63.最終決戦
「くそっ! あの女なんて迫力だ……近づけねぇ……」
「みんなここは私に任せて。今のショコラは危険すぎるわ」
好戦的なアタゴがいち早く攻撃しようとするが、ショコラの迫力に気圧され動きを止めた。
無理もない。目の前に相対するショコラは、パッと見では普通の可愛い貴族令嬢に見える。だが、その身の内にはヨルムンガンドの力が宿り、底知れない威圧感を放っていた。
みんなには悪いけどここは私に任せてほしい。
魔族領に行って能力が上がった事にくわえ、この戦いで力を使いまくった事によって私の力はさらに上がっている。
それに、ブールドネージュ様を傷つけられた怒りで、私の力はショコラに負けないほど跳ね上がっているのだから。
どうすれば聖女の力を操れるか、今の私には全てが手に取るようにわかる。
この身に流れる聖女の血に、遥か昔から積み重ねてきた研鑽が宿っているのを感じるのだ。
私は手首を噛み切り血を流す。その血液を操り剣と翼を形作った。
怒りの炎を宿した聖女の剣(私が即興で名付けた)と、空を飛ぶショコラと戦うための翼だ。
「あはははっ! そんな翼まで生やして、能力だけでなく見た目まで化け物じゃない」
翼を生やした私を見たショコラはおかしそうに笑い出す。
そんなに変かな? 私としては魔族の仲間入りができたみたいで気に入ってるんだけどな。人族の感覚ではおかしく見えるみたいだ。
「それでは化け物退治を始めましょうか!」
宣言と共に飛びかかってきたショコラは魔力で作り出した剣を振りかぶり斬りつけてくる。それを聖女の剣で受け、鍔迫り合いの状態になった。
感じる魔力から推測すると、毒属性の魔力を帯びた剣は掠り傷だけでも死に至るほど強力な物だ。
でも、私なら毒で死ぬことはない。多少身体に毒が入ったところで聖女の血が浄化してくれるからね。それでも痛いものは痛い。できるだけもらわないようにしなきゃ。
私とショコラは鍔迫り合いの状態から弾けるように距離を取った。
「誰が化け物よ! 私が化け物なら貴方は悪役令嬢じゃないの!」
「悪役令嬢ね……実によく私を表した言葉だわ! スフレ、貴方はこの悪役令嬢ショコラ・ハーベストによって殺されるのよ!」
嫌味のつもりで言い返した言葉にショコラはニヤリと嗤い、嬉々として毒剣を振り回し攻撃してくる。
何なのよこの子は! どうして悪役令嬢なんて言われて喜んじゃってるのよ! だったら私が、その腐りきった性根を再生してあげるわ! それが聖女ってものでしょ!!
「今日こそ貴方を殺してあげるわスフレ! 猛毒に焼かれて死になさい!」
毒剣から猛毒の魔力弾に攻撃を切り替えたショコラの弾幕が襲う。それを聖女の剣で斬って落とすが、全ての魔力弾を防ぐ事はできず何発かもらってしまう。
痛ったぁ! 想像以上に強力な猛毒だわ……今は数頼みの弾幕だから耐えられるけど、全力の一撃なら私を殺しうるわ……!
「私を許せないんじゃないの? 止めるんじゃなかったのかしら? やれるものならやってみなさいよ!」
「――くぅっ……!」
ショコラの激しい弾幕に私は距離を詰める事ができずにいた。
くっ……ショコラの奴強い……! このままじゃ本当に殺される……この聖女の剣さえ当てられれば、ショコラの吸収したヨルムンガンドの力を、浄化の炎で燃やし尽くす事ができるのに……よし! こうなったら覚悟を決めるしかないわ!
「ううぅぅおおぉぉおおおぁぁああああっ!!」
「――スフレの奴……特攻!? お望み通り猛毒で焼き尽くしてやるわ!」
その場に止まっていては的になるだけと判断した私は、ショコラに向けて一直線に突っ込んだ。
ショコラの放つ猛毒の魔力弾が私の肌を肉を焼いていく。
痛い……苦しい……でも! これは私にしかできない事なんだ! 絶対にショコラを止めてみせる!
致命傷を避けるため、私は聖女の剣を身体の正面に向けて急所を隠す。
いくら私でも頭や心臓を焼かれたら死ぬかもしれない。それ以外は我慢だ! 他の場所ならいくらでも焼かせてあげるわ!
「嘘でしょ……そんなに身体を焼かれてなんで止まらないのよ! 死ね化け物……死ね死ね死ね死ねぇぇええええっ!!」
聖女の剣に宿る浄化の炎なら、ショコラの中にいるヨルムンガンドの力を焼き尽くすことができるはず。私の勘がそう叫んでいるんだ。
「終わりよショコラ! 貴方は浄化の炎に焼かれて人族に戻るのよ!」
「ああぁぁああぁああああああっ!」
猛毒の弾幕を突破した私は聖女の剣をショコラの胸に突き立て、聖属性の魔力を全開で流し込む。
すると、聖なる炎に焼かれるショコラの苦しげな絶叫が鳴り響いた。




