、さっきまで動けなかったんじゃないのか?罪滅ぼしか〜?」男は小刀を避けたが、鈴音はさらに素早く動き、男の胸に刀を指して抜いた。男はその場に倒れた。「くっ、逃げるぞ」残された二人の男は鈴音に怯えすぐさま逃げた。鈴音の体力は残されておらず、その場に倒れた。


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