66.エピローグ
ヨルムンガンドとの戦いから数ヵ月が経ち、私たちの日常には大きな変化があった。魔族領に帰った私たちは王国復興の支援を始めたのだ。
王国ではヨルムンガンドの眷族に破壊された建物が多いため、支援では建築に強い河童族が活躍している。その影響で河童魔貴族であるチマキは大変忙しくしていた。
現場で陣頭指揮を執り、河童族だけでなく現地の人族労働者たちも纏め上げる大活躍を見せていた。
竜族と天狗族は空を飛べる機動力を生かし、人材や建築資材の運輸を担当している。その指揮を執るオランジェット様とアタゴも忙しく各地を飛び回っていた。
ブールドネージュ様率いる鬼族は魔族一の力を生かし、瓦礫の除去や建築現場でその力を振るっている。
私も数多く残る怪我人や病人の治療や回復のためのポーション作りで忙しい毎日を送っていた。
こうした王国復興支援によって、魔族と人族との関係が少しずつ良好なものに変化しているのはいい傾向だね。
みんなが忙しく働いている中、今日は久しぶりに全員が集まる宴会が開かれるのだ。みんなと会えるこの宴会を楽しみにしていた私は久しぶりに外出用の服に着替える。最近は仕事ばかりだったからオシャレなんて久しぶりだ。
気分良く玄関の扉を開けた私は心を躍らせ会場となるブールドネージュ様のお屋敷へ向かった。
ブールドネージュ様のお屋敷に到着すると広い庭にテーブルが用意され、すでにブールドネージュ様、チマキ、アタゴの三人が集まっていた。
今日は各種族の代表だけが集まる小規模な宴会だ。三人ともお供を連れずに参加しているみたい。
でも、ブールドネージュ様だけは自宅だからガレットさんを筆頭に、数人の使用人たちが飲み物や料理料理を運びテーブルに並べていた。
シャルロットとオランジェット様がいないな。オランジェット様はともかく、シャルロットは自宅なのにどうしたんだろう?
「久しぶりだなスフレ。辺りを見回してどうした?」
「お久しぶりですブールドネージュ様。いえ、シャルロットとオランジェット様はどうしたのかなと思いまして」
キョロキョロと二人をを探す私に気付いたブールドネージュ様から声をかけられた。
「シャルロットとジェットか? もうじき準備も終わるだろう」
「鬼魔貴族様、聖女さんにも話してないのか?」
「そいつぁいいや。俺らもさっき聞いた時は驚いたんだ。スフレの嬢ちゃんも驚きな」
にっこりと微笑むブールドネージュ様は意味深に語る。
何だろう? まあ、ブールドネージュ様の事だから悪いサプライズじゃないとは思うけどね。
考えてもわからないのだからしょうがない。私は考える事を止め、用意された料理に舌鼓を打ちながらシャルロットとオランジェット様を待つ事にした。
「皆様お待たせしました。シャルロットお嬢様とオランジェット様の準備が整いました」
「そうか、みんな屋敷の入口を見てくれ」
しばらくすると、ガレットさんが準備ができたと知らせにやってきた。
何の準備ができたんだろ?
期待しながらブールドネージュ様に指ししめされたお屋敷の入口を見ると、ドレスアップされたシャルロットとオランジェット様が並んで登場した。シャルロットは王国風のウエディングドレス、オランジェット様は王国貴族の礼服を着ている。
えっ? これってもしかして二人の結婚式って事?
「みんな突然ですまない。今は我らも王国の復興で忙しい身だ。中々このメンバーで集まれる機会もなく急な式になってしまった」
「兄様が謝る必要はありませんわ。これは私とジェットで決めた事ですもの」
「そうだぜ。王国の復興を待ってたら俺らはともかく、スフレちゃんはおばさんになっちまうからな――痛ぇっ!」
「相変わらず一言多いですわジェット」
いつもの如く失言をしたオランジェット様にシャルロットがヒールのある靴で足を踏み付けた。
うひーっ! あれは痛そう……。まあ、悪いのはオランジェット様だからしょうがないね。
「はっはっはっ! やっぱり尻に敷かれてやがるぜオランジェットの小僧」
「いやいやアタゴの旦那。その方が夫婦円満だって聞くぜ」
笑いながら見物するアタゴとチマキをオランジェット様は不満そうな顔で見る。
「くっそーお前ら……他人事だと思いやがって」
「あら、嫌なのですかジェット? でしたら竜魔貴族として節度ある行動を心がけてくださいまし」
だが、ピシャリとシャルロットに言い負かされた。
かっこいい事言ってるけど、初めて会った頃のシャルロットも酷かったような……人は成長するものだなあ。
「何か文句でもあるのかしらスフレ?」
「いえとんでもない。そのドレス良く似合っているわ。とても素敵よシャルロット」
「ふふっ、ありがとうございます」
表情を笑顔に切り替えてごまかしたが、ドレスが似合っているのは心からの意見だ。
でも、なんで王国のドレスなんだろう?
