60.ショコラの実力
「ほらほらどうしたのスフレ? 仲間に守られてばかりいて恥ずかしくないのかしら?」
「くそがっ! この化け物女……本当に人間か!」
「ちぃっ! 俺ら魔貴族二人相手に余裕かよ……!」
私に向けられたショコラの攻撃をアタゴとオランジェット様が防いでくれた。人族なら確実に、魔族でも一撃で死ぬレベルの光線だ。あの子の殺意は本物ね。
ショコラは私たちをバカにしたように嗤う。
「だからもう人間じゃないって言っているでしょう。魔族ってバカなのかしら?」
「っんだと手前――っくそ! なんて弾幕だ……近づけねえ」
ショコラの煽りで前に出ようとしたアタゴだったが、大量の魔力弾を放たれ動きを止められ近づくことができずにいる。
魔族最速とも言われるトップスピードを誇るアタゴだけど、動きを止められ長所を潰されていた。
「相手はアタゴの爺だけじゃねえぞ妹ちゃん!」
「見えているわよ色男! それに私は妹じゃなく義妹よ!」
「ぐはっ……! 何で世の妹はこんな強え奴ばっかなんだよ……!」
アタゴを相手にしている隙をついたオランジェット様だったが、弾幕の量を増やしたショコラに迎撃される。
強い妹ってシャルロットのことかな? 横目でチラリとシャルロットを見ると、頬をピクピクとしている。ご愁傷様、これは後で怒られるぞ。
人間砲台のごとく四方八方に魔力弾を飛ばすショコラに、私たちは魔族大結界の配置につくことができずにいた。
「このままじゃ結界を使うことができない。どうすれば……!」
「……聖女さん。おいらに策がある。ここは任せてくれねえか?」
チマキが足止めされて焦れる私の耳元に、そっと口を近づけて耳打ちしてきた。
「あの子を突破して魔族大結界の配置につけばいいんだろ? それならおいらの能力で何とかなるかもしれねえ。まあ見ててくれよ」
「わかったわチマキ、貴方に任せる」
河伯の不思議な力を操るチマキなら、この状況を打破できるかもしれない。
チマキは私の言葉に自信ありげに頷き、目を閉じて精神を集中させる。すると、チマキの身体から霧が噴出し、次第に辺りは白い霧に包まれた。
「みんなの魔力反応が消えた……! この霧が魔力を遮断している……?」
「お察しの通りさ聖女さん。おいらの生み出す霧は魔力を通さない。普段は逃げる時なんかに使うんだが役に立って良かったぜ」
「やるじゃないチマキ!」
チマキの能力は水を操る。霧も水の一種という事だろう。
そういえば初めてチマキと会った時も逃げたな。あの時は複数相手に追われてたし、精神を集中させなきゃならないこの霧は使えなかったのだろう。
器用なチマキはサポート役でこそ光るのかもしれない。
「奴らの魔力反応が消えた? この霧が原因……? これじゃ私の魔力弾が当たらないじゃない!」
「よっしゃ上手くいったぜ! みんな今のうちに配置につくんだ!」
チマキの生み出した霧によって私たちを見失ったショコラの叫びが聞こえる。
視界の悪い戦闘で叫ぶなんて自分の位置を教えているようなものだ。貴族令嬢であるショコラの戦闘経験のなさが露骨に出た結果だろう。
私たちはショコラに気づかれないよう移動し、事前に打ち合わせた五芒星を描く位置につく。後はブールドネージュ様が配置につけば五芒星が完成し、魔族大結界を発動することができる。
「今ですブールドネージュ様!」
「了解だ!」
「やらせるものか!」
そうはさせまいとヨルムンガンドは妨害に出た。
だが、私の呼びかけに答えたブールドネージュ様は聖刀に魔力を集める。すると、正眼に構えた刀身が眩い光を放つ。
「むうっ……小癪な!」
あの光は私が付与した聖属性の魔力を反応させたかな?
聖なる光を浴びたヨルムンガンドが一瞬怯んだ隙に、ブールドネージュ様も配置につく。四人の魔貴族、プラス私が所定の位置につくことで五芒星が完成した。これで魔族大結界を発動することができる。
配置についたブールドネージュ様が魔力を放出すると私たちを結ぶ線が光り出し五芒星を描く。ついに魔族大結界が発動した。




