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【連載版】追放聖女は隣国の魔貴族に拾われる〜聖女の私がいなくなると王国が滅びるそうですがよろしいのですか?〜  作者: ギッシー


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64.スフレとショコラ

「ああぁぁああっ!! 私の……私の中のヨルの力がなくなっていく……返して! 私のヨルを返してよ!」


 苦しげな絶叫から悲痛な悲鳴に変わったショコラは、浄化の炎に焼かれたヨルムンガンドを悼むように、瞳から大粒の涙を流しながら自身を搔き抱く。その様子は大切な人を亡くしたかのように悲痛なものであった。

 いつも強気で傲慢なあの子の泣いている姿なんて初めて見たわ……。


「ショコラ……貴方はヨルムンガンドに利用されていたのよ。その証拠に、ピンチになったら貴方を食べようとしたじゃない。どうしてそんな相手の味方をするの?」

「ヨルが私を利用していた? もちろんそんな事は知っているわよ! それでもヨルは、私を本気で必要としてくれた唯一の存在だった……いつも誰かに必要とされる特別な存在の貴方と違って、私にはヨルしかいなかったのよ……」


 いつもの自信に満ちた様子は影を潜め、弱々しくショコラは語る。


「貴方はいつもそう……常に必要とされる特別な存在。それが気に食わなくて王国を追放したのに、魔族領に行っても変わらないんてね。思えば私はそんな貴方が羨ましくて嫉妬して、大嫌いだったのかもしれないわ」

「ショコラ……」


 自分も誰かにとっての特別な存在になりたかった。そんな理由でこの騒動を起こしたっていうの?


「どれだけの人に迷惑をかけていると思っているの? そんな自分勝手な理由で世界を滅ぼそうとしないで!」

「同じ人間同士ですらわかり合えないのに、貴方みたいな化け物に私の気持ちはわからないわよ。それに、この騒動はまだ終わっていないわ」

「終わっていない? どういう事よ?」


 私の問いにショコラは意味深げにニヤリと笑う。

 まるで私をバカにするかのような笑いだった。


「そう、まだ終わっていない。黒雲の外にいるヨルの眷族は健在よ。私を倒したところで、すでに眷族たちが王国を滅ぼしているわ。つまり、貴方たちの頑張りは無駄だったのよ」

「そんな……!」


 元凶であるヨルムンガンドは倒した。でも、一点突破で黒雲に突入した私たちは外の眷族を殆ど倒していない。

 すでに黒雲の中に入って相当な時間が経過している。ショコラの言葉通り、眷族の生き残りが王国を滅ぼしていてもおかしくはないだろう。


「ヨルの力がなくなった事で黒雲も晴れる。その時、貴方がどんな顔を見せてくれるか楽しみだわ。ほら、黒雲が晴れてきたわよ」

「くっ……!」


 ショコラの言うように、徐々に黒雲が晴れて外の景色が見えてきた。

 だが、焦る私の見たものは崩壊した王国ではなく、魔族領からやってきた魔族たちの混成軍がヨルムンガンドの眷族と戦っている場面だった。


「みんな、どうしてここに……?」

「どうやら後を任せてきたNo.2たちが、予想より早く魔族領を纏め上げてきたようだな」

「ブールドネージュ様、ガレットさんたちがきてくれたんですね」

「ああ、勘のいいスフレが迅速な行動をとった事で、準備を整えるよりもスピードを優先したのだろう。本当に優秀な、自慢の仲間たちだよ」


 私の疑問にブールドネージュ様は誇らしげに答えてくれた。

 こうして眷属の侵攻を防げたのだから、私の単独行動も無駄じゃなかったって事だね。でも、眷族は毒持ちだから倒すだけじゃだめだ。毒を何とかしないと。

 私は聖属性の魔力を戦闘がおこなわれている区域に放つ。すると、ヨルムンガンドの眷族は消滅し、毒で汚染された大地が蘇っていった。


「ヨルの眷属が……穢された大地まで再生するなんて……! なんで何もかも上手くいかないのよ! ヨルは最強の邪龍じゃなかったの? 聖女は必ず殺すって言ったじゃない! 運命の出会いだなんて期待させておいて……こんなの酷いよぉぉ……!!」


 まるで親に叱られた子供のようにショコラは泣き喚く。

 しかし、そこには自分がやった事への後悔や反省は微塵も感じられない。あの子は善悪の判断がつかない子供と同じなのだ。

 泣きじゃくるショコラを見る限り、そう思えてならなかった。

 だが、子供だって悪い事をしたら罰を受けなければならない。

 罪を犯すとは子供だから許されるとか、そんな生優しいものではない。罪とは罰を受けて初めて精算できるものなのだから。

 ショコラには王国法に沿って、しっかりと裁きを受けてもらおう。


「我ら魔族が人族を裁く事はできない。スフレ、この子の裁きは人族に任せよう」

「はい。私もそう思っていました」


 立ち上がれるくらいに回復したブールドネージュ様からの提案に賛成する。

 魔族は人族との関わりを避けている節がある。理由は私もこの目で見たからわかるが、殆どは偏見によるものだ。

 だが、長い年月をかけて培われた思いはそう簡単には変わらない。今後、少しずつでも魔族の良さをわかっていってほしいな。


 私たちは泣き崩れるショコラを連れて、人族の国王が滞在している辺境伯領の町に戻る事にした。

 こうして私たちの因縁の戦いは幕を閉じたのだ。

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