「このドレスが気になりますか? これは私たちの結婚の話をした時、王国から友好の証としていただいたのです」
「そうなんだ。もうそこまで王国との関係性が良くなっていたのね」
これも私たちがみんなで戦って王国を救い、復興支援を続けてきた成果なんだ。
胸に熱いものが込み上げてくる中、ブールドネージュ様は私の肩に手を置き語る。
「私は人族を邪悪と決めつけ関係性を諦めていた。君のおかげで考えを改める事ができたよ。ありがとうスフレ。さあ、今日は妹と親友の晴れの日だ。盛大に祝おうじゃないか」
「ブールドネージュ様……そうですね。シャルロット、オランジェット様、おめでとうございます!」
私の祝いの言葉で宴会がスタートした。
結婚式なのにこれでいいのかな? と思ったが、魔族領では親しい者たちでお酒を飲んで祝うのが習わしなんだそうだ。
ちなみに魔族領のお酒は王国の物より美味しいので私も楽しみにしていた。
「スフレ、兄様との関係はどうなのですか? 少しは進展しましたの?」
「それが……シャルロットも知ってると思うけど、ここ最近はお互いに忙しくて会うのも久しぶりなんだ」
「ダメじゃないスフレ! 兄様は鈍感系なんだから自分から攻めなさい。凄くモテるのですから、他の女に取られる前にね」
宴会が始まりしばらくすると、ブールドネージュ様と私の恋を応援してくれているシャルロットからダメ出しされた。
そんな事ないと思うんだけど、シャルロットは心配性だなぁ。
「しょうがないですわ。ここは私に任せなさい。皆様少しよろしいでしょうか? あっ、兄様はそのままで」
「なんだよシャル。まだ飲み足りねえぜ」
「いいから、こちらにきてくださいまし」
シャルロットは任せろと宣言し、ブールドネージュ様を除いたみんなを連れて席を立ち、お屋敷の中に入って行った。
二人きりにしてくれたってことかな? ありがとうシャルロット。
「私たちを置いて何なのだ?」
「さあ? シャルロットにも何か秘密の話があるのでは?」
「そうだな。皆久しぶりに揃ったのだから積もる話もあるだろう」
ブールドネージュ様は納得したように頷いている。
ふう、何とかごまかせたみたい。
「ところでスフレ。魔族領にいてくれるのはありがたいのだが、今なら王国に帰れるだろう。本当に帰らなくて良かったのか?」
とても寂しそうな顔で話すブールドネージュ様を見て思う。長生きしているのに、本当に鈍感な人だ。私の気持ちに気づいていないのかしら?
「私はブールドネージュ様に大きな恩があります。それをお返しするまでは帰れません」
「では、それが終われば帰ってしまうのか? ……スフレ、私と共に暮らさぬか? 前にも言ったが、私は君を愛している。君の返事を聞かせてほしい」
嬉しい……シャルロットは心配してたけど、やっぱりブールドネージュ様はしっかりと私の事を考えてくれていた。ただ、お互い忙しくてタイミングが合わなかっただけなのだ。
私の答えは、
「はい、喜んで。死が二人を分つまで、貴方と共に生きて行きたいです」
返事を聞いたブールドネージュ様が私を抱き寄せる。そして、お互いの唇を合わせた。
ブールドネージュ様から私を想う心が伝わってくる。オランジェット様に無理やり奪われたファーストキスとは違う、愛を感じる幸せなキス。
王国で家族に捨てられた追放聖女の私も、隣国の魔貴族に拾われ新しい家族になれたようです。
~終わり~
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